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一章
お金と大会と進展
しおりを挟むシンポジウムが開催された裏では、四人が響輝女学園の推薦入試を受けていた。
株式会社ジャストライフとしての推薦状も出したので、あまり心配はしていない。この心配がないおかげで、胃に穴が開くことはなかった。
翌月の十二月、合格発表日に四人は合格通知書を一義に見せた。
「よくやった」
「「「「はい」」」」
今年のクリスマスパーティーは合格祝いも兼ねる事になり、春香が存分に腕を振るう。その様子を撮影する映像制作部は引き気味だ。
それもそのはず、結婚からパティシエールとしてのお菓子作りから遠のき、美春は美優希か一義が見ているので、そのお礼も兼ねているからである。
映像制作は延々と春香の惚気と美優希と美春に対する愛を聞かされて、空気まで甘すぎてしかない。それで引いているのだ。
社員たちが業務を終えて、家族を連れて食堂に訪れると、子供たちは歓声をあげて、大人たちはドン引きと感嘆の半々だ。
「社長、一流のパティシエールって本当にすごいですね」
「そりゃな」
写真付きでSNSに投稿すると、瞬く間に十万以上の拡散に、二十万のハートマークをもらい、コメントは一万以上も集まって、伸び続けている。
「これがパティシエールよ」
その伸びた鼻をへし折るのは美優希だ。
「大人の半分が引いてたらダメでしょ」
「だーめ」
美優希に抱かれた美春は美優希に同調して春香を窘めた。
そんな社長一家は余所に、子供たちはプレゼントを奪い合い、大人たちはクリスマスケーキに舌鼓を打っている。
梨々華を除いた四人に希望のクリスマスプレゼントを渡して夜は更けていった。
年が明け美優希の誕生日が来て美春の誕生日が来て、卒業式を迎えて入学式を迎え、一義は堪らない状態になっていた。
ともかく美優希たちが稼ぐので、大学と留学費用の積み立てが早々に終わってしまい、利益が高すぎて投資先を探さないといけない状態になっている。
そして、高校に上がってクリステルが正式に合流し、クリステルが主に外人向けを担当するので、利益は上がる一方なのである。
結局、美優希たちの雇用契約の見直しを行い、歩合を付けるに至った。自分たちがどれほど稼いでいるか自覚させて、お金の管理能力を付けさせるのである。
その一回目の振り込みの日、美優希たちの顔は真っ青になり、ようやく一義が頭を抱えた理由が分かった。
厚生年金は上限で差し引かれ、各種保険料も上限で差し引き、所得税も三十三パーセントでひかれ、手取りは六割である。差引額も大きいが、手取りも大きい。大金が舞い込んだようなものだった。
四人共どうしたのかと言うと、上限のない通帳を作り、通帳とカードは家の金庫に仕舞ったのである。
「会社の人、皆そうなんだよね」
「ああ、だから、君たちが思っている以上にみんなお金持ちなんだよ。役員連中より稼いでいる部長もいるくらいだから」
「でも、生活レベルってあんまり変わらないよね?」
「君たちの両親も俺も変えないよ。もし倒産したら、借金ができたら、生活レベルを落とすのは苦痛だからね。だから、俺は基本的に現金一括払いなんだ。あの家も一括だよ」
土地代は事情が違うので別計算だが、建築費用で一億相当吹き飛んでいる。そこはさすがの社長の資産力と言っていいだろう。そもそも、一義は経営に関わっていないだけで、いくつかの会社のオーナーで、膨大な配当金をもらっている。
「車も一括なんですか?」
「勿論。整備費用込みでも、最低五年は乗るからな、年間百万の貯蓄で賄える。昔から改造にも興味がなくてな」
「社長の資産っていくらあるんです?」
「俺はオーナー社長だから、個人資産には会社の資産も連結される。諸々合わせたら百億は優に超えてるぞ」
その程度でドン引きされても困るわけだが、それだけ金銭感覚はくるっていないのである。梨々華はそんな四人を鼻で笑いながら質問を投げかけて来た。
「高級外車とか買わないんですか?例えばフェラールのスーパーカーとか」
「俺にとって車は便利かどうか以上の基準も興味もないからな。それこそ、車で家族旅行するから、走破性、居住性、運搬力がバランスよくまとまってた方がいいよな?」
「確かに。趣味とかないんですか?」
そう言われて一義は固まってしまった。
「え、パパ趣味ないの?」
「それまずくないですか?」
「息抜きどうしてるんですか?」
クリステル以外は意外という様子で、少し慌て気味でもある。そのクリステルはあっけらかんとこう言った。
「もしかして、考えたことがないんじゃないんですか?」
ややあって一義は返答した。
「確かに、そうだな。だが、あえて言うなら絵だな」
「絵?」
「起業してからだな、美優希が一緒にいないと苦痛になってね。イラストレーターを雇い入れてからは楽になって。仕事に関係なくても定期的に描くし、楽しいのかまでは分からないが、無心になってずっと描いていられるんだよ」
「これは、間違いないですね」
パソコン以外で絵はかかないので、趣味に使うお金が少ない。生活レベルは上げず、たまの贅沢はふるさと納税の返礼品なので溜まる一方だ。
「社長、お金の運用ってやっぱり長期的に考えてるんですか?」
「いや、使う時の為に大きく貯めるという思考だ。安くていいものがあるのなら当然優先するが、いいものは高い場合が多いからな」
「確かにそうですね。退職後はどうするつもりなんですか?」
「俺が取得している株の配当金で暮らす。それが年間八百万程あるからな」
梨々華がやりたいのは一義からお金をどうしているか聞いて、真似してみようと思っているのだ。一義に腐っていた自分を拾い上げてもらい、母親の真純から会社の沿革を教えてもらい、尊敬しっぱなしなのである。
「この会社は美優希ちゃんが継ぐんですよね?」
「この会社の株式は美優希に相続させてすべて任せる。美春が継ぎたいと言ってもいいように、いくつかの会社は俺がオーナーになっているからそっちを任せる。だから美優希はそこまで心配するな」
「うん」
「そこまで手を打っているんですね」
様々な一義の考え方を聞く梨々華、一緒になって聞く美優希や輝、野々華、クリステルは学校で教えてもらえない事を真剣に聞いていた。
夏休みに入り、美優希たちは三人組でできるFPSゲームをプロの舞台として見定め、練習に励む日々が続く。
ゲームタイトルはIPEXだ。キャラクター毎に能力が付加され、三人一チームとなり、最大六十人二十チームが広いマップへ散って武器を集め、生き残りをかけて戦う。
八月に入ると、練習試合を目的としたイベントは、e-sports教会指定の全日本プロゲーミング選手権大会として開催され、様々なゲームタイトルが入り混じる。
株式会社ジャストライフを主とした連名式主催で、それぞれが賞金を出し合った結果、賞金総額は二十億、各ゲームタイトルの優勝者には五千万が支払われるとんでもない大会となったのだ。
十日間の開催で、人がわんさかと集まり、異様な盛り上がりを見せた。
しかも、一般参加費と協賛企業の出資による運営費は百億を超え、警備員以外のスタッフ費用が掛かっていないので、主催企業と協賛企業に分配される。
最終日の閉会式では、県知事が『来年はもっと大きな箱を貸す』ことを約束して物議を醸す事態になった。これはとある県のゲーム条例に対する牽制の意味があった。
その翌日には株式会社ジャストライフへ、海外のゲームメーカーからの問い合わせが殺到し、翻訳部と営業部が総出で対処する羽目になり、一部業務が悲鳴を上げた。
と言っても、主催企業と協賛企業は漏れなく黒字になったので、うれしい悲鳴でしかない。
美優希たちは大会の盛り上がりに圧倒されつつも、目はキラキラと輝いており、再来年に向けて気合が入ったので言う事はない。
全日本プロゲーミング選手権大会の興奮が収まって、あと数日で夏休みが終わろうとする頃、片岡家にとある訪問があった。
以前、美優希が会いたいと言っていた恵美が祖父の敏則に連れられてきたのである。
「いらっしゃい、恵美ちゃん」
「いらっさい」
美優希は美春を抱き玄関で二人を出迎えた。出迎えられた恵美は美優希に対して頭を下げた。
「ごめんなさい」
と。
美優希は一義に美春を預けて、教えられた通りに目線を合わせる為に膝を立て、頭を上げさせ撫でてあげた。
「急に謝って、どうしたの?」
「だって、お母さんが、お母さんが」
一義がいつもやっていたように、泣き出した恵美を美優希は抱きしめた。
「大丈夫だよ。恵美ちゃんは悪くない」
「でも、でも」
「恵美ちゃんが謝る事じゃないよ。あの・・・お母さんがやった事は、恵美ちゃんとは関係ないから」
言いかけてはしまったものの、あの人と言わない当たり、美優希もちゃんと考えている。
「そうだな、私の事、お姉ちゃんって呼んでくれる?」
「いいの?わたしが呼んでもいいの?」
「いいんだよ。ほら、恵美ちゃん、もう泣かないで」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
ハンカチで涙を拭いてあげ、ティッシュで鼻を拭いてあげ、面倒見がいいようだ。
「あ、えっと」
恵美は一義を見てふさぎ込んだ。呼び方も分からず、美優希に謝って一義に謝ってないので、言葉を失ってしまったのである。
一義はそんな恵美と目線を合わせて頭を撫でてあげる。
「おじちゃんでいいよ。美優希が言ったように、お母さんがやった事と恵美ちゃんは関係のない話。おじちゃんも、恵美ちゃんが悪者なんて思ってないよ」
「おじちゃん・・・」
「恵美ちゃんのお母さんを許すのはもうちょっと時間がかかりそうだけど、それと恵美ちゃんは関係ない」
正直に言うと、恵美の様子から余計に優里を許すことができなくなっている二人だが、それとこれとは別の話だ。
「だから、安心して恵美ちゃん。おじちゃんも恵美ちゃんの事は嫌いにならないよ」
「ほんと?」
「ああ、な?美優希?」
「うん、パパは大丈夫だよ」
「うん!」
そうして顔合わせを終えると、恵美の手を引いて、部屋で遊ぼうと自室に連れて行った。一義は敏則に向かってしっかりと頷き二人の後を追った。
「ねーね」
「あ、そうだった。美春、おいで」
一義が美春を降ろすと、美春はとてとてと床に座っている美優希に近いて抱き着いた。美春を膝抱っこし、恵美の方を向かせる。
「恵美ちゃん、私の妹の美春、そして、恵美ちゃんの義理の妹だよ」
「え・・・」
戸惑いを隠しきれない恵美、こうなると思っていなかった敏則は驚きで声が出ない。
「美春、恵美ちゃんは美春のお姉ちゃんだよ、ねーねだよ」
「ねーね?」
美春は恵美を見て首を傾げ、美優希を見上げた。
「ねーね?」
「うん」
美優希が笑顔で頷き、次の瞬間。
「ねーね!いっしょ!」
と美春は大喜びし、美優希から離れようともがく。
「恵美ちゃん、いいんだよ。あなたが気に追う必要はどこにもないから」
そう言って美優希は美春の拘束を解き、美春は恵美に向かって行って抱き着いた。恵美は戸惑いつつも美春を抱き止めて、頬ずりをされて、泣き出した。
「ねーね?泣いてる?」
「わたし・・・」
美優希は二人を抱きしめた。
「恵美ちゃん、辛かったね、もう大丈夫だよ。これからは姉妹でみんな仲良くしようね」
「うん」
嬉しそうに頷いたのを確認し、美春に大丈夫だと伝える。
そして、二人から離れた美優希は、押入から大量のぬいぐるみを出して、三人で遊び始めた。
「美春ちゃんを上手く使うとは。正に一義君の娘だな」
「わが娘ながら少し恐ろしい」
心配なんてなんのその、無邪気に遊ぶ三人を眺めて、あきれ返るしかなかった。
その後、春香と顔を合わせて温かく迎えられて、すべての不安が吹き飛んだ恵美は、家に泊まることになり、美優希の部屋のベッドで朝まで抱き着いて寝ていたのだった。
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