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チート紛いの燕返し
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とある洞窟において多くのプレイヤー達が一体のまるで山の様に巨大な黒い龍を囲んでいた。
ここはオンラインゲーム《カオスエイジ》に存在する高難易度ダンジョン〈竜王の庭〉である。彼らはその最奥に棲まうレイドボス[竜王カオス]に挑んでいる最中であった。
今、前衛のタンク役が攻撃を受けきりカオスの腹をガラ空きにした。
「佐々木さん!スイッチだ!!」
その声と共に前衛に出ていた全身西洋甲冑の盾を持った男が後ろに下がる。
「拙者の出番だ!」
飛び出してきたのはサムライ風の男、長い青髪を総髪にまとめた長身の美青年である。しかし鎧と呼べる様なものは身につけておらず、少々現代ファンタジー感のある着物姿だけであった。防御力を捨てた速度特化のキャラメイキングは本来であればネタキャラ扱いなのだが[佐々木]に限ってはそれは当てはまらない。
青年は背中に背負っていた刀を抜く。それは長身の彼と大差のない程の刃の長い刀であった。黒い刀身は怪しく輝き、まるで全てを呑み込んでしまうのではないかと思えるほどのオーラを放っていた。
「……ゆくぞ!【秘剣・燕返し】!!」
独特の構えから放たれた【燕返し】は目にも止まらぬ速さで見事にカオスに的中する。しかしダメージは「3」という上位プレイヤーにあるまじき数字が表示される。
本来ならば罵声を浴びせられる程の低威力だろうだがこの場にいる誰もが彼を責める事なくむしろニヤニヤとした表情を浮かべていた。
それもそのはず【燕返し】はまだ始まったばかりなのだから。
振り抜いた一刀の後、佐々木は刀を鞘に納めているにも関わらずダメージ表記とコンボ表記が消えない。これはバグではない。
竜も硬直したまま動かない。時間停止などの魔法を使っていないがピクリとも動かない。
ただ単に【燕返し】のダメージ計算に処理が追いついていないのだ。
そして数秒の後、竜は突然暴れ出す。いや、暴れてなどいない、コンボダメージによる怯みの判定が入ったのだ。
ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
そんな斬撃音と共にトータルダメージ表記とコンボ表記が跳ね上がる。僅かなダメージしか入らなかった初撃からコンボにより二桁、三桁、五桁、と急上昇する。竜はまるで痙攣でもしているかの様にその巨体を揺らす。十数秒の間、謎の斬撃は竜王カオスを切り裂き続けた。
終わってみればそのからコンボ数は「1200」、ダメージは七桁に達したと表示されていた。本来ならこの様なダメージがたった一人のプレイヤーでなされる事は無い。しかし【秘剣・燕返し】はゲームバランスを崩しかねない性能を見せつけた。その威力から最初の頃はチート使用疑惑があったこの技は今では《カオスエイジ》において名物の一つになっているほどであった。
彼の【必殺技】によって遂に竜王の体力は四分の一に到着した。竜王は禍々しい赤黒いオーラを放ち始める。レイドボスによくある覚醒モードだ。この後数秒の後、爆発的に能力を向上された竜王による殺戮が始まる。いくら上位プレイヤーといえど[竜王カオス]の覚醒モードと渡り合える者はそうはいない。それは先程【燕返し】を放った佐々木も同じである。このモンスターはここからが本番なのだ。
しかし【燕返し】の発動中に何もしていないプレイヤーはここにはいない。全員が個々に出せる最大威力の技をこの瞬間のために準備していた。
プレイヤー達は次々と【必殺技】を放っていく。
雷撃が、突風が、爆炎が、覚醒途中の竜を包む。闇の剣が、光の矢が、灼熱のビームが竜の体を貫いていく。支援係が技の威力を上昇させたり、または別の力を付与していく。
こうして竜王カオスはその真の力を見せる事なく、その巨体は大地に崩れ落ち、光と共に散るのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「さすが[佐々木]さん!やっぱりあの【必殺技】やばいっすね!!」
戦っていたプレイヤーの一人、チャラい声に似合わない白銀の騎士が佐々木に話しかけた。
「そうだろう!この【必殺技】を作るためになかなか苦労したものよ」
なりきり武士風に佐々木は答え、満足そうに自身の刀を撫でる。破格の威力を持った彼の必殺技はそれ相応の努力の結果なのだ。
《カオスエイジ》における必殺技とは設定した10個のスキルを同時発動させるというものである。発動までの時間、リキャストタイムが異なっていようと一つの必殺技に登録してしまえばそれらは統一される。自身のオリジナルの技を作れるという点はこのゲームの売りの一つである。
「ちなみにその技幾つ《口伝級》使ってるんですか?」
別の魔女の格好をした巨乳の女性が聞いてきた。
「…5つだ、あれだけの威力を出すにはそれだけ必要さ」
佐々木はドヤ顔で答える。
「「うへぇ………」」
騎士と魔女が呆れた声をあげる。
それもそのはず《口伝級》と呼ばれる最上位スキルは二つ持っていれば上位で渡り合えるだけの力を持っているという証になる。それだけ高威力のスキルを五つ、それがどれだけ大変な事かは彼らの声が物語っていた。
ヒット数を増加させ、ヒットする毎に相手の防御力を奪い、こちらの攻撃力を上げるという鬼畜コンボダメージが【秘剣・燕返し】の正体である。特殊な長刀とスキルにより範囲が通常の4倍、速度も強化されているためこの技を回避することは基本出来ない。どの様な頑強な盾であってもこの技を喰らえば、数秒の間紙同然防御力しかなくなってしまう。この性能のために素の攻撃力が犠牲になっているがそれを差し引いてもコンボによるダメージ上昇により余りある火力を有している。単体でも高威力だが本来の使い方はレイドのように後続の技を丸裸の敵に当てることができるところである。
「しかし竜王の防壁も突破するとはそのうち制限かかるんじゃないか?」
騎士の男が笑い半分に言う。
「そ、それは困るなぁ~」
佐々木は明らかに狼狽える。彼の【燕返し】は[佐々木]専用の必殺技なのだ。というより【燕返し】を使う為に[佐々木]というアバターを作ったに等しい。スキルを使う為に極振りしたステータスと極限まで強化した愛刀の黒い長刀《鴉羽》、《口伝級》五つを組み込んだ【秘剣・燕返し】はこの二つがあって初めて成立する技であった。
(本当に規制されたらどうしよう!?)
佐々木はその場で腕を組んで黙り込んでしまった。新しい抜け道を探さなければならないかもしれない。騎士と魔女の笑い声が遠くに聞こえた。
「おいおい、そろそろ撤収するぞ!」
今回のレイドボス戦の指揮官だった狂戦士のプレイヤーから大声が飛んでくる。
その声に思考の海に沈んでいた佐々木は跳ね起きる。
「済まん済まん、いま確認する」
慌てて佐々木はドロップ品の確認をする。と言っても竜王カオスは何度か倒した事のあるモンスターであり、実を言うと彼のジョブとスキル構成上そこまで有用なアイテムを落とさないので流し見で済ませようとした。
「………ん?」
佐々木ははめた指輪から映し出されたドロップ一覧の中に見慣れないアイテムを発見した。
《創生神からの招待状》
それは羊皮紙にこのゲーム内の言語で書かれた巻物であった。このゲームのシンボルマークの印が押されており、いかにも重要そうなアイテムであった。
「なんだこれは?」
無造作に取り出した巻物を開く。すると閃光弾でも撃たれたかのように眩い光が佐々木を包んだ。
ここはオンラインゲーム《カオスエイジ》に存在する高難易度ダンジョン〈竜王の庭〉である。彼らはその最奥に棲まうレイドボス[竜王カオス]に挑んでいる最中であった。
今、前衛のタンク役が攻撃を受けきりカオスの腹をガラ空きにした。
「佐々木さん!スイッチだ!!」
その声と共に前衛に出ていた全身西洋甲冑の盾を持った男が後ろに下がる。
「拙者の出番だ!」
飛び出してきたのはサムライ風の男、長い青髪を総髪にまとめた長身の美青年である。しかし鎧と呼べる様なものは身につけておらず、少々現代ファンタジー感のある着物姿だけであった。防御力を捨てた速度特化のキャラメイキングは本来であればネタキャラ扱いなのだが[佐々木]に限ってはそれは当てはまらない。
青年は背中に背負っていた刀を抜く。それは長身の彼と大差のない程の刃の長い刀であった。黒い刀身は怪しく輝き、まるで全てを呑み込んでしまうのではないかと思えるほどのオーラを放っていた。
「……ゆくぞ!【秘剣・燕返し】!!」
独特の構えから放たれた【燕返し】は目にも止まらぬ速さで見事にカオスに的中する。しかしダメージは「3」という上位プレイヤーにあるまじき数字が表示される。
本来ならば罵声を浴びせられる程の低威力だろうだがこの場にいる誰もが彼を責める事なくむしろニヤニヤとした表情を浮かべていた。
それもそのはず【燕返し】はまだ始まったばかりなのだから。
振り抜いた一刀の後、佐々木は刀を鞘に納めているにも関わらずダメージ表記とコンボ表記が消えない。これはバグではない。
竜も硬直したまま動かない。時間停止などの魔法を使っていないがピクリとも動かない。
ただ単に【燕返し】のダメージ計算に処理が追いついていないのだ。
そして数秒の後、竜は突然暴れ出す。いや、暴れてなどいない、コンボダメージによる怯みの判定が入ったのだ。
ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
そんな斬撃音と共にトータルダメージ表記とコンボ表記が跳ね上がる。僅かなダメージしか入らなかった初撃からコンボにより二桁、三桁、五桁、と急上昇する。竜はまるで痙攣でもしているかの様にその巨体を揺らす。十数秒の間、謎の斬撃は竜王カオスを切り裂き続けた。
終わってみればそのからコンボ数は「1200」、ダメージは七桁に達したと表示されていた。本来ならこの様なダメージがたった一人のプレイヤーでなされる事は無い。しかし【秘剣・燕返し】はゲームバランスを崩しかねない性能を見せつけた。その威力から最初の頃はチート使用疑惑があったこの技は今では《カオスエイジ》において名物の一つになっているほどであった。
彼の【必殺技】によって遂に竜王の体力は四分の一に到着した。竜王は禍々しい赤黒いオーラを放ち始める。レイドボスによくある覚醒モードだ。この後数秒の後、爆発的に能力を向上された竜王による殺戮が始まる。いくら上位プレイヤーといえど[竜王カオス]の覚醒モードと渡り合える者はそうはいない。それは先程【燕返し】を放った佐々木も同じである。このモンスターはここからが本番なのだ。
しかし【燕返し】の発動中に何もしていないプレイヤーはここにはいない。全員が個々に出せる最大威力の技をこの瞬間のために準備していた。
プレイヤー達は次々と【必殺技】を放っていく。
雷撃が、突風が、爆炎が、覚醒途中の竜を包む。闇の剣が、光の矢が、灼熱のビームが竜の体を貫いていく。支援係が技の威力を上昇させたり、または別の力を付与していく。
こうして竜王カオスはその真の力を見せる事なく、その巨体は大地に崩れ落ち、光と共に散るのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「さすが[佐々木]さん!やっぱりあの【必殺技】やばいっすね!!」
戦っていたプレイヤーの一人、チャラい声に似合わない白銀の騎士が佐々木に話しかけた。
「そうだろう!この【必殺技】を作るためになかなか苦労したものよ」
なりきり武士風に佐々木は答え、満足そうに自身の刀を撫でる。破格の威力を持った彼の必殺技はそれ相応の努力の結果なのだ。
《カオスエイジ》における必殺技とは設定した10個のスキルを同時発動させるというものである。発動までの時間、リキャストタイムが異なっていようと一つの必殺技に登録してしまえばそれらは統一される。自身のオリジナルの技を作れるという点はこのゲームの売りの一つである。
「ちなみにその技幾つ《口伝級》使ってるんですか?」
別の魔女の格好をした巨乳の女性が聞いてきた。
「…5つだ、あれだけの威力を出すにはそれだけ必要さ」
佐々木はドヤ顔で答える。
「「うへぇ………」」
騎士と魔女が呆れた声をあげる。
それもそのはず《口伝級》と呼ばれる最上位スキルは二つ持っていれば上位で渡り合えるだけの力を持っているという証になる。それだけ高威力のスキルを五つ、それがどれだけ大変な事かは彼らの声が物語っていた。
ヒット数を増加させ、ヒットする毎に相手の防御力を奪い、こちらの攻撃力を上げるという鬼畜コンボダメージが【秘剣・燕返し】の正体である。特殊な長刀とスキルにより範囲が通常の4倍、速度も強化されているためこの技を回避することは基本出来ない。どの様な頑強な盾であってもこの技を喰らえば、数秒の間紙同然防御力しかなくなってしまう。この性能のために素の攻撃力が犠牲になっているがそれを差し引いてもコンボによるダメージ上昇により余りある火力を有している。単体でも高威力だが本来の使い方はレイドのように後続の技を丸裸の敵に当てることができるところである。
「しかし竜王の防壁も突破するとはそのうち制限かかるんじゃないか?」
騎士の男が笑い半分に言う。
「そ、それは困るなぁ~」
佐々木は明らかに狼狽える。彼の【燕返し】は[佐々木]専用の必殺技なのだ。というより【燕返し】を使う為に[佐々木]というアバターを作ったに等しい。スキルを使う為に極振りしたステータスと極限まで強化した愛刀の黒い長刀《鴉羽》、《口伝級》五つを組み込んだ【秘剣・燕返し】はこの二つがあって初めて成立する技であった。
(本当に規制されたらどうしよう!?)
佐々木はその場で腕を組んで黙り込んでしまった。新しい抜け道を探さなければならないかもしれない。騎士と魔女の笑い声が遠くに聞こえた。
「おいおい、そろそろ撤収するぞ!」
今回のレイドボス戦の指揮官だった狂戦士のプレイヤーから大声が飛んでくる。
その声に思考の海に沈んでいた佐々木は跳ね起きる。
「済まん済まん、いま確認する」
慌てて佐々木はドロップ品の確認をする。と言っても竜王カオスは何度か倒した事のあるモンスターであり、実を言うと彼のジョブとスキル構成上そこまで有用なアイテムを落とさないので流し見で済ませようとした。
「………ん?」
佐々木ははめた指輪から映し出されたドロップ一覧の中に見慣れないアイテムを発見した。
《創生神からの招待状》
それは羊皮紙にこのゲーム内の言語で書かれた巻物であった。このゲームのシンボルマークの印が押されており、いかにも重要そうなアイテムであった。
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