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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 42
しおりを挟む幸せそうに言葉を紡ぐ明紫亜だったが、ふと表情に翳りが落ちる。
「解っては、いるんですよ。でもね、頭の中で幸せになっちゃいけないって、何処かで思うんです。僕を愛してくれる人なんかいない。死んでしまえって、思っちゃうんです。それは多分、僕が過去を昇華出来ていないから、なんですよね。幼い頃の傷に縋ってるから、いつまでも其処から抜け出せない。本当はもう気付いている筈なのに、一歩を踏み出せない」
馬鹿キノコ、と呟く司破に口を塞がれ、明紫亜の目蓋が、そっ、と閉じられた。
くちゅり、と水音を立てて司破の舌が上唇を舐める。
「ゆっくりでいいって言ってるだろ。結果はそんなすぐには出ねぇよ。お前も気付かない内に一歩なんて出てるもんだ。小畑さんと衝突したことも、大事な一歩だろ? 今までのメシアなら笑って誤魔化して躱してる。ちゃんと受け止めたいから衝突したんだ。偉かったな」
額同士がくっつき、明紫亜はゆっくりと目を開けた。
唇が触れ合う至近距離で司破に微笑まれ、優しく髪を撫でられている。
自分でさえも気付かなかった些細な変化に気付く司破に、ふおお、と奇声と共に尊敬の眼差しを向けた。
うるせえキノコ、と変わらない悪態を聞きながら、目の前の唇に、ちゅ、と啄むキスをする。
「司破さんに褒められると、僕、なんかすごく興奮します。もっと、キス、したいです」
「あ? 盛っても今日はキスだけだぞ?」
解ってます、と頷く明紫亜に苦笑を溢し、唇を触れ合わせた。
何度も角度を変えて触れるだけの接吻を繰り返す。
明紫亜の瞳が切なそうに潤み、舌が伸びてくる。
「司破さ、もっ、と、ほし、い」
舌を絡め合う湿った音に酔いそうになった頃、唇を離した。
肩で息をする明紫亜は、どこか淫靡に見える。
キスの余韻に浸りながら、抱き合ったままベッドの上で寛いでいた。
「ねえ、司破さん。一番近いって、どういう意味だと思いますか?」
唐突に問いを掛ける明紫亜は、横向きで背中を司破に預け上目遣いで司破を見上げている。
明紫亜の頭に顎を乗せている司破の首が傾いた。
「お前はまた唐突に。対象は人間なのか物なのか。物理的にか、精神的にか。情報がなさすぎて何もわからねぇ」
「そうですよね。実は僕も全く解らなくて。ほら、僕のクラスに杉木くん、いるじゃないですか。隣の席の杉木くん」
まるで何かのタイトルみたいに言う明紫亜も首を横に傾ける。
ふむう、と唸り自身の顎を撫で擦っている。
思い出すように暫時、沈黙が流れていたが、そろそろと明紫亜が口を開いた。
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