ツンデレΩは噛まれたい

齊藤るる

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出会い編

おすわり

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「大丈夫?汗の匂い、してきたけど。なんか緊張してる?」

「ッ…!!」


くんくん、と後ろから匂いを嗅がれる。
それだけでもゾクゾクするのに…

(首は、だめ…!)

カーラーで保護したその部分。
オメガにとっての、たいせつなところ。
噛まれれば番が成立し、子を成す行為に直結する。


「ハルって良い匂いするよね。特にこの辺から…におう気がする」


くんくん、と遠慮なしにうなじを嗅がれる。

オメガの防御本能が働き、反射的にハルは首元を手で覆って隠そうとする。

それが自意識過剰からくる過剰防衛のようで…そんな自分自信にハルは戸惑う。

ユキは、ハルの葛藤などつゆ知らず、ぐいぐい身体を押し付けて密着してくる。



「何か香水でも付けてるの?」

「っ、付けてない…!」


後ろから抱き締められ、耳元で囁かれ…


(そう言えば、初めて会った時もそんなこと言ってたな)

(良い匂いがするって…)


(おれも、こいつの匂い、好きだ)

(初めての匂いのはずなのに、どこか、懐かしい感じがする…)

(…甘くて…良い匂いだ…)


ユキの言わんとするところは、なんとなく察していた。

うなじからの匂い。それはすなわちオメガのフェロモンである。

哺乳類の多くが鼻の中にある鋤鼻器(じょびき)という器官でフェロモンを捕らえるように。

ワーウルフの鋭い嗅覚がハルのオメガフェロモンを嗅ぎ分け、『パートナーにしたい』という欲求を呼び起こしているのだろう。

そこまでは、ハルにも予想がつく。


だが、自分の反応は…?


初めて会った時にも嗅いだ、甘い花のような香り。土と木の香りが混じり合った匂いは、ハルの奥底にすっと忍び込み、情欲を呼び覚ます。

嗅いだ瞬間に、身体が熱くなってしまうその効果は…?


(他のアルファに会った時は、こんなにドキドキしないのに…)

(どうして、こいつだけが特別なんだろう…?)


言うなれば、一目惚れに近い。

ハルが知る限り、ユキほどステータスが高く、顔の良い男は他にいない。


(顔…?顔か?)

(おれって、そんなに面食いだったっけ)

(こいつの顔が良すぎるせいなのか…!?)


思い当たる節は、ある。

ハルは相手の顔をよく見ようとして、後ろを振り返り…


「ん?」

「ッ!」


ばっちり、ユキと目が合った。

モフ耳。モフ尻尾。

ずっとずっと大好きだったワーウルフが、そこにいる。

それに加えて、一国の王子で、文句なしに顔が良い。

長いまつげに縁取られた金色の瞳は、月の光を受けてキラキラと輝いていて…

ギチギチにバックハグされた状況下でも、つい、美しい絵画を鑑賞するようにしげしげと眺めてしまう。


ユキはといえば、「大好きなハルが自分を見てくれた!」と大きな瞳を更に大きく、モフ尻尾をぶんぶんと大きく振りまわして喜んでいた。


(そんなに素直な反応されると、困るじゃん…!)


ドキドキと、胸が鳴り続けている。


「なに?キスしていいの?」

「は…!?」

「…んーーー…♡」


ユキはカールした長いまつげを伏せ、美しすぎるキス顔で迫ってくる…






「お、お、お……!おすわりっっっっ!!!!!」

「キャウンッ!?」


ハルは大声を張り上げて力任せにユキを振り解いた。

驚いたのはユキである。

ころんころんと後ろに転がり、ボフンッと煙を出して獣型に変下した。


「キュゥゥン……!」

「おすわりっおすわりだ!!!!」


びし!!と仁王立ちで獣を指差すハル。

でかいワンコのようなナリをしているが、一国の王子であるユキは誰かから「おすわり」等と指示を受けたことが無い。

聞き慣れない言葉に一瞬戸惑うが、それでも、最愛のハルの望みを叶えるべく必死で頭を働かせ…

モフ耳をぴこぴことあちこち忙しなく動かしつつも…

前足をきちんと揃え、お尻を地面に付けた。


「ワゥ…ワウ?」


これでいいの?と小首を傾げてくるデカワンコ、もといワーウルフの王子。

ハルはその姿にハッとして現実を自覚したが、もうここまで来ては引き返せない。


「そ…そうだ!それがおすわりだ!!よしよし!え、偉いぞ…!」

「ワンッ♡」


ご主人様のお願いを叶えられて、ワーウルフの王子も鼻高々である。
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