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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 14
しおりを挟むそして、司破はその前で立ち止まった。
うへへへへえっ!? と明紫亜の素っ頓狂な叫びが駐車場に響く。
「うるせえんだよ、キノコ。早く乗れ」
がちゃり、と鍵が解除される音がし、運転席の扉を開けている司破に怒られた。
恐る恐る助手席の扉に手を掛ける。
「あのな、別に傷付けたからって取って食いやしねぇよ。安心しろ」
ふむう、うむう、ほおう、と吐息ばかりを変な声と共に吐き出し、中々乗ろうとしない明紫亜に溜息が吐いて出る。
「だってだって、僕が乗ったら、車が穢れてしまうかと」
真剣な顔で宣う明紫亜に眉を潜め、怖い顔を一層に怖くして司破が扉上の車体を軽く叩く。
「綺麗にしてきたんだろ、汚れねえよ。そもそも、貰いもんだ。愛着もないから汚れてもどうでもいい。気にせず早く乗れ」
おら、と怖い声に急かされ、明紫亜の体は車にと入り込んだ。
ボフンとした椅子に座れば、先程の葛藤を忘れたかのように明紫亜ははしゃぎ出した。
目をキラキラとさせてクッションと戯れている。
背凭れへと完全に体を預け、体を左右に揺らしていた。
不意に明紫亜の体が司破の方を向く。
「先生、す、き」
片頬をシートに預け、くたりとした笑みで幸せそうに囁くと、そのまま目蓋が閉じていく。
「お家、着いたら、起こして……くださ、い」
むにゃむにゃ、と眠そうにふやけた発音で告げ、すーすー、と寝息を立て始めた。
司破は苦笑を溢すも、エンジンをかけて車を発進させるのだった。
* * * * * *
排泄物の腐った臭いが部屋中を埋め尽くしている。
空腹で空腹で、それでも、鍵の掛かったこの部屋に、食べ物はない。
トイレもお風呂もない。
こじんまりとした、自分を閉じ込めておくだけの、汚い汚い部屋だ。
床は己の小便と大便に塗れて、明紫亜の小さな体には排泄物が付着していた。
小さく小さく、おかあさん、と呟こうとして、もう声すらも掠れて満足には出ないことに気が付いた。
もう幾日、母親は帰って来ていないだろうか。
すぐ帰るからと掛けられた鍵は、もう何日も開けられることはなかった。
それでも、明紫亜の胸を占めるのは、おもらしをした自分への憤りだった。
また母親に怒られてしまう。
汚いと叱られてしまう。
叱られる時のことを思い出し、明紫亜は骨と皮しかない腕で必死に自分を抱き締めた。
母の腕が伸びてきて、その腕は、明紫亜の頭を掴む。
綺麗にしろ、と排泄物に塗れた床に顔を押し付けられ、明紫亜は嘔吐するのだ。
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