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一章
加入と将来
しおりを挟むあれからクリステルがどうなったかと言うと、リハビリの事もあってか、労働基準監督署から許可が下りず、雇う事ができなかった。
「と言うわけだ」
「「「そんなー」」」
常に等身大でいられるクリステルだからこそ気付くことがあり、等身大だからこそ言い合える事がある。クリステルが顔を出すようになってから、ゲーム外の戦術会議が白熱し、良い刺激になっている。
その為、三人は合流してほしいと、一義に懇願していたのだ。
また、プロに懐疑的で演者として見ていた一部の社員は、戦術会議の様子をからすっかり見直してくれている。
「そこで私と言うわけだな」
「ええ」
プロゲーミング部の部屋にはクリステルの父親、典昭が来ていた。
一義が描く筋書きはこうだ。
典昭は齢五十六にして一念発起、教頭の代役を立てて職を辞しフリーランスへ。教育のノウハウを生かして、株式会社ジャストライフの教育系サイトを監修し、プロゲーミング部の選手の勉学マネジメントをする取引を行う。
辛いリハビリの癒しや、クリステルは典昭に同行して、プロゲーミング部の友達一緒に勉学マネジメントを受ける。また、コーチングではなく配信の感想を言って友達を励ましているだけ、とするのだ。
「なるほど、私は娘の為に貯蓄しているだけだ、と言うわけだな」
「はい。監査が来るとまずいですが、ある程度通ると思います。せっかく勉学マネジメントをしてもらうのだから、リハビリが集中できるように、一緒に受けて時間を有効活用しているだけだと言い張るわけです」
「私が教員を辞める理由は足悪くした娘が、一刻も早く歩けるようになる為に、その一刻が惜しいと言うわけですな」
「はい」
逡巡した後、典昭はこう言った。
「なんという男だよ。なるほど、成功するわけだ。クリス」
「パパ、私はさっき話した通り、美優希たちの力に成れるのなら成りたい。もらった力は返したい!」
クリステルと見つめ合った典昭は、大きな溜息を付いてこう言った。
「私は君に見透かされていたのかもしれないね。クリスの怪我に寄り添うのに限界がある私の事を分かっていて、シアをいち早くきちんと送り出し、給料もわざわざフランスへ送金してくれて。私は公務員の限界を知った。今度はフリーランスの自由を知ろうじゃないか」
「契約成立ですね」
典昭と一義は握手を交わし、話を詰める為に部屋を出て行った。
「これが真実に隠された真実かぁ」
「うそがない。これが大人の世界か」
「ほんの序の口よ。すごいところはまだすごいのよ。二度と行きたくないわ、イギリスの社交界は」
いつも明るいアレクシアがどんよりとして、つぶやいた輝と野々華は引いている。
「それより、クリスもお父さんの事はパパ呼びなんだね」
「はい。ママの影響もあるけど、パパは昔から優しくてよく遊んでくれて、リハビリはいつもパパが付いててくれる。フランスにいる時も毎日メッセージをやり取りして、事故に遭ったときは、悪くないのに毎日謝ってくれて。尊敬してるの」
「そっか、私と一緒だ」
これをきっかけに、クリスは美優希と中を深めて行き、その過程で輝と野々華とも仲を深めていった。
典昭が正式に教員の職を辞したのは、八月三十一日だった。
九月からは、クリステルを連れて、梨々華も合わせて勉強面をフォローしてもらうようになった。また、教頭と言う職務に追われることがなくなった典昭は、その時間をリハビリについて調べる時間に費やしている。
この頃の美春はハイハイができるようになっており、全く目が離せない。面白いのは泣くと春香に向かって行き、笑っていると美優希の方に向かって行き、眠いと一義の方に向かっていく。必ずと言うわけでもないのだが。
当然、理由は分からない。
「はい、よくできましたー、たかい、たかい」
「あーい、キャッキャ」
ハイハイして美優希に向かって行き、やって来れた美春を抱え上げて遊んであげている。
ローソファー裏のデッドスペースは美春用のスペースで、専用マットを敷いてあり、遊ぶときは必ずそこで遊ぶ。
美春と二人きりの場合は火を使わない約束だ。アイランドキッチンであるが故に鍋が落ちて直撃する可能性が高いからである。
「ねーね、ねーね」
「どうしたの?」
結局最初に呼んでもらえたのは春香で『マンマ』、ご飯の事を言っているとか思ったら、全くそんなことはなく、ご飯は『あー』で春香を見てはっきり『マンマ』と言うのである。
その次は美優希で『ねーねー』、一義は最後で『パッパッ』だった。
「パーパ」
「パパの所に連れてって欲しいの?」
「あーい」
美優希は美春を抱っこして、ローソファーで仕事をする一義の隣に座った。
「マーマ、マーマ」
「はいはい、美春、もうちょっと待ってねー」
「ぶー」
美春はご飯を食べた後、美優希と遊んでもらって満足すると、美優希に一義の所に連れて行ってもらい春香を呼ぶ。
一義はノートパソコンでよく絵本を読んであげている。ある日、三人に読んでもらったのが本当に楽しかったのか、こうしてみんなを集めて読んでもらおうとするのだ。
美春が生まれてから夜に家族でゲームするのは、美春が寝てしまってからだ。なかなか寝てくれない時は、どうしようもないのでパソコン部屋に連れてくることはある。
そんなある日の休日、月に一回は配信をしない日曜を作り、休みを謳歌してした。
その日はイラストの腕が鈍らないように、一義は朝からイラストの自主製作をし、美優希はその隣でMMORPGに勤しんでいた。
美春がお昼寝をするタイミングで、春香は買い物に出かけており、春香が帰る前に美春が起きてしまって泣き出した。
美優希はゲームを放り出して美春のところへ行き、抱っこして泣き止んだ美春をパソコン部屋に連れて来た。
「パーパ」
「ん?抱っこ?」
「あーい」
美優希から美春を受け取って、あやしていると、美春は書きかけのイラストに気付いてじっと見つめている。
「どうしたの?」
「あーう」
「絵がどうしたの?」
「あう、あー」
美春が何を言いたいのか分からない。ペンを持たせてみようとしても、握らずに突き返してくる。
「あ、そう言えば、前に絵を描いてる時、指をくわえてじっと見ていたから、もしかしたら私と同じかもよ?」
「なるほど」
美春が落ちないように気を使いながら、座面を調整し絵を描き始めると、美春は指をくわえてじっと見ているだけになった。
「案外、才能あるのかもね」
「お前と同じにならないようにしないとな」
「ほんとだよ。でも、最近は苦手意識なくなってきたかも。今年のクリスマスプレゼント液晶ペンタブがいい」
「分かった。探しておくよ」
結局、美春は夕食までイラスト制作をじっと眺めているだけだった。
それからというもの、美春は一義がイラスト制作をしていると、膝に乗って眺めるようになった。
クリスマスを過ぎると、美春は美優希のイラスト制作でも、膝に乗って眺めるようになり、会社に連れて行くと、輝のイラスト制作でもその膝の上で眺める。
「美春ちゃんいい子過ぎない?」
輝がそう言うのも無理はない。つかまり歩きができるようになって、ますます活発になっているのだが、なぜかイラスト制作をしていると膝に乗せろと言って、乗せると大人しく眺めている。
「でも、可愛いじゃん」
「そうだけど・・・」
野々華にそう言われるが、輝はいまいち納得していない。
三年生に上がって去年同様大盛り上がりした体育祭が終わった六月、進路希望の紙が配られた。周りが悩んでいる中、四人はすぐに書いて提出し、先生を驚かせた。なぜなら書くことが決まっていたからである。四人共、私立響輝女学園高等学校進学科一択である。
因みに、梨々華は株式会社ジャストライフの正社員となった。
「いや、片岡さんですから心配してないのですが、響輝女学園は高いですよ?」
「輝ちゃんも野々華ちゃんもそうですけど、この子ら既にその二十倍を稼いでいるので。配信者として、動画の演者として」
「・・・え」
固まってしまった先生、復帰するまでにかなりの時間を要した。
進路の件で三者面談をしているのである。
「まぁ、偏差値は高いですが、三人なら問題ないでしょうし、幸い、公立よりも響輝女学園の方が近いですからね。因みに、進学科と言う事は大学進学なんですよね?」
「私は経済学部に進みます。輝は美大、野々華は国際言語学部のはずですよ。今のところは」
「そうですか。このまま勉強をおろそかにしなければ、三人共大丈夫なので頑張ってください」
資料をまとめ直す先生は、思い出したように口を開いた。
「あとクリステルさんも響輝女学園の進学科を希望しているのですけど、何か聞いていますか?」
「クリスは社会学科を有する大学で、私の秘書になるつもりみたいです」
「そう・・・え」
「プロゲーマー引退したらパパの会社を継ぎます」
「そうですか。クリスさんも成績は良いので大丈夫です。響輝女学園は高度な障碍者の受け入れ設備が整っています。それでも大変なことに変わりはないですから、クリスさんをしっかりささえてあげてくださいね」
終始圧倒されっぱなしの先生は、それでも、美優希、輝、野々華、クリステルの関係性はつかんだようである。
「では、次の人を呼んで、帰っていいですよ」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
進路指導室を後にして、次の組へ声をかけると、早速会社に向かった。
「先生さ、プロゲーマーとか配信者とか言っても、結局何も言わなかったんだよね」
「私も、何も言ってなかったかなぁ。そうか、で終わってた」
美優希と野々華の場合、プライドや沽券にかかわる事実よりも、稼ぎ出す額があまりにも高すぎてどうでもよくなっているのである。
「私は二足の草鞋でできると思ってるのか、って言われたけど、兄ができているのでやるだけです、って言ったら黙った」
輝の場合は、野々華の後だったので事実を踏まえた上で、面談が進められたからである。
三人でクスクス笑いあい。クリステルの到着を待つ間、梨々華も交えて今後の配信の予定調整を行う。
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
やっと来たクリステルは少し疲れており、前の家族がだいぶもめていたようで、遅くなってげんなりしていたのだ。
「クリスはどうだった?」
「特に・・・あ、なんで美優希の秘書になるのか聞かれた程度、返しきれない恩があると言ったら納得してくれました。友達の為に頑張れるのは素敵ですねって言ってもらえました」
「そっか。よかったね。私も期待してるからね」
「はい」
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