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Neu(ノイ)

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序章:乃々子さんの息子

プロローグ 01

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【プロローグ】


 乃々子(ノノコ)さんには、息子がいた。
彼女は、兄の付き合っていた人だ。
乃々子さんは優しくて、上品な面立ちに雅な雰囲気を持った美人であった。
それが悲劇の引き金だったのだろうか。
今となっては解らず仕舞いだ。


 彼女と兄が結ばれることはなかった。
乃々子さんは、お偉い権力を持った男に気に入られてしまったらしい。
断わっても拒んでも、その男は乃々子さんに付き纏った。
そうしてある日、彼女は拐われてしまう。
乃々子さんが戻った時には、お腹に子供がいた。
汚い手口だったが、権力のある男だ。
泣き寝入るしかなかった。
乃々子さんは、村から出ていき、その男に嫁いだ。


 その後も、里帰りした乃々子さんを何度か見掛けた。
隣には小さな男の子がいたのを覚えている。
彼女に似て、上品で綺麗な子だった。
自分が怖い顔をしているので良く記憶に残っている。
羨ましかったのだ。


 最後に見たのは、何年前だろうか。
乃々子さんの優しい微笑みが頭を離れない。

「ヤスシ君は、アン君に似ているわね。外見が怖いから誤解されやすいけど、本当は誰よりも優しい。そういうところ、好きよ」

最後に交わした台詞だ。
小さな口が、しかしふっくらと肉厚な唇が、弧を画いて笑みを象っている。
胸が震えた。
乃々子さん、そう声を掛けたかったが、上手く出来ない。
気付けば、彼女は兄と並んで歩いていた。
二人の背中が視界に広がる。


――駄目だ! 行ったらいけない!


必死で手を伸ばす。
走って走って、追い掛けた。
何故だろう、全然前に進まない。
声も出ない。
伸ばした掌は、虚空を掴んだ。
二人は崖の上に立っている。


――やめてくれ!


そう叫んだのと、兄と彼女の姿が消えたのは、同時のことだった。




 息が荒れている。
触れなくとも、自分の目尻から頬と枕が濡れていることは解った。
布団の中で泣いている38歳の親父の図ほど滑稽なものはないだろう。
それでも、嗚咽は止まらない。
思い出したくない過去を夢で見た。
胸が苦しい。
ずっと封印していた記憶だ。
どうして今更、という想いが浮かんだすぐ後で、先日出会った新人社員の顔が脳裏をよぎる。
乃々子さんに似た上品な面立ちと、男性でありながら線の細さを感じさせる雅な雰囲気を持った、15歳も年下の彼は、編集長室に社長と共にやってきた。
彼の父は、大物国会議員で、勿論だが、通年は社長と一緒に新入社員がやって来ることはない。
特別待遇を受ける幼さを残した青年を見た瞬間、思わず口を吐いていた。
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