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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係(勉強合宿編)01
しおりを挟む【秘密の関係(勉強合宿編)】
晴天の空を見上げ、神沼 明紫亜(カミヌマ メシア)はキノコのようなマッシュルームヘアーを、ほさり、と揺らす。
今日というこの日を心待ちにしていたのだ。
人生で初めて学校行事でバスに乗り、仮病を使うことなく参加する。
自分の体質のことを考えれば休むことが最善だとは解っていても、逃げているだけでは物事は進んでいかないのだ。
静岡にいた頃に比べ、クラスの中で触れても大丈夫な人間も5月という早い段階で何人かいる。
不安は付き纏ってくるが、それでも明紫亜は前に進むと決めた。
楽ではないことなどはじめから解り切っていて、闘うことを選んだのは、恋人(仮)の存在が大きい。
彼と生きたいと熱望している。
死にたい、と喚く寄生虫がいなくなった訳ではない。
今でも脳を蝕む『死にたい』が明紫亜を汚染しているのだ。
それでも、彼と生きる未来を考えずにはいられない。
その為にも、明紫亜は前に進みたかった。
いつも通りに学校まで徒歩で行こうとしていたが、荷物が多いこともあり、下宿先のオーナーの小畑 智如(オバタ トモユキ)が車で送ってくれると言う。
はじめは他の生徒と混じって行事に参加することに難色を示した智如であったが、最終的には「無理するなよ」と笑って応援してくれた。
それがとても嬉しくて、明紫亜の胸は張り裂けそうに痛んだ。
周りの人間に甘やかされるのは、いつでも明紫亜を居心地悪くさせる。
嬉しいのに素直に受け止められないのは、自分には他人から好意を示して貰える資格がないと、何処か頭の片隅にこびりついて離れないからだ。
甘えられる環境は幸せに満ちている。
幸せを享受するのは罪にも等しかった。
明紫亜が死を望み幸せを拒み、愛を受け入れてはならないのは、産まれてきてしまった自身への罰だった。
罰を与えることでしか自分に生存理由を与えられなかったのだ。
生きていてもいいのだとはどうしても思えなかった。
心地良い幸せから逃げ、甘やかしてくれる家族から逃げ、『死ねばいい』と自身を呪いはしても、何一つ行動することなく、生きることにも死ぬことにも向き合わずにいた。
それでいいと思っていた明紫亜を変えたのは、恋人(仮)の存在だ。
拒むべきだと解っていて、彼のことだけは拒めなかった。
押し込めていた「甘えたい」という欲求を、引き摺り出され、恐怖に慄(おのの)く時間も与えられず、気付くと逃げられなくなっているのだ。
彼にならば甘えても許される気になった。
彼に与えられる幸せならば享受しても許せる気がした。
愛が何かを知らない殺人鬼から齎される拙い愛情に胸が震えてしまう。
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