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閑話:アリスと兎と卒業式
アリスと兎と卒業式 07
しおりを挟むそれと同じぐらい、悲しくて虚しくて、怒りなのか羨望なのか、何なのか良く解らない感情に支配される。
架が踏みにじっているものは、翔がどう頑張っても、もう二度と手に入れられないものなのだ。
それからだ。
架と居ることが辛くなった。
愛しさと同じだけ、憎くて恨めしくて、どうにもならない。
ある日、施設の職員から受けた暴行の痕を彼に見られてから、架との関係性は少しずつ変化していった。
それをキッカケに距離を置いたのは自分だ。
けれども、どうしようもなく寂しかった。
架と話せない日々は、とても辛かったのだ。
都合が良いのかもしれない。
それであっても、彼に話し掛けていた。
施設に招いて、自分の置かれている状況を全て話した。
ワザと嫌な言い方をして、憎んでいるのだと告げた。
離れて行けば良い、と思った。
どうか見捨てないで、とも思っていた。
結局、架は翔を受け入れてくれた。
最終的には、家族にまでなれた。
こんなに幸せで良いのだろうか、と心配になる。
幸せはある日突然に奪われると、翔は身を以(もっ)て知っているのだ。
この幸せが、いつか消えてしまったとしても、きっと後悔はしないと、そう思えるのは、架が翔を想ってくれるからで。
彼が自分のために家族と仲直りをしてくれたからで。
それだけで、翔の胸は一杯になる。
とん、と想い出に浸っていると肩を叩かれた。
架が口パクで、お前だぞ、と言っている。
前のクラスの最後の生徒が動いていた。
慌てて立ち上がり、後に続く。
架も後ろから着いて来ているのが気配で感じられた。
名前を呼ばれて壇上に上がる。
校長から証書を受け取って、礼をした。
壇上から降りる時に、保護者席が目に入る。
偶然、父と母、そしてメイド服の長田が見えた。
偶然と言うよりも、長田のメイド服が目立っていたのだろう。
目頭をハンカチで押さえているのは母だ。
父は何度も頷いていた。
長田は鉄仮面の名に恥じない無表情だった。
それでも、目尻が潤んでいたことは、遠くて翔には確認出来ないことではあるが、隣に座る幸綯は気付いていた。
架と擦れ違いで壇上から降りて、パイプ椅子に戻る。
彼が証書を受け取っている様は確認出来なかったが、きっと架は堂々としているに違いない。
彼はいつでも直球だ。
そんなところも好きだった。
ぎしり、と椅子が音を立てる。
あちらこちらで鼻を啜る音もした。
湿っぽいのは好きではない。
葬式を想い出してしまう。
それでも、学生生活も最後になる翔にとって、最後の卒業式である。
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