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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 11
しおりを挟む死にたいと思う自分を殺し続けて生きている明紫亜とは、真逆ではある。
生きたいと願う自分を殺し続けただろう冷子に罪悪感は常に付き纏う。
希望と絶望は表裏一体だ。
絶望から逃れるには、希望を捨てるしかない。
諦めた先に安穏は訪れるのだ。
そう思うことですら、明紫亜の単なる憶測でしかないが、冷子を見ていて率直に感じたことである。
むむむむう、と眉間に皺を寄せて弁当の包みを開く明紫亜に声が掛けられた。
その声は義一郎のもので、顔をそちらに向ければ彼が弁当箱を手に立っている。
「神沼、もし良かったら、一緒に食べない?」
不安そうに明紫亜を見詰める彼は、緊張からか、ゴクリと唾を飲み込んだ。
くふり、と独特な笑いを溢し首肯する。
「あ、杉るん! 机貸してくれるー?」
隣の席の杉木(スギキ)は、他の生徒のところでパンの袋を開けていた。
明紫亜は彼に向かい問い掛けると、おーけー、と返答と共に手を振られる。
ありがとう、と手を振り返し、自分の机を動かし向きを変えた。
それを目に義一郎も慌てたように杉木の机を動かし明紫亜と向き合う形で机をくっつける。
「委員長、声掛けてくれて、ありがとうな。嬉しかった!」
くたり、と笑い首を傾ける明紫亜に、義一郎の顔は仄かに赤く染まり、もごもごと彼の口が動いた。
「僕がその、一緒に、食べたかった、から。あの、神沼? 出来たら、義一郎って名前で、呼んで欲しい、な」
あはは、と椅子に腰掛けながら照れたように笑う義一郎を、ぱちくりと双眸を瞬かせて見遣る。
「じゃあ、ギーチって呼ぶね。僕のことも名前で良いよ? 友達、だもんな!」
顔を綻ばせる明紫亜は心底嬉しそうに、友達、と強調し、口元に手をあて、くふくふと声を漏らした。
「うん! メシアって、カッコイイ名前だなって思ってたんだ。英語だと救世主だから。僕の名前、古臭いだろ? ちょっと羨ましい」
目を細めて明紫亜を見詰める義一郎に胸が擽ったくなり、明紫亜は俯く。
「僕はギーチの名前、カッコイイと思うよ? 僕の名前は、なんか負けてる。救世主になんて、なれないもん。名前負け感ハンパないよなー」
とほほ、と口にしながら弁当箱の蓋を開けた。
弁当箱を机上に置き包みを開く義一郎は、フルフルと首を左右させる。
「そんなことないよ! すごく明るくていつでも笑顔だから、そんなメシアに僕は救われているよ? 他の奴だって、そう思ってると思う」
真剣な顔の義一郎を凝視して、明紫亜は口を半開きにしたままフリーズしている。
そして、困ったように微笑んだ。
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