YELL~未来からのメッセージ~

ブックリーマン

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プロローグ:

片付けられない男

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妻の奈々美が掃除機を掛けながら部屋に入ってきた。
「ねぇ、パパ。昔の手帳や仕事のメモにノート、そろそろ片付けたら。もう使わないものもあるでしょ」
「もしパパが先に死んだら、遺品整理する私や子供達が苦労するんだから」
「まぁ全部捨てるだけだけどね。片付けてる時に見られてマズいものとかあったら困るじゃない。」
妻の掃除機の進行を妨げないように孝一はそっと身をよける。

「あぁ、、、そうだなぁ」
妻が心配するような”見られてマズいもの”はないが、言われなくても自分ではもう何年も前から片付けようとは思っていた。だが、光る原石だったら、もしこれが宝の山だったら捨てられるだろうか。いや、捨てられないだろう。

「これらは磨けば光る、、、そう、ダイヤモンドの原石、原石の塊なの。今磨いてるとこなんです。」
ノートを一冊取ってペラペラとページをめくりながら、冗談交じりの言い訳で追及を避ける。
「ハイハイ、またそんなこと言って」
毎回そんな事を言うもんだから、妻には呆れられていた。
「他の人が片付けたらどうせ怒るんだから、ちゃんと自分でやってよ」

ー そんなに簡単には片付けられないんだよ。



「終活するにはまだぜんぜん早い年齢だけど、パパの運勢は”今年は整理の年”って、ゲッターさんも言ってたでしょ。」
「ゲッターさん。そうだったね。」
妻は占い師ゲッターさんの大ファンだ。
ここ数年の年始では、初詣のおみくじより、今年の運勢をゲッターさんのホームページで調べる方が恒例となった。

そんな妻に言われるがまま、”整理の年”ということで、様々な整理に一応取り組んできた。
読まなくなった本は処分したり、買取に持っていったりした。着なくなった洋服やお腹周りがキツくなったスーツも処分し、クローゼットがスッキリした。使わなくなった不用品も処分した。運勢が開けたのかは分からないが、部屋の中はだいぶスッキリしてきた。

そして最後に残っているのが、このノートやメモ類の山というわけだ。

「それから明日雨だから、午後には散歩行こうね」
言いたいことをだいたい言い終わり、掃除機もかけ終わった妻は満足げに書斎を出ていった。

「ハァ~」妻の背中を見送ったあと、幸いにして聞こえてはいなかったようだが、小さく溜息が出てしまった。
妻の小言だけではなく、整理に踏み出せない自責の念と混ざり合って思わず口から出てしまった。

その後改めて、手帳やノートの山と対峙して先ほどの妻の言葉を繰り返す。

「”整理の年”かぁ、そろそろ本格的にやらないと駄目かなぁ」



本棚の一角に陣取り、”本棚の肥やし”になって久しい。何度か部屋の模様替えをした時にも、しっかりとこれらの場所は引き続き確保され続けた。牢屋の主のごとく、随分前からその場所を占拠し続けている。

そもそも、なぜそんなに書き留めたメモやノートを残しているのか。本当に磨けば光るダイヤモンドの原石なのか。昔、妻からも尋ねられたことがあった。

ー いつか自分自身の成功体験や苦労を乗り越えた経験などを書き綴った本を作りたい。もしそれが誰かの助けになればこの上ない幸せなことだ。

妻に聞かれた時は、あとで使うからとはぐらかした説明をしたが、妻にも言っていないささやかながらの夢があった。社会人になって、いつの頃からか思い描いていた夢であった。

これらのメモやノートはそのためのネタ帳というわけだ。

“本にまとめる”

そんな夢を描いてはいたものの、そんなに人生うまくいくわけでもなく、紆余曲折があり、いまだ一冊の本にまとめることができずにいる。

出番を待ち続けてくれている彼らには申し訳ない気持ちでいっぱいである。”いつの日か”と思い、今日まで溜め込んできたが、そろそろ見切りを付けても良いかもしれない。妻のひと言からそんなことも考え始めていた。

書斎の窓からは暖かな日差しが降り注いでいた。
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