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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 47
しおりを挟む「お兄様は今の段階では動きません。たとえ僕達の関係に早い段階で気付いたとして、動くのは全ての裏を取った後でしょうね。僕の過去と父親のこと、それから恐らくは僕と司破さんがどうやって出逢ったのか、も。そういうの全部、納得いくまで調べてからじゃないと動かない人だと思う。僕の過去のことはともかくとして、父親のことは早々簡単に探れるものではないと思うんです。だからまだ大丈夫」
いつまで続くか解らない安穏ではあるが、今は怯える時ではないのだと彼の目に訴え掛ける。
司破は一言「そうか」とだけ答え、自分を見下ろす明紫亜の髪を撫でた。
優しく頭を辿る感触に目を細める明紫亜と、そんな明紫亜に自然と口角を上げる司破の間に流れる空気は甘い。
無言で見詰め合い、何方からともなく唇を寄せ合った。
浅く軽い重ね合わせるだけの戯れを繰り返し、耐え切れなくなったように互いに舌を伸ばす。
クチュクチュと響く水音を耳に、絡め取った舌の熱さに息を漏らし、もっと、と求め合う。
焦れったい。
もっと激しく求め合いたいのに、それを出来ないもどかしさが二人を包む。
「そろそろ帰るか。遅くなると小畑さんも心配するだろ?」
「ん。帰ったらオムライス、作ってくれるって言ってたし。うううう、オムライス早く食べたい!」
見詰め合うと互いに笑みを浮かべ、司破の手が明紫亜の髪を撫でた。
頷きを返す明紫亜の顔が、ふにゃん、と崩れる。
よっぽどオムライスが好きなのだと伝わってきて、司破も自然と目を細めていた。
「お前、本当にオムライス好きなんだな」
「叔母さんがよく作ってくれたんです。それに、お母さんもオムライスが好きだったって聞いたから、余計に嬉しくて。叔母さんの作るオムライスは、代々受け継がれてきた神沼家の味だから、お母さんの作るオムライスもおんなじ味だって、ユキちゃん言ってた。愚かで馬鹿みたいだとは思うけど、やっぱり嬉しくて」
えへへ、と幸せそうに微笑む明紫亜の表情に司破の胸は締め付けられる。
何とも言えぬ複雑な気持ちが拡がり、彼の頭を自分の肩口に押し付けた。
キノコヘアーに手を差し入れ乱暴に掻き混ぜると、明紫亜から抗議の声が上がる。
「ちょっ、司破さん! 何ですか、もう!」
「俺は母親の手料理を食べたことがなくてな。お嬢様だった母に求めても無駄だろう? 特に何も感じたことはなかったが。メシアは、母親の味を食べられることに幸せを感じるのかと思って少し戸惑った。俺はどうにも感情に乏しいようだ。それに、俺の料理ではお前を其処まで幸せに出来ないと思ったらムカついた」
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