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一章:SとK
喧嘩 01
しおりを挟む2.喧嘩、そして仲直り
【喧嘩】
面倒臭い。
其れが正直な気持ちだった。
一日の診察も終え、河東 参が帰ろうとしていた時である。
面倒の種がやってきた。
何をそんなに嬉々としているのか、聞かなくとも手に取るように解る。
今日は、ボクの幼馴染みである川路 深黒の診察日であった。
彼の精神科の担当医、敷家 継生は、どうやらクロのことが好きなようである。
見ていれば解る。
本人は全く気付きもしないが、苦手意識を無意識に持っている点は流石と言っても良いだろう。
クロは、男性からの好意に、無意識に怯える癖がある。
其れは、トラウマにも近い。
しかし、当の本人に自覚はないし、もしも下手に手を出されてしまえば、大変なことになるのだ。
今まで何れだけ尻拭いをしてきたか、思い出してげんなりした。
何故だか解らないが、彼は変な男を引き寄せてしまう何かを持っているようだった。
狭い病室に意気揚々と入ってきた継生は、まるで締まりのない緩み切った顔でボクに話し掛けてきた。
ウザイと思いながら、円滑な人間関係の為にも彼に診察用の椅子を勧めた。
継生は笑顔で礼を述べて、其処に腰掛ける。
彼ももうあがりなのだろう、背中にはリュックサックが背負われている。
赤色の大きめサイズである。
ヒーローにでもなりたいのだろうか。
私服も赤系色が多いようだ。
ボクならば絶対に選ばない色である。
「何か用ですか? 早く帰ってクロく。いや失礼。川路さんの作った夕飯を食べたいんですがね、ボクは」
厭味だと解っているが、厭味こそがボクの代名詞である。
言わずにはいられないのだ。
口に乗せながら、右手の中指で眼鏡の支点を押し上げる。
感情の籠らない顔で継生をじっと凝視した。
この男、馬鹿なのか鈍感なのか、厭味が殆んど通じない。
ボクにとっては天敵とも言える男だ。
「良いなあ、川路さんの夕飯。僕のこと、招待してくれませんか?」
案の定、普通の神経を持った人間ならばひきつるところ、にこにこと笑顔を崩さずに宣った。
僕もご飯食べたい、と顔に書いてある。
其れがそのまま口に出ているのだろう。
厭味の通じない人間は厄介だ。
クロみたいにオタオタすれば可愛いものを、と思考が変な方向に向かう。
「招待する訳がないだろう? ボクの家に君を呼ぶ理由がない。ボク達はそこまで親しくもないだろ。大体、川路さんも急に客が来たら、余分に作らなくてはいけなくなるんだよ。解るかい? 医者が患者の負担になるなど言語道断、あってはならないことだ。解るよね? 敷家君、君が川路さんのことが好きなのは見ていれば解るよ。しかしだね、川路さんの重荷になることがあってはいけない訳だ。あまりに強引なアプローチは」
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