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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 114
しおりを挟むすぐ傍にある『愛』に気付いていなかった訳ではない。
ちゃんと愛されている実感は持っている。
それでも明紫亜は、愛される自分、を肯定したくはなかった。
それ故に、受け流すことしかしては来なかったのだ。
「馬鹿キノコ。子供は無条件に愛されていればいいんだよ。受けた分は次の世代に渡してやれ。愛したい欲求に理屈なんてねぇだろ。好きなんだよ。皆、メシアのことが好きなんだ。それだけだろ。難しく考えるな」
司破の腕にしがみつき震える明紫亜に青年は何てことのないように言う。
明紫亜には考えもつかないことを平気で口にする。
未来を生きるとは、世代を繋ぐことも視野に入れることなのだろう。
「そっか。そういうもの、なんですね。司破さんの見ている世界は、何だかとっても大きくて、僕はいつも吃驚します。僕も同じものを見てみたいな」
喫煙者の為に用意されているのだろう、灰皿とセットで置かれているライターに手を伸ばし、くふり、と笑う。
司破とは価値観も見えている世界も違う。
それが嬉しくて、彼の見ているものを共有したいとさえ願うのだ。
「……もしかして歌も唄ったりするのか?」
かちかち、とライターに火を灯しローソクに移していく明紫亜に尋ねる司破を窺い見て少年は、えへへ、と笑う。
「勿論ですよー! 大丈夫です! 僕が唄うので、司破さんは聞いてて下さい。唄い終わったら、ふーっ、てするんですよっ」
締まりのないふやけた顔で楽しそうに語る明紫亜に渋い表情をみせ頭を掻く司破ではあったが、特に何も言うこともなく小さく頷いてみせた。
「電気消しますよ?」
全てのローソクに火を着け、明紫亜は立ち上がるとベッド脇まで移動する。
ベッドヘッドに設置されたコントロールボードを操作し部屋の明かりを落とした。
真っ暗な闇の中にローソクに灯った火が浮かぶ。
明紫亜はその火の明かりを頼りに司破の隣に戻り、どかり、と座ると息を吸い込む。
誕生日の定番の歌を一人で唄い、テンションが上がったのか一人で手拍子も入れている。
左右に身体を揺らしてノリノリで唄う様が面白くて司破は口元を押さえて噴き出しそうになるのを堪えた。
「司破さん! ふーっ、です! 消して消して!」
キラキラとした双眸が司破を映している。
唄い終わった明紫亜の年相応にも見える無邪気な顔付きがローソクの心許ない灯に照らされていた。
誘われるように顔を近付けると、明紫亜の瞳が見開いていく。
唇が触れ合う寸前、明紫亜の両手に遮られる。
「っ、し、ばさっ! チュー、じゃなくて! ふーっ、です!」
少年の頬は、ぷくん、と膨らんだ。
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