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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 66
しおりを挟む杉木のピリピリ感を孕んだ雰囲気を変えたのは、義一郎のその一言だった。
彼の放つ殺伐とした空気に気付いてもいないのだろう。
義一郎は、ほわん、とした微笑みで明紫亜と杉木を眺めていた。
「そ? 俺も委員長が羨ましいけどな。メシアの目が、キュンキュン萌え萌えー、ってなってる。こんな眼差しを向けるのは委員長にだけだよな」
気が削がれた、と言う風情で前髪を掻き上げた涙夏が可笑しそうに告げる。
「ギーチがピュアなんだもん! ピュア過ぎて心が痛いよー。何なのこのキレイな生き物! 僕、ギーチのことすんごく尊敬する!」
ぐぬう、と奇声を発しながら明紫亜は隣の義一郎に抱き着いた。
焦るのは義一郎で、口をパクパクと開閉させ、ワタワタと両手を上下に揺らしている。
「メッ、メシアに尊敬されると、すごく、その、照れちゃうよ」
「ぐんぬう! ギーチ、大好きだよー!」
えへへ、と柔くはにかみ、淡く頬を染めて頭を掻く義一郎に明紫亜が堪らないと叫び、彼の肩口に頭を擦り付けようとした。
それを阻止するかのように横から現れた杉木の腕に明紫亜の体躯は攫われていく。
「うぬぬ? ルイカ、放せよー! 僕はギーチにハグしたい!」
「黙りなさいよ、メシア君。ほら、委員長が困ってんだろ。さっさと教室行かないと丸井に嫌味言われるよ?」
ジタバタと暴れる明紫亜を引き摺りながら有無を言わせずに歩いて行く。
義一郎が慌てて後を歩いてくる。
ふんぬー、と鼻息を荒くしつつも明紫亜は諦めたように自分で足を動かす。
それを見て杉木の腕が明紫亜から放れていった。
教室に辿り着くと、HRがちょうど始まるところであった。
三人は慌ててそれぞれの席にと座るのだった。
* * * * * *
放課後の理科準備室には、この日は司破のみがいた。
他の教師は職員室での作業に追われているようだ。
それを解っていて司破は杉木をこの部屋に呼んだのだ。
司破は自分のデスクに腰掛けた状態で頭を抱えていた。
深い溜息が自然と体内から出て行く。
杉木のことは、土曜日の時点で少しだけ調べてはいた。
明紫亜の口から訳の解らない杉木論を聞かされてから、学校の資料で軽く探ってみたのは、明紫亜が杉木に抱く気持ちに何かしらの意味が存在するだろうと思ったからだ。
あまりにも荒唐無稽に思えてしまうのだ。
明紫亜が杉木に対して抱いている感覚は、まるで洗脳やマインド・コントロールにも似ているように思えた。
逆に言うならば、出逢って間もない他人に対して抱くような感情ではないだろう。
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