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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
やじるし 05
しおりを挟むパタパタとスリッパを鳴らし、入口を抜けて直ぐに設置されたソファーにボスンと腰を降ろす。
目の前の壁際にはテレビがあった。
ソファーの後ろ、部屋の奥にはキングサイズのベッドが一つ。
シンプルな造りのラブホである。
少年は立ち上がり、今度はベッドにダイブした。
ボフンッ、と音がして少年の体は何度か小さく弾み、その後マットに沈んでいく。
「こういうところ、初めてか?」
「それは勿論。キノコな僕は童貞さんですよ」
あまりのはしゃぎように、青年は苦笑を浮かべた。
殺してくれなどと衝撃的な台詞を吐く割に、中身はまだ幼い。
顔を上げた少年は、俯けから仰向けにゴロリと寝返りを打って体勢を変えると、にししと笑い、自身の頭髪を指差した。
確かに、茶褐色のその髪は、ふんわりと丸いフォルムでマッシュルームにも見える。
眉毛の少し上で揃えられているぱっつんカットな前髪も、どこか笑いを誘う。
堪え切れない笑い声を上げる青年は、自分が他人と笑っている異常さに気が付く。
「お前、楽しいな。誰かといて、楽しい気分になるのは、初めてかもしんねえ」
複雑な表情で青年もスリッパを履いてベッドに足を向けた。
ダイブした勢いで脱げた少年のスリッパを揃えた後、寝転がる彼の隣に腰を落ち着かせる。
「それは多分、偽らなくてもいいから、楽なんですよ」
「え?」
ふふ、と優しく笑う少年が宣い、青年は目を瞬かせた。
少年のその顔持ちは、子供の癖に大人びていて、きっと世の中の色々な出来事も醒めた目で見詰めているのだろうと推測された。
「人様に言えないような性癖は、隠そうとするでしょ? 偽りながら生きていたら、それは息も詰まって楽しく感じないです。でも、僕には隠す必要がないから、それだけ心に余裕も出来て楽しめる。……のかなあ、って推測です」
てへぺろっ、と巫山戯て舌ベロを覗かせ、額に拳をコツンと宛てている少年は、年端もいかぬのに、恐らくは真理をついている。
そして、巫山戯た行動も青年に気遣ってのことなのだ。
「可愛くねえんだよ」
面白くねえな、と一人呟き、スリッパを脱ぎ捨てベッドに上がり込む。
少年を跨ぐようにして、彼の顔横に両手を着いた。
「あら、早速セックスですか?」
緊張した様子もなくケロリと言葉を吐く少年は、愉しそうに笑っている。
ちげぇよ、と軽い力で頭突きをかませば、少年はうっとりとした顔を向けた。
「では、殺してくれるんですか?」
恍惚の表情で尋ねる言葉は、熱を帯びている。
その顔は、少年にしては淫靡で、頭がクラリとする。
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