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一章
合宿になるはずだった
しおりを挟む美優希たちが夏休みに入る前に、梅雨終わりの雷鳴が響く頃、一義に将と隼人から連絡が入った。
「練習相手になってほしいと言うわけか」
「はい。もう少し濃い試合経験をしたいと思って、チームオーナーの将さんと話し合いをしたんです」
「ですから、私も合意の上です」
「そうでしたか」
リージョンの影響で美優希たちは大会への出場が難しい。
リージョンとは地域の事で、国や地域によってゲームにかけられる制限が違う為、選手を名乗っても出場は難しいと言わざるを得ない。大会の出場規約はリージョンによる違いを無視して作れない事情がある。
日本のCEROのように、暴力的、性的表現は刺激が強いので、精神が未熟なうちにそれに触れて、トラウマを作り成長に影響を及ぼさないようにする為だ。
FPSゲームはリアリティーを追求すると暴力的表現は絶対的に避けられない。その為、制限年齢が高く設定され、プレイする側に強制されないが、リリース側には審査と表示が義務付けられている。
美優希たちは、親の同意と監視下で、カウンセリングを受けながら選手を目指している事になっているので追求はない。
「どうでしょうか?」
「・・・助っ人に私とクリステルを入れることになるでしょうね。現状、選手は三人しかいませんから」
「配信はどうしましょう?」
「クリステルを入れると配信はできません。彼女に報酬を出せませんので」
一次的であろうと報酬を出すと言う事は、雇用関係が発生すると言う事でもある。
「クリステルには特殊な事情があるので、美優希たちのようにはいかないんです」
「そうでしたか。練習ですから配信できなくてもこちらは問題ないです。そちらはいかがですか?」
「夏休み期間なら問題ないですよ」
R5Sの公式シリーズ大会、日本予選が九月に迫っており、内容の濃い練習がしたいのである。そして、これを足掛かりに定期的な練習試合をするような仲を築き上げたいのだ。
それから数日かけて日程を組み、練習試合の目途が付いた。日数を掛けたのは、将が他のチームにも声をかけて、練習試合はかなり大きなものにしたからだ。
そしてもう一つ目的がある。
「私たち以外にも選手希望がいるんだね」
「ああ、せっかくだから、共同開催の新人発掘の場として使うことになったからな」
そう、将来有望な選手を発掘しつつ、プロのプレイングに触れられる経験の場として、練習試合の場所として開催するのだ。
賞金はないが、参加費は交通費だけにして、門戸を広く開け、会場は株式会社ジャストライフの旧社屋、第二社屋で行う。
試しに声をかけてみると協賛企業が意外と集まった。
パソコン本体の提供として四月一日電算、キーボード、マウス、ヘッドセットの提供をRyzer、モニターの提供をiikawa、机、椅子の提供は地元の家具屋だった大野家具がやってくれる。
選手の寝泊まりは、大野家具の伝手によって地元のホテル、グランダホテルが半額で受け入れてくれた。
「当日はプロの胸を借りるつもりでね」
「「「はい」」」
「クリス、助っ人で入ってもらうよ」
「はい」
先に集まったのは協賛企業の社長たちとチームオーナー、その秘書たちで、一番ニコニコだったのはグランダホテルだ。
これには理由があった。
「八月と言うのは、この辺りは閑散としてしまうんですよ。上京者のベッドタウンの側面もあって、なのでどうしても売り上げが落ちてしまうんです」
「それで半額とは、随分思い切ったことを」
「なので、チームオーナーさんにお願いしたいことがあるんです。インフルエンサーとして」
グランダホテルの宣伝と、サービス評価をしてほしいと言う事である。大野家具の社長の入れ知恵だが、半額でも泊まってくれればこの時期の赤字は零だと言う。赤字無しでプロモーションできるのであれば、と言う事らしい。
「必要であれば、プロモーション費用はお支払いします」
頭を下げたグランダホテルの社長に、チームオーナーたちはうなづき合った。
「でしたら、効果が認めらたら、見返りとしてプロモーション費用をいただくことにしましょう」
「ありがとうございます」
これが終始ニコニコしていた理由だ。
また、当日はホテルのシェフを出向させて、お昼を作ってくれる。それくらいはさせてほしいと言うわけだ。
「そう言えば、考えていただけましたか?」
思い出したように話し出したのはRyzerの日本支社の社長だ。美優希たちのスポンサーに着きたいと前から打診があった。
「機材提供していただいたとしても、顔出しをしていないので」
「料理動画の延長で構わない事は、本社とも話が付いています。我々で調べたところ、猫耳付きのヘッドセットやピンクのキーボードが思った以上に売れていまして、御社の演者さんが使っている事を公開した時期と、売れ行きの時期に相関あると分かっているんです」
「では、試しのプロモーション動画を作って、Ryzerさんが納得し、効果があるなら、その試用期間として契約しませんか?その方がお互いにとっても安全でしょう」
「だったら、うちもお願いしたいですね」
集まった社長たちは次々と手を上げ、チームオーナーたちにもお願いすることになった。チームオーナーたちは既にスポンサーがいるので、後日調整を行う。
社長たちが集まれば商談会になるのは当然である。そもそも、ジャストライフは業界においてインターネットの広告代理店としてのパイオニアであり、彼らはそれを狙っているのである。
商魂たくましいとは、このことであろう。
八月上旬、各チームでもプロモーションを行ったことで、思った以上の人が集まり、スタジオはすし詰めに近い状態になっている。その為、社員食堂を一時控室とし、社員たちには急遽お弁当を配布した。
社員たちも苦笑いの状態だが、これだけ人が集まるなら、と企画部が盛大に動き出し、各部署も独自企画を練る事態に。良い刺激になった。
「お兄ちゃん」
「輝、今日は楽しみにしてるからな」
「簡単には勝たせないからね」
「お、プロを嘗めるなよ?」
隼人と輝のやり取りにほっこりできたのは、練習試合が始まるまでだった。
午前中、美優希たちを嘗めてかかったチームはボコボコにされて、どのチームもワンミスでもてあそばれる事態になった。
午後からは選手志望の一般参加者がプロに混ざって、ダメ出しを受けたり、励まされたり、褒められたりと、充実しているようだ。
翌日の午前、気の引き締まったプロたちは、美優希たちに負けはしないが、ボロボロにされる辛勝だ。これによってこの時期にしか練習できない事が不満になり、午後からはチームオーナーたちによって話し合いの場が持たれた。
ゲームの練習試合は会ってやる必要はどこにもない。日程を合わせればいつでもできる。
問題はクリステルがいつでも参加できると言うわけではない事だ。これに関しては、チームから補欠を出してもらって埋め合わせすることになった。
「ジャストライフゲーミングは試合経験の少なさ、それ以外は完璧なので、出場できるようになるのが楽しみですね」
「俺たちが勝っているのはそれしかない。ここまで内容の濃い練習試合はなかなかできない」
「お金を出し合って、継続的なイベントにして行ければ、と思います。ここまで完成した選手が埋もれている現状が悔しい」
どの選手も、プロと言うだけあって、人格がしっかりしている。
翌日の午前中は練習試合を無くしてスタジオの原状復帰をし、最終日の今日は一般参加者がいないので、午後からは、第一社屋の二階会議室で会議を行う事になった。
「問題は会場ですよね」
「そうだ、維持管理費を出すぐらいなら、協賛ホテルに泊まってもらってバスを手配した方が安いんだ。ここでやるにしても、かなり無理をしている。本業務に支障が出る可能性が高い」
「人が集まらなければ問題、人が集まっても問題なんですよね」
「行政にも伝手がある。設営や運営を手伝ってくれるのなら、俺もそこを使うのはやぶさかでもない。今年の市長は知り合いだからね」
「勿論手伝います」
会場は行政に借りることにし、機材保管は会社で保管、当日の機材運搬は運送会社に頼むことになった。
会議の後、協賛してくれた社長たちと連日オンライン会議を重ね、徐々に規模が大きくなっていく。
「なるほど、行政は十日なら体育館を貸してくれると言うわけですね」
「ええ」
体育館はバスケットコートが二面取れるほどの大きさだ。市長は気前よく使っていいと言い、体育館の空き情報まで教えてくれた。
企業版ふるさと納税を引き出し、地域貢献をアピール、体育館の使用料は寄附で無料にしてもらった。
「減税を受けられるのなら出資しよう。問題は人員の確保だな」
「それに関してはそれぞれの企業から二、三人を出向と言う形でいかがでしょう?少人数を出し合った方が集まります。一社だけでは負担が大きくなってしまいます。各プロチームも運営に携わる約束があります。リーダーは彼らにやってもらいます」
「うむ、二、三人程度なら出せるな」
「スタッフの数がいるなら、一般参加者から費用を取ってもいいだろう」
大会ではなくイベント、賞金ではないので、参加費は選手に回すことも可能だ。選手は演者であると言い張ればいい。
と、この時点では思っていた。
「それから、当日は屋台と言う形で各社の製品アピールや即売会を実施できます。練習試合は体育館の半分も使わないので」
「それは良いな」
規模が大きくなるにつれて、協賛企業にはゲームメーカーが参入、もうどうせならと大会にしてしまうかとまで話が持ち上がった。
体育館に、全協賛企業の社長、各プロゲーミングチームオーナー、e-sports教会、弁護士、県警の生活安全課、市長、知事で集まるところにまで発展したのは十一月、主催である一義自身とチームオーナーたちがドン引きしている。
「改めて、練習とは言わず、全日本プロゲーミング選手権大会にしましょう。実践の大会ほど練習になるでしょう?」
ここに集まったのはこの県知事の言葉であった。プロゲーミング大会の為のシンポジウムとして、二階には一般観覧者もいる。
問題の柱は風営法だ。
「選手が参加費を出して、賞金に充てると風営法違反です。同様に、一般参加者の参加費も違反になります」
選手の賞金問題である。
「では、協賛企業様の出資を賞金に当てて、参加費を選手以外への分配、運営費にした場合はどうでしょう?」
「それにも問題はありますが、主催を連名にして賞金を出し合うのであれば、問題ないでしょう。選手が見せたパフォーマンスに対する対価と見られますので。ただし、対象タイトルのメーカーが出すのは違法です」
更にゲーム専用機問題をどうするのかも話し合われる。
「パソコンがゲーム専用機とはなりません。と言うかできません。言いがかりと言うレベルです」
「弁護士さんの仰る通りです。汎用ツールと見なされます。また、皆さんが思うゲーム専用機は多機能化しておりますので、専用機とは言えません。正確にはゲームソフト再生機能搭載機です。他のタイトルも遊べると言うのなら、ゲームセンターに置かれるゲーム筐体も大丈夫です」
「特に格闘ゲームが先行して判例を持っています。その為、司法でも同じ判断となるでしょう」
今度は年齢制限に関してだ
「答えはCEROに従うしかありません。青少年健全育成条例にもかかってしまう問題ですから、選手になる為だと言っても、成長を阻害する可能性がなくなるわけではありません。ジャストライフゲーミングのようにカウンセリングが付けられる環境は特殊で稀です」
チームオーナーたちは制度として取り入れたいが、どうしてもお金の問題が付きまとう。企業としてそれだけの体力がないと無理なのだ。
「県警として、法律に則って行われる大会であれば、邪魔する気はありません。言いがかりを付けられたら、営業妨害として被害届を出してください。捜査後、必要があれば検挙します」
大事になりすぎて、翌日には胃炎を診断された一義だった。
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