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【 表 】
⑥
しおりを挟むリビングに戻ってみるとレイドは尻尾は出したままだが羽と角は消えていた。見事な銀鱗に見惚れていると、尻尾の先だけ色が淡くなっていることに気が付いた。
ソファに並んで座り、レイドが淹れてくれたお茶で一息ついてから話を切り出した。
「どうして私があそこにいるってわかったの?」
「わかったんじゃなくて探しただけだよ。ここに来たら外に乾いた洗濯物が入った籠だけ置かれてリセがいなかったから」
「でもそれならどうして私が逃げたって思ったの?」
「ほら、僕、竜人でしょ? 本来人間から怖がられるような存在だから、リセも急に我に返って僕が怖くなったのかなって思って」
「そんな、レイドを怖がるなんてありえないよ」
「そうだよね。よかったぁ……」
心底安堵したように漏らしたレイドの言葉に、胸が苦しくなってしまった。
そう言うということは、レイドは過去に人から逃げられたことがあるのだろうか。
だとしたらレイドはかつて、とても傷ついたのだろう。そう思うとさらに胸が苦しくなった。
「そういえば、さっき瞬間移動できる竜人がいるって言ってたけど、レイドも何かできるの?」
「ん~僕は世渡りがうまいくらいかな」
「えぇ? それはすごいことだけど瞬間移動とかとは種類が違うと思うけど」
「そうなのかな? 結構すごいって言われるんだけどな」
「まあ確かにすごいけど」
ふと、会話が途切れ寸秒の沈黙が訪れた。
窓の外から聞こえる雨音だけがやけに響き、何とも言えない空気が私達から醸し出されている。
照れ隠しすらできないような妙な緊張感の中、レイドの薄青の瞳と目線だけを絡ませ合う。
すると、レイドが隣に座っている私にグッと体を近づけてきた。
レイドから急に放たれる、なんともいえない空気に思わず生唾を飲むと、思ったよりも嚥下の音が大きかった。そしてその音をレイドは嬉しそうに目を細めながら聞き入った。
「ねえ、リセ」
「な、なに……?」
「さっき、レイドが私から逃げるならまだしも、私がレイドから逃げるだなんてありえないって言ってたけど、なんでそんなこと思うのかな?」
努めて優しい声が、まるで波紋のように私の中を広がっていくように思えた。
「僕がリセから逃げるなんて……そんなあるはずもない未来を、どうしてリセは、考えてしまったのかな?」
レイドの薄青の目が、柔らかく細まった。
どうしてだろう。
目も、声も、手つきも、微笑みも、全部全部が優しいのに。
繭に包まれているような、そんな柔らかさと優しさなのに、その繭から幾重もの粘糸が伸びていて、私の体に纏わりついているように思うのは、どうしてだろう。
それは心地いい、とは言い難い。
だけど今の私にとっては不快じゃない。
「私……レイドに依存しているかもしれないの……」
「え……?」
レイドの優しい表情から目を逸らし、無意識に祈るように組んでいた手を見つめながら言葉を漏らした。
「あ、ごめん……。今の言い方はズルかった。かもしれない、じゃなくて私はレイドに依存してる……」
「リセが、僕に……依存……」
「ご飯とか色々持ってきてくれるって言う生活面の依存もそうなんだけど……なんていうのかな。精神面というか……その、もしレイドがいなくなったら、って思うとすごく心細くて、怖くて……。ごめんね、急にこんな……。依存されるなんて気持ち悪いよね」
「全っっっ然!!」
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