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雨季島 ヨルタ

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ナビコ①

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 それから何時間が経過したことだろう、昼夜の概念が無いので正確な時間はわからない。 しかしながら泥遊びも10体目作成した辺りから、苦痛な単純作業へと変わる。

 ただひたすらに泥をコネコネ、コネコネ………コネコネ、コネコネ、コネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネココネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネ、コネコネ……。

 既に2日は泥を捏ね繰り回している気分だ。 お陰様で完成した泥人形マドゴーレムは48体、もはや30㎡ばかりの我が世界は丸っこい泥の塊に占有されていた。

 これで最大限の準備は完成した。

「まー、こんなもんかな?」

「中々二壮観デスネ」

 全くだ、後は成るように成れだ。 雑魚だってこれだけの数があれば大物を喰えるはずだ。

「ありがとな」

「………ハイ?」

 君がいなかったら俺は、…そう考えるとゾッとしないでもない。

「君のお陰で俺はここまで頑張れた…と、思う」

「…私ハ何モシテイマセン、私ハ、…タダノナビゲーターデスカラ。」

 それでも………。

「それでも俺はお礼が言いたかったんだ、どうしても…」

 言いたかったんだ…。 「ありがとう」と…。

 彼女は何だかドギマギし、困ったような、呆れたような、少し怒ったような、表情だ。 実際には表情の変化はほとんど無いのだが、俺は何だかそんな気がしたんだ。

「ところで君……名前を教えてくれないか? やっぱ名前がわからないと不便だしな」

 むしろ聞くのが遅すぎるが、それはリアル女子への耐性の無さが招いた結果だ。 我ながら情けない話である。 

「私二名前ハ、アリマセン。 私ハタダノナビゲーターデスカラ………。 ドウシテモト言ウナラ、神様、貴方ノ好キナヨウニ、オ呼ビクダサイ」

 俺が名づけ親か、そういうの苦手なんだよなぁ。 

「…うーん、そうさなぁ………ナビコ? …とか?」

 あはは、なんちゃってー。 と付け加えるよりも早く返答が来る。

「カシコマリマシタ、神様マイマスター…私ハ、私ノ名ハ『ナビコ』、貴方ヲ導クモノ、貴方ト共二歩ムモノ、貴方ノ幸福ヲ祈ルモノ、イツ如何ナル時モ、貴方ノ傍カラ離レマセン。 私ノ運命、貴方ニオ預ケ致シマス」

 あまりの勢いに本当に『ナビコ』なんて適当な名前で良いのかと、聞きそびれてしまう。

「不束モノデスガ、宜シクオ願イ致シマス」

「…お、おう」

 耳まで真っ赤にしている自分のマヌケ面が簡単に想像できる。

 それはナビコの台詞が、なんだか結婚するみたいだったからに他ならない。
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