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【 表 】
⑦
しおりを挟む間髪入れずに嬉々とした声が間近に聞こえ、思わず顔を上げた。
そこには恍惚を通りこして泥濘のように蕩けきった表情のレイドが、落ち着かなそうに目線を動かし体をモゾモゾと動かしていた。
「あああぁぁぁぁ。嬉しい……どうしよう! わぁ……嬉しいなぁ! 依存ってことは好きよりも上ってことだよね? つまりそれは愛してるってことだよね。いや、わかってたよ? わかってたけど、あぁ、でもこん~~~な嬉しいだなんて……! 苦労が報われるなんてものじゃない。え、無理。あ~~もう無理。無理無理無理。これ以上待つなんて無理」
「レイド……?」
「リセ、キスしよっか」
怯むほどレイドが急に私に近づいたかと思うと、薄青の目を裂くように瞳孔を縦に伸ばしながら甘い声で囁いた。
「キース、しよ? 嫌? 嫌じゃないよね?」
「い、嫌じゃないけど……その、レ、レイドは……キ、キス、したことあるのかなって思って……」
「僕?」
媚びているように甘ったるい声を放ったかと思うと、レイドは嬉しそうに顔をさらに近づけ小さなリップ音を鳴らしながら私の唇と自身を重ねた。
変わらず至近距離だがすぐに顔は離れ、赤くしているであろう私の顔を蕩けるような表情でじっとりと見つめた。
「リセとしかしたことないよ?」
「も、もう……! 今のはなんかズルい!」
「あははっ。ごめんごめん。でも全然足りないから、もっとキスしてもいい?」
「あっ、ちょっ、ちょっと待って……!」
許可をとってきたのに顔を近づけてくるレイドの口元に手を当て押し戻すと、レイドが不服そうに顔を少し離してくれた。だけど長い両腕はしっかりと私の体に巻き付き、大した距離はとれていない。
「なんで止めるの?」
「あ、あの、レイドは私のことが……す、好きって思ってくれてるってこと……?」
「え? うん。もちろん」
「それは私が恩人だからとかじゃなくて、女として好きってこと……?」
「あははっ! 今更なんでそんなこと聞くの? 僕はリセのことを愛しているし、リセのことしか好きじゃない。リセがいれば何にもいらないし、リセのために生きてる。ずっとそう言ってるでしょ?」
「そ、そんなこと言われたことないよ!」
今までレイドから軽薄な感じで「可愛い」などは言われたことは多々あるが、「好き」も況してや「愛してる」も言われたことなど絶対にない。それを言われていたら、私はレイドの優しさを恩義だと思って悩むことなどなかったはずだ。
すぐさま否定した私の言葉に、レイドはきょとんとした顔をした。
そしてすぐに何か弾けたように、高らかに笑い始めた。
「あっははははは! そっか! 今は言ってなかったのか! あーっははは! そうだ、そういえば次はあんまり言わないようにしようって思ってたんだった。っはは!」
「今? 次? どういうこと……?」
「あぁ、なんでもないなんでもない。……あぁ、でもそっか。リセは僕からの言葉がなくて不安だったんだね。ごめんね? 好きだよ、リセ」
「私の気持ち、依存かもしれないのに……いいの? ほんとに気持ち悪くない?」
「ん~、それってそこまで固執して気にすることなのかな」
レイドはひどく愉しそうにそう言うと、急に私を抱き上げてベッドへと向かった。そのあまりに自然さに言葉すら出なかった。
そしてさも当然かのようにベッドに横たわった私に覆いかぶさり、愛し気に髪を一房手に取って口付けた。
「好きも依存も、大元は相手に好感情を抱いているということでしょ? 要は言葉のイメージの問題なんじゃないかな。依存って言うと少し歪んでいるように思うけど、好きは良い。ッハハ、実に人間らしい考えだよね。僕にはさっぱりわからないや。――――でもね、リセ。君が依存のままが嫌なのなら、僕がその気持ちを「好き」に変えてあげるよ。もちろん僕は依存のままでもいいんだけどね」
「な……にを、するの……?」
「あぁ、そんな怯えないで? ほんっとに可愛いなぁ。怖いことも痛いこともしないよ。恋人なら当然することを、ただひたすらにするだけさ」
私は1年より前の自分が経験してきた記憶がないだけで、いつの間にやら身に着いた常識や知識はしっかりと覚えている。
だからレイドの今の言葉が何を指しているのかもわかってしまっている。だからこそ羞恥で二の句が継げなくなってしまう。そんな私を、レイドがあまりにも熱く見つめてくるから、余計に顔を上がらない。
「リセはこんな表情ができたんだね……。長く一緒にいたというのに知らなかったよ……」
「長くって言っても1年だよ? そうだ、結局レイドは私になんの恩を返しをしてくれてたの?」
今まで何度も聞いたことだが、今なら答えてくれるのではと思い聞いてみると、レイドは美麗に微笑んだ。
「リセがここにいることへの恩返し、だよ」
それははぐらかしているわけではなく、心からの言葉のように思えた。
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