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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 33
しおりを挟む合わない、と言うよりも一方的に明紫亜を目の敵にしているように見える。
「これは丸井先生が言っているだけで、信憑性があるのか僕には解らないんだけど。神沼君のお家、私立の大きな学校の理事をやっているらしくて、裏口入学なんじゃないかと、丸井先生は言うんですよ。笹垣先生、神沼君と知り合いなんですよね? 何か知ってます?」
コソコソと小声になった教師の台詞に、つい「は?」と低い声が飛び出てしまう。
びくん、と肩を揺らす相手を目に「すいません」と謝罪を入れてから首を傾けた。
「知り合いと言っても、個人的なことは何も知らない顔見知り程度の関係なんですよ。そういう話ははじめて聞きますが、恐らく勘違いではないですかね。神沼は賢いので、裏口なんて手を使わなくても十分受かりますよ。それにそういったことは一番嫌うタイプの人間です」
司破の話に安堵した顔で笑う教師に、明紫亜を案じる人間が多いことを改めて知る。
放っておけなくなる何かを明紫亜は持っていた。
「そうですよね。あの子、生物の授業でも真面目だし、解らないところは質問してくれて、授業の雰囲気をいい方向に持っていってくれるんですよ。変な話をしてしまってすいませんでした。笹垣先生に話してみてスッキリしました。また丸井先生と話す機会があれば、それとなく言っておきますね」
30代半ばの生物教師は頭を掻きながら帰り支度を再開させる。
司破も止めていた手を動かし支度を終わらせた。
一度家に帰り荷物を置くと、着替えを済ませ外に出る。
盗聴器は未だにテーブルの下に着いたままだ。
ソッと息を吐き出して待ち合わせ場所のホテルまで歩く。
20分程してビルとビルの狭間にあるラブホテルに辿り着いた。
入口の奥まった場所に、キノコ頭が見える。
俯いた彼の表情は解らないが、纏う空気はどことなく重い。
私服の明紫亜は、腹部のところに英字がプリントされた灰色のパーカーを羽織っていた。
少し大きいのだろう、だぼっ、としている。
肉付きの薄い体は、パーカーに隠されてそれなりの体型に見えた。
意外と細いことを気にしているのかもしれない。
音もなく近付いていき、肩に手を置けば、吃驚した表情の明紫亜と目が合った。
顔を上げた明紫亜は、何度か瞬きを繰り返し、そのまま目線を下にと下げる。
「メシア?」
「あー、と。こんばんは?」
怪訝に思い名を呼ぶも、誤魔化すように慌てて彼の顔が上向き、へらりと笑った。
何事もなかったかのように笑っているが、何故だか胸が痛んだ。
無理をして笑っているのだと察し、明紫亜の手首を掴む。
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