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我が名は蘆屋道満
初めての魔物、不死鳥の力
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地平線の彼方まで広がる平野を一台の車が走り抜けて行く。一見アメリカの公道を走る様に見えるが、舗装された道もなければ標識も無い。道無き道を進んでいるのだった。
「ウオォーーー!!」
ミラは車窓から顔を出しながら体験したことのない風を楽しんでいた。
「ミラちゃん~危ないわよぉ~。と行っても対向車も何もないんだけどねぇ~」
そう言いながら車を運転するのは全身赤いセイラン。道満により異世界に召喚された悲しいオネェは『諦め』により、精神的ストレスを回避し見事順応して見せた。人外でありながらそのドライバーテクニックはかなりのもので、舗装されていない道にも関わらず車体はさほど揺れていない。
「初めての体験は誰であれそのこと以外見えなくなるものじゃ、ワシとてトラックの荷台に寝そべって高速道路を通ったものよ、カカカッ!」
彼女ら(?)二人の主人であり、大魔導師である陰陽師、蘆屋道満は助手席でパソコンをいじっていた。
この老人の適応力は凄まじく、千年経とうと新しい物を知る事に余念がない。
現在道満は結局押し切られてしまったミラの案を受け入れラーロット王国で売るものをパソコンで試作しているのであった。
『主人には魔術以外取り柄ないですよね?』
その言葉に反応してしまった人外。蘆屋道満は狂人であり、規格外の化け物であるが、プライドが高いゆえに存外チョロかった。
「ていうか、ホント何処まで続くのよこの平原」
見渡す限り平らな世界。このまま世界の端まで行ってしまうのではないかと思えるほど。
「しかしそちらに『火』が見えるのであろう?」
「まーね、もしかしたら山火事かも知れないけど、他に手掛かりなんてないしねぇ」
セイランにとってあらゆる火は自分の支配下にある。熾天使の聖火は火と似て非なるもので例外だが、それ以外の全てを知覚できる。距離が近ければ火を通して【遠見】を行使する事も出来る。
現在その力を用いて断続的な火の気配のする方向へ進んでいるのだった。
ーつまりこの車に乗っている人外達は迷子なのである。
外から来た道満とセイランに道など分かるはずもないし、ミラは連れてこられたので現在位置が分からないのである。
そんな事なら『蛇』の一人二人残しておけという話なのだが、ミラにとって全員が敵であった為どうしようもなかったのだ。
こうして彼らは漠然とした証拠で平野を走っていた。
ここはエンゲレス平原。
大陸主要5ヶ国全てと面しているどの国よりも広大な平原である。つまり彼らの進行方向はさほど間違ってはいなかったようだ。しかしこの地域は緩衝地帯であり、人類の手の届かない未踏の地であり、この世の地獄である事を道満達は知らない。
「あら?何だか暗くなって来たわねぇ?雨かしら?」
先程まで快晴であったにも関わらず、急に辺りが暗くなり始めた。
「キャーーーー!!」
先程まではしゃいでいたミラが悲鳴をあげた。
「どうしたの!?何があったの!?」
「空に!空に!!」
アワアワしながら見上げるミラ。
「なんじゃその驚き様は?」
そう言って車窓を開けた道満も首を出す。
「………でっかいトカゲが飛んどるの」
車の真上に居たのは巨大な翼を広げて空を飛ぶ赤い爬虫類に似た全身赤い生き物であった。かなりの上空を飛んでいるが、視認出来る大きさは既に車体4個分はある。
「トカゲじゃなわよ!ドラゴンよ!ド・ラ・ゴ・ン!!」
大声で叫びながら必死で説明する。
「ドラゴンですってぇ!?道満あんたなんとかしなさいよぉ~!」
テンパるセイランはアクセルベタ踏みで速度を上げる。
「安心せい、アレはドラゴンなどではない」
「どう見てもドラゴンだから!レッドドラゴンだから!図鑑で読んだ事あるから!!」
滝の様に汗を掻くミラ。顔から血の気が引きながらまるでピンボケでも起こしているかのごとくふるえている。
「なんで平然と竜種なんているのよぉ~!!この世界は神代だったの??」
「じゃからアレはドラゴンでは無いと言っておろう?」
「じゃあ主人!貴方がなんとかして下さいよ!」
半泣きで道満にすがりつくミラ。
「そうしても良いが、あの程度ならばミラ、貴様でも対処出来よう」
「何バカなこと言ってるんですか!アレは小国位なら簡単に潰せる災害クラスの化け物なんですよ!?」
『そうよぉ~!私ですら手こずる竜種相手に経験無しのミラちゃんが敵うはずないじゃない!!」
「じゃからアレはドラゴンでなく、ただのでかいトカゲじゃといっておるじゃろ!」
「…………あっ!もしかしてそういうことぉ?」
何かに納得したセイランはアクセルベタ踏みを止める。そのまま落ち着きを取り戻すと車窓を開ける。
「そら!」
窓から出した手から炎が生まれ、鳥の様に形をなす。生まれた火の鳥は手を離れてレッドドラゴンの元へと飛んでいった。
「ギャ?」
鳥を見つけたレッドドラゴンはそれを喰らおうと接近する。
「GYAAAAAAAAAAA!?」
次の瞬間、レッドドラゴンはその体表の赤色よりも赤い火に包まれた。
まるでもう一つの太陽ができたかの様に巨大な火の玉と化したレッドドラゴンはそのまま揚力を失い真っ逆さまに落ちていった。
鈍い地響きと共に僅かに車体が揺れたがすぐに静寂を取り戻す。
「あら、本当に格好の似たただのトカゲだったわねぇ」
安心した様にため息をつくセイラン。道満も何事もない様にパソコンに眼を向けるが、一人だけ動揺を隠せない者がいた。
「ド、ドラゴンスレイヤーだ!お伽話の英雄だ!なんでそんな平然としてられるんですか!!」
「ミラちゃん?アレは本当にただ巨大で、多分火が吐ける程度のトカゲなのよ?」
「何いってるんですか!ドラゴンですよ!伝説の魔物ですよ!」
強く抗議するミラ。しかし道満がそれを遮る。
「魔物ではない、現に奴の体内で魔力の循環は見られなかった。アレは巨大な爬虫類じゃ、恐竜やそこらの子孫じゃろうな」
「ええっ!?でも久遠の時を生きる者って言われてるんですよ!?」
「爬虫類は存外長生きじゃからな、あれだけデカければ300年は生きるのではないか?人にとっては久遠じゃろう。ドラゴンとは、竜種とは人に勝る知能と叡智を兼ね備えるものじゃ。神にも抗うゆえワシでも苦戦することがあったほどじゃ。つまりこの世界の『ドラゴン』と言うのは巨大な爬虫類じゃな」
淡々と説明する道満にミラはどんどんかを色が暗くなる。
「そんな……『ドラゴン』は最強の証なのに…」
まるで車に酔った様にもたれかかる窓にもたれかかるミラ。
「主人と出会って私の中の常識が崩壊していく……」
「カカカッ!何を言っとる、ワシらはもとより『非常識』!人でなしの人外が常識など持っておるものか」
「ちょっと!私はこれでも常識的な方よ!なんでアナタと同列なのよ!」
唸るセイランを道満は無視する。
「ところであのトカゲは回収せんで良いのか?素材としては売れるのであろう?」
「確かにレッドドラゴンなら高額で取引されると思うけど、そんな事したら絶対怪しまれますよ…」
「それなら無理よ?多分消し炭に近い物になっちゃただろうから」
「レッドドラゴンって火が効かない事で有名なんですケドォ………」
こうして道満一行の初の魔物はアッサリと伸されたのだった。
**********
「む?何やら石壁が見えてきたの」
見かけによらず目の良い道満が遥か先に城壁を見つけた。かなり大きく背も高い。
「なら降りる?『トヨダ』見られたら目立っちゃうでしょ?」
「あぁ…、もっと風を感じていたかった……」
車窓から顔を出す事にハマったミラは名残惜しそうに呟いた。
「ならアタシの背中に乗せてあげましょうか?」
「セイランさんって人化解いたらどんな姿になるんですか?」
「炎を纏った馬鹿でかい怪鳥じゃよ」
「失礼なジジイね!これでも『鳳凰』と崇められた吉報を司る神獣よ?」
「散々『勝手に設定決められて人間ウザい』と言っておったではないか」
「細かい事は今はいいのよ!ミラちゃん?気にする事ないわよ?」
素敵な笑顔を向けるセイランだったがミラは苦笑いする。
「燃えそうなんで遠慮します……」
数十分後、大きな門の前に道満一行は立っていた。
すると鎧を着た二人組の男が近づいて来た。
「おい!そこの者達!ラーロット王国に用のあるものか?」
どうやら門番の衛兵らしく、片方は木の画板に荒い紙の付いた書類を持っていた。
「よかったわね!ミラちゃん!ラーロット王国に着いたみたいよ!」
「良かった…一時はどうなるかと…」
ドラゴンに襲われた後、巨大で多足のトラや陸を歩く巨大タコに襲われたのだが、全てセイランの『ワンパン』で終わってしまったのだ。
戦々恐々としていたミラはかなり精神的に参ってしまった様だ。
「ウェエエ!?く、黒鬼ぃ!?」
画板を持った衛兵がミラを見るなりのけぞる様に驚いた。その顔はありえないものを見たという感じである。
「何やってんだライド!真面目に……ってオォィ!?黒鬼じゃねぇか!!」
上官らしい中年衛兵も先程の青年衛兵のライドと同じリアクションをする。
『黒鬼』
ミラが言っていた伝説の鬼人族。その特徴である黒髪、黒角、緋色の眼はミラの物と合致する。完全に偶然であるが道満はコレを利用することにした。
「【此奴は捨て子でな…わしが拾って育てた。今日は此奴の為にやって来たんじゃ】」
悲しそうな顔をする道満。もちろん演技である。
「おおぉ、そうなのか。しかしそこの鬼の嬢ちゃんはひょっとして『黒鬼』かい?」
中年衛兵が不憫そうに返した。
「【いや分からん、なんせ親が誰か分からんからな。しかし此処には鬼の『型』を知る宝珠があるらしいの?】」
「あぁ『鬼珠』の事か、確かに黒髪の『青鬼』や、緋色の眼の『赤鬼』はいるからなぁ」
確かに体の一部が『黒鬼』と似通った者はいる。
そういう者たちは総じて有名な冒険者や戦士である為、『黒鬼』に近ければ近いほど強いとされ、同族にモテたりする。鬼人族のモテる基準は『黒鬼』に近いか、角が大きいか、ムキムキかである。
「【自身の『型』を知る事は鬼人族にとって大事事じゃろう?】」
「確かにな。己が何なのか分からないってのは辛いよなぁ」
少し涙目な中年衛兵は哀れみの目でミラを見る。
どうして良いか分からなかったミラは取り敢えず愛想笑いで返す。
「【じゃがワシらは隠居した身でな、此奴も捨て子。ワシらは交通手形を持っておらんのじゃ。どうしたらええか…】」
進退極まったという道満の顔つきに中年衛兵の胸は強く打たれた。
「原則として禁止されているが、今回は俺が特別入学式保証人としてこの国に入れてやろう!」
「ちょっと隊長!?」
隣で聞いていたライドは慌てて止めに入る。
しかしそこにミラが割って入ってきた。
「お願いします!!」
ライドの両手を握り、上目遣いで懇願するミラ。その緋色の眼は涙で満たされており、整った顔立ちも相まってライドの庇護欲を揺さぶった。
「しゃ、しゃーねーな!隊長、俺も連名で保証人にしてください!!」
ライド・ロイド 15歳
思春期に美姫、いや美鬼の蠱惑的な瞳は少々刺激的であった。
「よく言ったライド!!それでこそラーロット王国民だ!」
ライドの背中を叩く中年衛兵。
「「天に神在らず、地に悪魔の影無し、ただ隣人の愛のみなり!!」」
ラーロット王国の標語を掲げる衛兵二人。助け合いの精神が息づいていた国のようだ。
ライドに限っては魅了された気もするが、わざわざそんな事を口にする者はいない。
「入ったらすぐにギルドで身分証を作ると良い。身分さえあれば後はどうとでも誤魔化せるからな!」
(こんなんでこの国大丈夫なのかしらぁ)
セイランは心配するが、今回も道満の【言霊】が効いている為に、簡単に通してくれるのだろうと納得することにした。
「ありがとう!ありがとう!」
涙を流しながら衛兵に礼を言う道満とミラ。完全に調子に乗っている。
「あれだ、今度酒の一杯でも奢ってくれればチャラにしてやるさ!」
「【良かろう、最高の一本を飲ませてやろう】」
ハハハハハッ
意気投合する道満と中年衛兵。
「おっ、俺はまだ酒飲めないからさ、うまい飯奢ご馳走してくれよ!」
ライド15歳、自然な程でデートの誘いである。
「分かったわ!最高に美味しい料理作ってあげる!私、料理には自信があるから!」
とびきりの笑顔で応えるミラ。彼女はこれまで余り外食をしなかった為に、『料理を振る舞う』と勘違いしてしまった。
「…」
(人が恋に落ちる瞬間を初めて見たわぁ)
セイランは珍しいものを見たというウンウンの首を縦に振る。
口半開きのままみるみる赤くなるライド。
「じゃあここに署名だけしてくれ。………ドーマン・アシヤか…変わった名だな」
「【ワシは遠い島国ので出な、今はもうその国もないが…】」
「…爺さん、あんたが今までどんな人生を送ってきたかは分からないが、此処ラーロット王国であんたが最高の日々を送れる事を願っているよ」
「【ありがとう、ではそろそろ行くとするか。ミラ、行くぞ?】」
「はい!」
少し離れていたミラが近づく。少し残念そうな顔をするランド。
セイランは側にいた為黙って続く。城門が開き、中に通される。
別れの瞬間、中年衛兵が大声を上げた。
「ポーツマス・グルジャンだ!なんかあったら力になるぜ!!」
三人は手を振りながら別れを告げた。
**********
しばらく街道を歩く三人。
「「チョロかったな」」
一仕事終えたような顔の老人と鬼の娘
「あんた達ねぇ……」
溜息をつくセイランは、いつもの事だと諦める。
「しかし…、奴らは根っからの善人なのじゃろうな、まぁ酒の一本でも持って言ってやるとするか」
しかし道満の予想外な感想に驚いた。
「珍しいわね、あんたが恩返しなんて」
少し驚きを隠せないセイラン。かれこれ道満の式となって600年以上つるんでいる彼にとって初めての発見であった。
「いやいや、通してくれた対価を払うだけじゃ」
当然と言う顔で答える道満であったが、セイランにとっては興味深いものであった。
「ま、面白いものが見れたかしら?ミラちゃんも約束は守っておきなさいね」
「はい!サンドイッチでも作って上げる事にします」
イタズラっぽい笑顔のミラに少し心配になるが、どうにでもなれと投げるのだった。
此処はラーロット王国
様々な人種の行き交う文明の交差点
商業の中心であり、様々な物の行き交う中で、道満一行は新たな出会いをして行くのだった
「ウオォーーー!!」
ミラは車窓から顔を出しながら体験したことのない風を楽しんでいた。
「ミラちゃん~危ないわよぉ~。と行っても対向車も何もないんだけどねぇ~」
そう言いながら車を運転するのは全身赤いセイラン。道満により異世界に召喚された悲しいオネェは『諦め』により、精神的ストレスを回避し見事順応して見せた。人外でありながらそのドライバーテクニックはかなりのもので、舗装されていない道にも関わらず車体はさほど揺れていない。
「初めての体験は誰であれそのこと以外見えなくなるものじゃ、ワシとてトラックの荷台に寝そべって高速道路を通ったものよ、カカカッ!」
彼女ら(?)二人の主人であり、大魔導師である陰陽師、蘆屋道満は助手席でパソコンをいじっていた。
この老人の適応力は凄まじく、千年経とうと新しい物を知る事に余念がない。
現在道満は結局押し切られてしまったミラの案を受け入れラーロット王国で売るものをパソコンで試作しているのであった。
『主人には魔術以外取り柄ないですよね?』
その言葉に反応してしまった人外。蘆屋道満は狂人であり、規格外の化け物であるが、プライドが高いゆえに存外チョロかった。
「ていうか、ホント何処まで続くのよこの平原」
見渡す限り平らな世界。このまま世界の端まで行ってしまうのではないかと思えるほど。
「しかしそちらに『火』が見えるのであろう?」
「まーね、もしかしたら山火事かも知れないけど、他に手掛かりなんてないしねぇ」
セイランにとってあらゆる火は自分の支配下にある。熾天使の聖火は火と似て非なるもので例外だが、それ以外の全てを知覚できる。距離が近ければ火を通して【遠見】を行使する事も出来る。
現在その力を用いて断続的な火の気配のする方向へ進んでいるのだった。
ーつまりこの車に乗っている人外達は迷子なのである。
外から来た道満とセイランに道など分かるはずもないし、ミラは連れてこられたので現在位置が分からないのである。
そんな事なら『蛇』の一人二人残しておけという話なのだが、ミラにとって全員が敵であった為どうしようもなかったのだ。
こうして彼らは漠然とした証拠で平野を走っていた。
ここはエンゲレス平原。
大陸主要5ヶ国全てと面しているどの国よりも広大な平原である。つまり彼らの進行方向はさほど間違ってはいなかったようだ。しかしこの地域は緩衝地帯であり、人類の手の届かない未踏の地であり、この世の地獄である事を道満達は知らない。
「あら?何だか暗くなって来たわねぇ?雨かしら?」
先程まで快晴であったにも関わらず、急に辺りが暗くなり始めた。
「キャーーーー!!」
先程まではしゃいでいたミラが悲鳴をあげた。
「どうしたの!?何があったの!?」
「空に!空に!!」
アワアワしながら見上げるミラ。
「なんじゃその驚き様は?」
そう言って車窓を開けた道満も首を出す。
「………でっかいトカゲが飛んどるの」
車の真上に居たのは巨大な翼を広げて空を飛ぶ赤い爬虫類に似た全身赤い生き物であった。かなりの上空を飛んでいるが、視認出来る大きさは既に車体4個分はある。
「トカゲじゃなわよ!ドラゴンよ!ド・ラ・ゴ・ン!!」
大声で叫びながら必死で説明する。
「ドラゴンですってぇ!?道満あんたなんとかしなさいよぉ~!」
テンパるセイランはアクセルベタ踏みで速度を上げる。
「安心せい、アレはドラゴンなどではない」
「どう見てもドラゴンだから!レッドドラゴンだから!図鑑で読んだ事あるから!!」
滝の様に汗を掻くミラ。顔から血の気が引きながらまるでピンボケでも起こしているかのごとくふるえている。
「なんで平然と竜種なんているのよぉ~!!この世界は神代だったの??」
「じゃからアレはドラゴンでは無いと言っておろう?」
「じゃあ主人!貴方がなんとかして下さいよ!」
半泣きで道満にすがりつくミラ。
「そうしても良いが、あの程度ならばミラ、貴様でも対処出来よう」
「何バカなこと言ってるんですか!アレは小国位なら簡単に潰せる災害クラスの化け物なんですよ!?」
『そうよぉ~!私ですら手こずる竜種相手に経験無しのミラちゃんが敵うはずないじゃない!!」
「じゃからアレはドラゴンでなく、ただのでかいトカゲじゃといっておるじゃろ!」
「…………あっ!もしかしてそういうことぉ?」
何かに納得したセイランはアクセルベタ踏みを止める。そのまま落ち着きを取り戻すと車窓を開ける。
「そら!」
窓から出した手から炎が生まれ、鳥の様に形をなす。生まれた火の鳥は手を離れてレッドドラゴンの元へと飛んでいった。
「ギャ?」
鳥を見つけたレッドドラゴンはそれを喰らおうと接近する。
「GYAAAAAAAAAAA!?」
次の瞬間、レッドドラゴンはその体表の赤色よりも赤い火に包まれた。
まるでもう一つの太陽ができたかの様に巨大な火の玉と化したレッドドラゴンはそのまま揚力を失い真っ逆さまに落ちていった。
鈍い地響きと共に僅かに車体が揺れたがすぐに静寂を取り戻す。
「あら、本当に格好の似たただのトカゲだったわねぇ」
安心した様にため息をつくセイラン。道満も何事もない様にパソコンに眼を向けるが、一人だけ動揺を隠せない者がいた。
「ド、ドラゴンスレイヤーだ!お伽話の英雄だ!なんでそんな平然としてられるんですか!!」
「ミラちゃん?アレは本当にただ巨大で、多分火が吐ける程度のトカゲなのよ?」
「何いってるんですか!ドラゴンですよ!伝説の魔物ですよ!」
強く抗議するミラ。しかし道満がそれを遮る。
「魔物ではない、現に奴の体内で魔力の循環は見られなかった。アレは巨大な爬虫類じゃ、恐竜やそこらの子孫じゃろうな」
「ええっ!?でも久遠の時を生きる者って言われてるんですよ!?」
「爬虫類は存外長生きじゃからな、あれだけデカければ300年は生きるのではないか?人にとっては久遠じゃろう。ドラゴンとは、竜種とは人に勝る知能と叡智を兼ね備えるものじゃ。神にも抗うゆえワシでも苦戦することがあったほどじゃ。つまりこの世界の『ドラゴン』と言うのは巨大な爬虫類じゃな」
淡々と説明する道満にミラはどんどんかを色が暗くなる。
「そんな……『ドラゴン』は最強の証なのに…」
まるで車に酔った様にもたれかかる窓にもたれかかるミラ。
「主人と出会って私の中の常識が崩壊していく……」
「カカカッ!何を言っとる、ワシらはもとより『非常識』!人でなしの人外が常識など持っておるものか」
「ちょっと!私はこれでも常識的な方よ!なんでアナタと同列なのよ!」
唸るセイランを道満は無視する。
「ところであのトカゲは回収せんで良いのか?素材としては売れるのであろう?」
「確かにレッドドラゴンなら高額で取引されると思うけど、そんな事したら絶対怪しまれますよ…」
「それなら無理よ?多分消し炭に近い物になっちゃただろうから」
「レッドドラゴンって火が効かない事で有名なんですケドォ………」
こうして道満一行の初の魔物はアッサリと伸されたのだった。
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「む?何やら石壁が見えてきたの」
見かけによらず目の良い道満が遥か先に城壁を見つけた。かなり大きく背も高い。
「なら降りる?『トヨダ』見られたら目立っちゃうでしょ?」
「あぁ…、もっと風を感じていたかった……」
車窓から顔を出す事にハマったミラは名残惜しそうに呟いた。
「ならアタシの背中に乗せてあげましょうか?」
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「失礼なジジイね!これでも『鳳凰』と崇められた吉報を司る神獣よ?」
「散々『勝手に設定決められて人間ウザい』と言っておったではないか」
「細かい事は今はいいのよ!ミラちゃん?気にする事ないわよ?」
素敵な笑顔を向けるセイランだったがミラは苦笑いする。
「燃えそうなんで遠慮します……」
数十分後、大きな門の前に道満一行は立っていた。
すると鎧を着た二人組の男が近づいて来た。
「おい!そこの者達!ラーロット王国に用のあるものか?」
どうやら門番の衛兵らしく、片方は木の画板に荒い紙の付いた書類を持っていた。
「よかったわね!ミラちゃん!ラーロット王国に着いたみたいよ!」
「良かった…一時はどうなるかと…」
ドラゴンに襲われた後、巨大で多足のトラや陸を歩く巨大タコに襲われたのだが、全てセイランの『ワンパン』で終わってしまったのだ。
戦々恐々としていたミラはかなり精神的に参ってしまった様だ。
「ウェエエ!?く、黒鬼ぃ!?」
画板を持った衛兵がミラを見るなりのけぞる様に驚いた。その顔はありえないものを見たという感じである。
「何やってんだライド!真面目に……ってオォィ!?黒鬼じゃねぇか!!」
上官らしい中年衛兵も先程の青年衛兵のライドと同じリアクションをする。
『黒鬼』
ミラが言っていた伝説の鬼人族。その特徴である黒髪、黒角、緋色の眼はミラの物と合致する。完全に偶然であるが道満はコレを利用することにした。
「【此奴は捨て子でな…わしが拾って育てた。今日は此奴の為にやって来たんじゃ】」
悲しそうな顔をする道満。もちろん演技である。
「おおぉ、そうなのか。しかしそこの鬼の嬢ちゃんはひょっとして『黒鬼』かい?」
中年衛兵が不憫そうに返した。
「【いや分からん、なんせ親が誰か分からんからな。しかし此処には鬼の『型』を知る宝珠があるらしいの?】」
「あぁ『鬼珠』の事か、確かに黒髪の『青鬼』や、緋色の眼の『赤鬼』はいるからなぁ」
確かに体の一部が『黒鬼』と似通った者はいる。
そういう者たちは総じて有名な冒険者や戦士である為、『黒鬼』に近ければ近いほど強いとされ、同族にモテたりする。鬼人族のモテる基準は『黒鬼』に近いか、角が大きいか、ムキムキかである。
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「確かにな。己が何なのか分からないってのは辛いよなぁ」
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「【じゃがワシらは隠居した身でな、此奴も捨て子。ワシらは交通手形を持っておらんのじゃ。どうしたらええか…】」
進退極まったという道満の顔つきに中年衛兵の胸は強く打たれた。
「原則として禁止されているが、今回は俺が特別入学式保証人としてこの国に入れてやろう!」
「ちょっと隊長!?」
隣で聞いていたライドは慌てて止めに入る。
しかしそこにミラが割って入ってきた。
「お願いします!!」
ライドの両手を握り、上目遣いで懇願するミラ。その緋色の眼は涙で満たされており、整った顔立ちも相まってライドの庇護欲を揺さぶった。
「しゃ、しゃーねーな!隊長、俺も連名で保証人にしてください!!」
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「ありがとう!ありがとう!」
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「…爺さん、あんたが今までどんな人生を送ってきたかは分からないが、此処ラーロット王国であんたが最高の日々を送れる事を願っているよ」
「【ありがとう、ではそろそろ行くとするか。ミラ、行くぞ?】」
「はい!」
少し離れていたミラが近づく。少し残念そうな顔をするランド。
セイランは側にいた為黙って続く。城門が開き、中に通される。
別れの瞬間、中年衛兵が大声を上げた。
「ポーツマス・グルジャンだ!なんかあったら力になるぜ!!」
三人は手を振りながら別れを告げた。
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しばらく街道を歩く三人。
「「チョロかったな」」
一仕事終えたような顔の老人と鬼の娘
「あんた達ねぇ……」
溜息をつくセイランは、いつもの事だと諦める。
「しかし…、奴らは根っからの善人なのじゃろうな、まぁ酒の一本でも持って言ってやるとするか」
しかし道満の予想外な感想に驚いた。
「珍しいわね、あんたが恩返しなんて」
少し驚きを隠せないセイラン。かれこれ道満の式となって600年以上つるんでいる彼にとって初めての発見であった。
「いやいや、通してくれた対価を払うだけじゃ」
当然と言う顔で答える道満であったが、セイランにとっては興味深いものであった。
「ま、面白いものが見れたかしら?ミラちゃんも約束は守っておきなさいね」
「はい!サンドイッチでも作って上げる事にします」
イタズラっぽい笑顔のミラに少し心配になるが、どうにでもなれと投げるのだった。
此処はラーロット王国
様々な人種の行き交う文明の交差点
商業の中心であり、様々な物の行き交う中で、道満一行は新たな出会いをして行くのだった
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乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
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