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Neu(ノイ)

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一章:生命の在り処

陽だまりのような君 03

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陽向の隣で笑っていたいと思った。
それは己訓にとって、妻を裏切ることと同義である。


 彼女は命を失くした。
臓器を許可もなく抜き取られ、訳も解らずに死んでいったのだ。
彼女以外の人間と歩む未来など考えたくもなかった。
彼女のいない人生で幸せを感じるなど、到底許される筈もない。


 肺が軋んだ気がした。
息が苦しい。
吐気がする。
こんな想いをするぐらいならば、あの時、妻と共に死んでしまいたかった。
彼女への罪悪感に苛まれ、己の幸せを全否定してもまだ、責め足りない。
終わりなど来ない自己否定を、国も自治体も医者も、誰もが知ろうとはせず、命を救った大義名分に酔っている。
命を救われたのではない。
妻の命を与えられ、死ぬ筈だった運命を勝手に変えられたのだ。
妻の命を冒涜し、彼女の身体を陵辱することと、何が違うのか。


 ぐらり、と視界が揺れる。
危ない、と伸びてきた陽向の腕に支えられていた。

「先生、大丈夫ですか? 顔色がすごく悪いですよ。少し休まれた方が」

眉を寄せている青年に泣きつきたくなる。
優しくして貰う資格など自分にはないのだ、と喚き散らかしたい。
人殺しなのだ、と喉元まで上がった言葉は音にならなかった。
黒板の下に体躯を凭れ掛けるように座らされる。
額に触れる陽向の掌は、ひんやり、としていて気持ちがいい。

「すまない。大丈夫だから君は行きなさい。次の講義があるだろ?」

ひどく苦しい呼吸の下で告げると、陽向の眉頭が吊り上がった。

「何を仰っているんですか! 体調の悪い人を放って講義になんか行ける訳がないでしょう。先生はもう少し甘えてもいいと思いますよ」

怒りを含んだ語調で言う癖に、頭を撫でてくる手は優しい。
見詰める瞳は慈愛に満ちていた。
陽に照らされて輝く蜂蜜色の頭髪が眩しかった。


 陽だまりのようだと思う。
真っ暗闇に一人佇み凍えている己訓に、安心と温もりを与えてくれる。
それは懐かしい感覚だった。
妻といる時に感じていたものだ。
優しく包み込んで己訓を癒してくれる。
もういない妻に試されているのかもしれない。
はたまた、神から与えられた『何か』なのか。


 陽向という存在の意義も解らずに、ただ腕を伸ばす。
陽だまりのように優しい彼に、縋り付きたかった。
体躯に腕を回され抱き着かれた陽向は「大丈夫ですよ」と柔く囁き背を撫でてくれる。
不思議と苦しかった息が落ち着き、痛みを感じていた肺も何も感じなくなっていた。
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