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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 63
しおりを挟む明紫亜にとっては救いの来訪者がやって来る。
ガラガラ、と引き戸の扉が開く音が響き、杉木と明紫亜は揃ってそちらを窺った。
「あれ、神沼君? どうしたの、病人? 怪我人? ごめんね、待たせちゃったかな?」
保健室の主である瀬名が部屋の中にいる明紫亜に気付き、軽く目を見張った。
杉木に視線を投げると慌てたように二人にと足を向ける。
瀬名の目が、明紫亜の肩を掴む杉木の手を捉えていた。
保健医は明紫亜の体質を知っている。
そして何とも察しのいい男だった。
綺麗に整った顔が、くたり、と怪訝そうに傾く。
心配でも懐疑でもなく、どことなく楽しんでいる表情で口角を持ち上げ、明紫亜と杉木を交互に眺めていた。
明紫亜は瀬名のこの眼差しが苦手だ。
何もかもを見透かされそうで、そっ、と杉木の手を払う。
疚しいことは何一つないのだが、杉木への訳の解らない気持ちを知られてしまうのは堪えられない気がした。
他人に心の内を見せるのは、明紫亜にとっては無理難題でしかない。
「化学の実験中に、ビーカーが割れて、僕のこと彼が庇ってくれたんです。一応、保健室にって笹垣先生の指示で来ました。でもなんか、大丈夫そうですけど」
瀬名に向かい説明をし、明紫亜は処置台の横に移動する。
杉木は処置台の前で立ったまま瀬名を凝視していた。
横に並んだ保健医を何処か探るように眺め、ふっ、と息を吐き出して笑う。
「庇ったとか、そんな大袈裟なことでもなかったし。ちょっと破片が飛び散ってきたぐらいですよ。痛いとこもないし平気です」
「ああ、そうなんだ。えぇと、まあ取り敢えず診せてくれるかな? そこ座ってくれる?」
あくまでも大丈夫だと言い張る杉木の肩を叩き目の前の椅子を指し示す瀬名の目には有無を言わせぬ強さがあった。
杉木も諦めたのか肩を竦めると大人しく灰色の回転椅子にと腰を下ろす。
「シャツ脱いでくれる?」
瀬名に促すように掛けられた言葉に一瞬杉木の眉がピクリと動いたが、すぐにブレザーを脱いで明紫亜に差し出してきた。
明紫亜がブレザーを受け取るのを確認し、ネクタイを手慣れた仕草で緩めていく。
しゅるり、と落ちたネクタイを腿の上に置き、シャツのボタンを上から順に外していた杉木が、半ばまで外したところで「メシア、お願いがあるんだけど」と唐突に口を開いた。
「先に戻ってくれる?」
にこやかな顔で告げられた台詞に首を傾げる。
何で、と目で尋ねると杉木は舌打ちをし明紫亜から目を逸した。
ぷつん、ぷつん、と釦を外す指は動かしたまま杉木は冷めた声色で言葉を続ける。
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