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一章:編集長は快楽に流されました
快楽に勝てる人間など、いないに等しい 01
しおりを挟む【快楽に勝てる人間など、いないに等しい】
快感と痛みは、時に紙一重だ。
澤田 寧(サワダ ヤスシ)は極道に間違われる程の強面を歪め、熱い息を吐き出した。
どうにか意識を下半身から引き剥がそうとしても上手くはいかない。
自身の股を擽るのは部下の髪である。
寧の分身を口に含み、慣れた仕草でその刀身を育てている男に、寧は翻弄されるしかなかった。
「っ、さかっ、つ……!」
己の恥部から湿った音が響くのが酷く恥ずかしく、寧は片腕で顔を覆う。
ローテーブルの淵に凭れ掛けている肩にガラスが食い込んで僅かな痛みを伝えてきた。
ぐちゅり、と音を立て、部下の酒都 楼(サカツ ヤグラ)の口唇から男根が現れる。
その様は何とも淫靡で、寧は目眩を感じ得ない。
上品で雅な雰囲気の男が放つ色香に、胸が悲鳴を上げる。
「編集長。気持ち良さそうですね。僕の口の中、良いでしょ? 評判は悪くなかったんですよ」
あはは、と笑い寧の濡れた亀頭を指で弾く楼から放たれた言葉に涙が込み上げてきた。
くそっ、と悪態を吐き出し、寧は顔を覆う腕を降ろしていく。
楼の髪に手を差し入れ掻き混ぜれば、彼の口が半開きになっている。
寧の瞳に光る涙に気付いたのだろう、嘲るように笑みを象ろうとした楼の顔は、それでも歪なまま笑みの形になることはなかった。
上手く表情を作れずに戸惑う楼は、寧に髪を掴まれて我にかえる。
「接待、させられてたんか? 海輿さんの命令か?」
きゅう、と細まる双眸が、寧のヤクザ顔を切な気に見せていた。
楼は息を呑んで知らず知らずの内に彼の目尻にと指を這わせる。
「……父のその名を、どうして編集長が知っているのですか?」
酒都 海輿(サカツ ミコシ)。
それが楼の父の本名だった。
世間ではカイコウと名乗っている彼の本名を知る人間は限られているのだろう。
低く響いた楼の声には何処か驚愕が混じっていた。
「俺にも色々とあんだよ、ボケ。それよりもだ! 今はこういうの、強要、されてねぇだろうな?」
掴んだ髪を引っ張り、面白くないと凶器のような顔が更に怖くなり、その顔で楼を問い質す。
楼の舌が自身の唇をゆったりと舐めていく。
「こういうの、って枕接待のことですか? それをするのが嫌で家出中なんですよ。ですから今のところはされていません」
寧の目元を擽る指が頬を辿り、唇を撫でた。
楼の淡々とした返答を聞いた年上の男の額が、肩口にと当たり表情が見えなくなる。
寧の手が楼の髪から離れ、背中に回された。
慰めるようなその動きに楼は眉を顰め、自嘲の言葉を吐き出す。
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