あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 113

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言葉にするのはとても怖かった。
自分が幸せを望んでいるのだと具現化してしまったら、生きていけない気がした。
司破の逞しい腕に額を押し付け、真っ暗な世界で自分の声を聞く。
愛しい人が産まれた日に、彼に出逢えたことに、他でもない司破を好きになったことに、言葉では言い表せない歓びを感じる。
反面、誰かと幸せになりたいと想うことに、誰かと生きる未来を願うことに、明紫亜は戸惑い恐怖を抱き、それ以上に抗えない欲求を知った。

「お前は。賢い癖に馬鹿なんだよ。難しく考え過ぎだ。ぐるぐるキノコめ。……幸せも愛も概念に過ぎないだろうが。そんなに怯えるな。形がないんだ。どうとでも変えられる。お前が恐れるのは、決まった形に固定しているからだろ。もっと自由に考えろ。お前の世界を自分で狭めたりすんな。メシアは俺がいないとすぐにぐるぐるするから、ずっと傍にいて守ってやるよ。そのかわり、お前の命も人生も、何もかもを俺に捧げろ」

ぎゅう、と司破の腕を掴むと乱暴に髪を乱される。
何を明紫亜が恐れているのかを察したのだろう、司破の言葉はピンポイントで少年に届く。
そろそろ、と目蓋を開け司破を見上げた。
青年の人生を自分に費やさせるのを申し訳なく思うが、自分も同じだけのものを捧げるのならば、それは対等なのだ。
司破と生きる未来を許して貰えることが胸を滾らせる。
堪らない何かが込み上げてくるのに、それが何なのか解らない。

「司破さんに殺されたいと願った瞬間から、僕の全ては司破さんのものになったんだと思うんです。だから僕のこと、手放したりしないで下さいね。僕のこと殺すまで傍にいてくれなきゃ嫌です」

人間はなんて欲深いのだろうか。
今まで望まないようにして生きてきた筈が、一度手にしてしまえば手放すことなど考えられない。
司破のいない未来を想像するだけで狂いそうになる。


 従弟に昔言われた言葉を今になって理解した。
明紫亜のいない世界は要らないと言い切った彼もこんな気持ちだったのかもしれない。
あの時、従弟が怒っていたのが何故なのか幼い明紫亜には理解出来なかった。
自分のいない世界を望み、自分だけが死ねば皆が幸せになれるのだと、9歳の明紫亜は本気で思っていたのだ。
それは今でも変わりはしないが、遺される者の気持ちに想いを寄り添わせることが出来るようになった。
命は自分だけのものではないのだ、と蒼吉も蒼真も明紫亜に訴えてくれたのに、今の今まで明紫亜に実感が湧いたことはない。

「ぼ、く。雪代の皆に愛して貰っているのに、何にも返せないや。どうして見返りもなく僕のこと愛してくれるの?」
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