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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 62
しおりを挟む「心配したんだぞ。僕のせいで、って思ったら怖くて。ルイカが傷付いた、って考えたらおかしくなりそうだったんだから」
どうしてだろうかと思う。
この男には隠し事が出来ない。
いつも本心は隠して生きてきた。
それが彼の前では儘ならないのだ。
そしてそれを心地良いと思ってしまう。
瀬名に対しては恐怖を抱くのに、杉木には訳の解らない同一感を抱いてしまう。
その感覚は、明紫亜には止められない本能のようにも思えた。
「ごめん、メシア。でも解ってよ。メシアが俺の知らないところで笹垣に心を奪われているのを知って、凄い焦ったんだ。メシアの心が他の男に向いていると知って怒りでどうにかなりそうだった。俺の知らないメシアがいるなんて堪えられないに決まってる。しょんないら(仕方無いだろ)?」
悪びれた様子もなく屈託のない笑みを浮かべる杉木に、怒りが込み上げてくる。
拳を振り上げ、髪に触れている杉木の手を振り払った。
「しょんなくない(仕方無くない)! 言い訳すんなよ!」
杉木が静岡の方言を混ぜ始めたのに流され、明紫亜も感情のままに方言で声を張り上げる。
きっ、と杉木を睨むが、彼は笑みを崩さないままで振り払われた手を伸ばしてくる。
がしり、と肩を掴まれ、顔を覗き込まれた。
目をしっかりと合わせて、杉木は唇を歪ませる。
「ねえ、メシア。送別会の日に何があったの? 笹垣と出逢ったの、その日だら(だろ)? あの日だけメシアは朝帰りをした。俺が目を離したのはその日だけなんだよね。入学式には既に顔見知りだったみたいだし。静岡を出るまでも出てからも、あの日を除いて笹垣と出逢ったと思える日はなくてさ。ねえ、メシア。あの日、何があって笹垣に大事な大事な心をあげちゃったの? 俺がメシアのことで知らないのは、それだけなんだ。メシアなら解ると思うけど。謎が謎のままなの気持ち悪いら(だろ)? 教えてよ」
逆らうのを許さないと絶対的な響きを持つのに、優しい口調で宥めるように言葉を連ねる杉木が恐ろしくて堪らない。
杉木を拒絶するということが、どうしてこれ程までに恐怖を抱かせるのか解らない。
明紫亜は口唇を震わせながらも必死で首を拒否の形に動かす。
「や、だ。教えない。それは、それだけは、絶対に言わない。ルイカには関係ないことだよ。ルイカが僕のストーカーなのは解ったけど。僕にだって知られたくないことはあるんですー」
なるべく彼を刺激しないよう、軽くなるように、んべっ、と舌を突き出して頬を膨らませた。
それでも杉木の雰囲気がピリピリと尖ったと認識したその時。
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