ツンデレΩは噛まれたい

齊藤るる

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出会い編

王族騎士

「これは来月の祭祀の予算表。水の精霊へのお供物はどこの村から受けるか、とかそういう細々した話がまだ決まってないから、これはかなり急ぎで進めないとヤバイ」

「はあ」

「ここに判を押す」

「おいっす」

「あと二枚目にも」

「うっす」


執務室で、ユキの指示通りに書類に国璽を押していく。オオカミと、その周りを複雑な古代文字で囲った厳かな国璽である。
捺印する最初の数回はハルも緊張して、壊してはいけない、ハンコをミスってはいけない、と震えていたが、慣れてくればもう作業の一環である。


「あ~~…誤字発見……おじいちゃん、これ祭祀部に戻してきて。あとこの部分の説明が不明瞭だから直してっていうのと、期限ギリギリだってのにこんな凡ミスしないでって釘刺しておいて」

「畏まりました」


「ほいじゃ次はこっち。この前、川の氾濫があった地域の被害報告と堤防修復案。ハルはざっと目を通しておいて。その後で俺も内容確認する」

「はいっす」


執務デスクにうず高く積まれた書類、書類、書類、バインダー、バインダー、バインダー…

それらを上から取って、テキパキと指示を出してくるユキ。その目は真剣に文字を追っている。

ハルは渡された書類に目を通してつつ、その横顔を盗み見る。今日も顔がいい。ちゃらんぽらんな時とのギャップが激しいせいで、余計に美貌が輝いて見える気がする。

その美しい金色の目が、ギロリとこちらを向いた。


「読み終わった?」

「は、はい」


(圧がすごい…ついつい敬語に;;)





その時、執務室のドアが強く叩かれた。


「皇太子殿!今よろしいでしょうか!!」


入ってきたのは、利発そうな獣人の美丈夫である。引き締まった体躯、腰に刺した銃剣。胸に光るバッヂ。城の至る所に配備されている騎士のひとりだろうと、ハルは検討を付けた。焦茶色の耳と、硬そうな毛質の尻尾がふさふさと揺れていた。

「明日の出発のご用意ができましたので、ご報告に上がりました!」

「うん、ありがとう。何も問題はない?」

「問題ございません!」

「ハル。彼は王族騎士隊長のリーだよ。明日の朝、国を経つおれたちの警護をしてくれる」

「皇太子妃殿!お目に掛かれて光栄でございます!騎士のリーでございます」

「どうも。ハルです」


『獣人保護区』は軍隊や警察を持たない。その理由は、獣人保護区を定める世界条約が世界平和維持活動の一環であり、その条約によって『武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』と定められているためだ。獣人の国は、非武装永世中立宣言と引き換えに、平和を手に入れたのである。
代わりにそうした役割を務めるのは『王国騎士』と呼ばれ、治安維持、国境管理、犯罪対処、重要施設警備など、その任務は多岐に渡る。

さて、ここでひとつ問題がある。国家という組織上、切っても切り離せないのが王と議会が対立する可能性である。
例えば王が国民を虐げるような行いをした場合、議会は王を弑逆しようとする。もしくは、王意と民意に反する議会を解散させようとした王が、逆に弑されそうになる等…色々な場面が起こり得る。
問題なのは後者である。王と議員が対立した場合、議員はそもそもの絶対数で王に勝てるが、王はそうではない。つまり王は王独自の指揮系統によって自分を護衛する近衛兵が必要であり、獣人の国ではこれを『王族騎士』と呼んでいた。


「皇太子妃殿、先程の朝議でのお話、大変感動致しました!!貴殿のような聡明な方が来てくださるとは、我が国の安泰が約束されたも同然!!」

「いやぁ…ハハ…」

「ご入籍早々に皇太子殿下が国を離れるということで、何かとご不安なことがございましょうが、必ずやこのリーがお守りしますゆえ、何も心配はございません!」

「蛇の獣人の国へ、往復で二泊三日だからね。すぐに帰るよ」

「どれくらいの人数で行くんだ?」

「王様とおれと、リーの部下たちと…ざっと30人ってところかな」

「そんな少人数で足りるのか?」

「これでも多い方だよ。他国へ訪問だけならもっと少ない人数でいいんだけど、今回は蛇の獣人の国への訪問だからね。最悪何が起こってもいいように、機動性を重視した数字だ」

「左様でございます。それでは皇太子殿下、明日の朝、正門にてお待ちしております。それでは御二方、それがしはこれにて…」


(それがし?サムライか?)


王国騎士のリーは嵐のようにやってきて、そして疾風の如く執務室から去っていった…


「…なんというか、キャラがキョーレツだな」

「キャラも立ってるし、腕も立つよ」

「うまい」

「あ~、もうこんな時間だ。もうすぐ夕食に呼ばれると思うから、それまで執務を続けよう」

「分かった」
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