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序章:俺、刑事辞めるわ
14:17、地震発生 02
しおりを挟む伸びたままにしている髪を掻き混ぜ、鑑識課のある二階に向かう。
榛伊は苦虫でも噛み潰したかの如く苦々しい顔で頷いた。
彼は時折、こういった不可解な表情を見せる時がある。
大抵がN署で署長を勤めている荻原 定義(オギワラ サダヨシ)の話題を出した時だ。
普段の無表情が嘘のように居心地が悪いと顔を歪める。
博信的には、疚しいところがない訳ではないので、バレたのかとヒヤヒヤするのだが、どうもそういう訳でもないらしい。
定義との出逢いは、それこそ警察学校時代まで遡る。
今年、38歳になる博信と定義は、警察学校の同期だった。
かたや優等生の定義と、かたや問題児の博信との間に接点など、さしてありはしない。
それなのにも関わらず、二人が20歳を迎える年、定義は初対面の博信に向かって愛の告白をしてきたのだ。
当然、丁重に断ったのだが、それからも定義は何かと博信に絡んできては親しくなろうとするものだから、うっかり懐に入れてしまった。
何だかんだと同じ署に配属され数年。
署長に推薦されエリート街道まっしぐらな未来が見えているのに、辞令を断ると言い出した定義を説得するのに博信が駆り出された。
結局、定義はとある約束を博信に取り付けることで署長になることを承諾したのだ。
博信からすれば巫山戯た男である。
未だに博信のことを好いているらしい定義との関係は、ただの同僚であり上司だ。
それ以上もそれ以下もありはしない。
それであれ、男が男を好いていると知って、いい顔をする人間ばかりな世の中ではないのだ。
榛伊の表情も嫌悪感からなのかと思うこともあったが、実際には違うようだった。
定義と博信が、ギブアンドテイクで成り立っていない関係に思えてどうにも不可解で嫌なのだと言う。
嫌いな訳ではなく、心がざわつくのだと本人の口から聞いたので、間違いはない。
意味は理解出来ないが、嫌われていないならば気にしないことにしている。
「あまり署長に甘えるのもどうかと思いますよ。神田さんだから許されますけど。……気持ちは何となく解りますがね」
榛伊が目を細めて微かに口端を持ち上げた。
何処となく辛そうに呟く彼に博信は眉尻を上げる。
「甘えちゃあいねぇぞ。大体なんだテメエ。俺の気持ちを理解しようなんざぁ、お子様には早いんだよ」
ケッ、と悪態を吐くと榛伊の両目が瞬いて困ったように自身の頬を掻き始めた。
「……気持ちに応えられない癖に好意に甘えてしまうことがあるんですよ。神田さんもそうなのかと思ったんですが。違いましたか?」
一瞬、躊躇して言い淀んだ榛伊が真剣に問うてくる。
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