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三章:悪魔憑きとエクソシスト
神父の場合(2)01
しおりを挟む【神父の場合(2)】
最近、街の様子がおかしい。
ただの杞憂ならば良いのだが、ギスギスとした嫌な空気が蔓延しているように思えてならない。
神父として教会に身を置くブラン=エミュレスタは自室で頭を抱えていた。
悪魔憑き、と言う概念が、この宗教には存在する。
悪魔に取り憑かれ、尋常ではない行動を起こす者を指し示す言葉だ。
精神疾患者との見分けが難しく、また、社会に迎合しない思考や性癖を持つ者を悪魔憑きに仕立て上げる動きが見られることもある、危ない概念だとブランは思っている。
実の息子を悪魔憑きと罵り、自死に追い込んだ自責の念は、何年が経とうとも消えはしないのだ。
そして、悪魔を取り憑かせる悪者がいる。
そういう概念も存在した。
悪魔憑きは、憑いた悪魔を祓えば正常に戻るという認識で、処罰もない。
だが、悪魔を人々に憑かせていると告発された者は、魔女や悪魔と裁判で断定され処刑されてきた歴史を持つ。
そして、村という集合体の中で悪者探しが行われ、多くの罪のない人々が処刑され命を落としていた。
魔女狩りという名前で世間には知られている。
最近、街人が口を揃えて言うようになった言葉がある。
神父様聞いて下さい、と口を開いた後に、必ずある少年の名が挙げられ「見たのです」と続いていく。
真っ黒な頭髪に、同色の瞳、スラリと伸びた背は巨躯を誇るブランにも追い付こうとしていた。
亜細亜の血を引き、隔世遺伝で周りの持たない色を持ったが故に、街の中で浮いてしまう少年。
ブランの養い子に想いを寄せる一途な彼は、黒という色を身体に宿している。
この街で黒は、悪魔や魔女を連想させる色である。
街人達が言うことには、悪魔を喚び出しているところを見た、とのことだった。
ブランがそれを聞いて少年に疑いを持つことはない。
彼を昔から知るブランには解っていた。
少年に悪魔に関する知識は殆どない。
そもそも、信仰心が薄い今時の若者だ。
両親のためにミサには訪れても、神も悪魔も信じてはいない。
それがブランの知る少年だった。
恐ろしいことに、ここ最近、街人が取り乱し暴れるという事件が頻発し、「悪魔憑き」に皆が敏感になっている。
そんな中で「悪魔を喚び出している」との告発は、即ち彼が元凶なのだと訴えていた。
ブランに処刑する権限はないが、街人は神父に言えばエクソシストを寄越して貰えると思っている。
エクソシストが来てくれれば、調査をし、悪魔憑きから悪魔を祓い、その上で悪魔と交信する悪者を処刑してくれると、そう信じていた。
少年を処刑しろ、という密かな動きが広まっている。
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