私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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二章

第二拠点

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 アジア大会はオーストラリア、日本が秋の訪れとなっていれば、現地は春の訪れだ。

「さむーい、地球ってすごいね」

 そんなことを言ってはしゃぐ美春余所に、ジャストライフゲーミングはピリピリしている。
 世界で戦うジャストライフゲーミングは、アジア大会で成績が振るわない訳にはいかないのである。
 そうは言っても、美春の言動は癒しとなるくらいには、良い影響があるどころか、誰が一緒に遊ぶのか取り合うくらいだ。基本的に美優希について回るのだが、そうもいかない時に争いが起こる。
 美春は活発な質ではない。はしゃぐ時ははしゃぐのだが、一義の血を引いているのか、運動音痴気味なせいだろう。
 ホテルに着くと、美優希と一緒にゲームを始める。
 ゲームタイトルはボールモンスター、主人公となって旅をし、様々なモンスターと出会って仲間にし、ターン性バトルでモンスターを戦わせ強くし、時には仲間にしたモンスターと触れ合うこともできる。
 美優希に膝抱っこされて、おしゃべりしながら遊ぶ姿は、年の離れた姉妹のそれである。早生まれの二人、美優希は今年度で二十一、美春は八歳だ。

「明日の観光はどこに行く?」
「オペラハウスが見たい、あとハーバーブリッジ」

 観光が好きな割に、美春は自然に興味がない。構造物を見る方が好きで、将来は建築士を目指すのかと言うと、聞いてもいい返事はしない。

「行けたら水族館と動物園にも行こうね」
「うん!」

 美優希の影響もあってか、美春の部屋もぬいぐるみだらけだ。違う事と言えば、お城などの模型も置いてあるところだろう。
 そんなこともあってか、水族館や動物園も好きだが、目当てはお土産スペースのぬいぐるみのようにも見える。

「あ、負けちゃった」
「レベルが足りなかったね。頑張って上げようね」
「うん!」

 片岡一家が泊まるスイートルームに集まったジャストライフゲーミングの一行、美優希と美春の仲のいい雰囲気に、終始和やかに過ごす事ができた。
 彼氏ズは今年も来ていない。
 啓はマネジメントの一環で渡航費用を持ってあげられるが、他の三人が持ってあげられないからである。
 更に、洋二郎は司法試験で忙しく、拓哉はマンションでトラブルがあって時間を捻出できず、信也は自分でお金を捻出できなかった事を恥じ、啓はそんな三人に遠慮して来なかった。
 世界大会には流石に来るようである。
 翌日、シドニー観光をして大満足の美春は、ホテルに帰って夕食を食べると、疲れに抗う事ができず、早くに寝てしまった。
 邪魔されず直前ミーティングできるようにはなったが、やることは気を引き締めさせるだけで、いたところで大人しくしているので、いてもいなくても変わらない。
 アジア大会はクレイジーラグーンとエクシオスに加え、予選を圧倒してY1、リグナイツが台頭し、トップ争いは激戦となった。
  チャンピオンはジャストライフゲーミングを加えた五チームで取り合い、全十戦でそれぞれ綺麗に二回ずつチャンピオンを取ってフィニッシュとなった。
 こうなると総合ポイントはキルポイントが決めることなる。ポイント同率の場合、優劣は十戦の中で一番取ったポイントによって決まる。
 今回、一位と二位は同率で、三位はそこから一ポイント差、四位と五位は同率だった。

「まずは同率四位の優劣を発表します。クレイジーラグーンの最高は三戦目十六ポイント、Y1は五戦目、ポイントは十七、四位はY1だー」

 MCによって発表された結果に飛んで喜ぶY1と、肩を落とすクレイジーラグーンだった。
 クレイジーラグーンのRAST以外の二人、大会となると調子にムラっ気があるらしく、試合を落とす原因でもある。

「三位はリグナイツ!」

 リグナイツは去年からの参戦で、初出場は試合の雰囲気に飲まれてしまって、アジア大会の予選で落ちていた。
 他ゲームでの実績はすさまじく、世界で戦う選手に育てられただけはあり、マークはしていたのだが、ジャストライフゲーミングを含め、他チームは存分に苦しめられた。

「さぁ、同率状態のジャストライフゲーミングとエクシオス、エクシオスは出身国の大会で結果を残すことはできたのでしょうか?見て見ましょう」

 ジャストライフゲーミングは六戦目、二十ポイントを獲得しており、ポジション取りに苦労する安全地帯で、二位だったにも関わらず、キルを大量に稼いでいた。ともかく美優希のスナイパーライフルが一番輝いた試合でもあった。
 エクシオスは七戦目、状況は六戦目のジャストライフゲーミングと同じで、ポジション取りに苦労したと言うよりは、取る事ができずに二位、キル数は十で、十九ポイントだった。

「たった、たったの一キル、その一キルを掴んだのはジャストライフゲーミングだー!優勝はジャストライフゲーミング!」

 苦しかっただけに喜びも一入、涙を流しながら喜んだ。
 その裏ではパズル課が大健闘、世界一位を下してアジア大会優勝を掴んだ。勿論、格闘課も健闘、アジア大会ベストフォー、ソロは三位入賞を果たした。
 帰国後、拓哉の部屋で彼氏ズに祝ってもらいながら、窓辺に立った美優希は、野々華の慣れに驚いた。

「野々華はほんとに怖くないの?」
「ベランダには出られないかな。あと、窓辺はまだ少し怖い」
「そっか」
「ここからだと夜景が綺麗かな。それで、皆に相談したいことがあるんだ」

 そう言って野々華は切り出した。

「拓哉の勧めでさ、卒業したら、ここを東京の活動拠点にしない?専属のメイドさんもいるし、拓哉がここは維持してくれるって」
「駅も遠くないし、私は良いと思うよ。でも、何で?」

 その質問には拓哉が答える。

「君たちの本拠点はここじゃない。卒業したら、俺もそっちに行くつもりなんだ。今は東京にいるから、東京での仕事は苦も無くこなす事ができるが、卒業後はそうもいかない。一々ホテル借りるくらいなら、拠点を持った方がいい」
「確かに」
「オーナーズルームだから、オーナーである俺がどうしようと俺の勝手だ。株式会社ジャストライフの近くにもマンションはあるし、そこのオーナーズルームが遊んでるんだよ。アジア大会で来れなかったのも、そのオーナーズルームを借りた奴がトラブル起こしてね」

 他住人と度々摩擦を起こしており、とうとう地下駐車場内で派手に事故を起こしてしまった。それならそれで、きちんと謝ればいい物を、いちゃもん付けた上に、任意保険の未加入が発覚、更に、監視カメラの履歴から器物損壊も分かり、追い出したのである。

「ペット不可なのにペットまで飼いやがって、あのくそ野郎・・・」
「落ち着いて」
「ああ、すまん」

 額と拳に青筋を浮かせていた拓哉は、野々華の一言で矛を収めた。
 拓哉が最も切れているのはペットの件だ。自身がアレルギー持ちで、加えて野々華もアレルギー持ち、住人の半分がアレルギー持ち、更には、運営を任されてから五年間、毎年誰かがペットを飼って問題を起こし強制退去させていたからだ。

「それで、俺もいったりきたりするから、ちょうどいいかなぁ、って思ったのよ。笹原ささはらさん、ちょっといいかな」
「はい、お坊ちゃま」

 一瞬だけ渋い顔をしたが、拓哉はすぐに表情を変えた。
 メイドと言うくらいにメイド服を着ている女性、キッチンからできた彼女はしっかり着こなしており、不自然さが全くない。

「笹原あいさん、俺と同じ年の幼馴染で、一つ下の階に住んでる。オーナーズルームのメイドでもあるけど、このマンションの管理人だ」
「よろしくお願いいたします」
「昔、いろいろあって感情に乏しいが、根はやさしい人だから安心してくれ」
「お坊ちゃんには返しきれない恩があります。こんな私が結婚して家庭ができたのも、お坊ちゃんのおかげです」

 愛の両親が厳しい人で、中学半ばあたりでグレて数度の家出を経てヤンキー化、日常的に喧嘩をして無免許でバイクを乗り回し、レディースに名を連ねるほどだった。高校は退学処分となり、親に勘当され、抗争に負けて辱められた。
 死んだ魚の目をしてふらついていた愛を拾ったのは拓哉の両親だ。理由は、毒親と言っていい程、あまりにも厳しい愛の両親を昔から良く思っておらず、よく突っかかれており、拓哉の教育を言い訳にしてやり返す為だ。
 それがちょうど高校二年生の頃で、そこから拓哉に世話をさせ、あわよくば結婚させようとしていた。それが、愛にとって重い恩となり、拓哉自身は愛に女性としての興味がなく、結婚ではなく主従関係となってしまった。
 軽く関係を説明され、美優希は少し考えた後、口を開いた、

「機密保持契約をすることになるけど大丈夫ですか?」
「当然のことです。お坊ちゃんの婚約者が所属するチームですから、信用を得る為にも当然だと思っております」
「そう・・・ねぇ、一つ聞いていいですか?」
「何なりとお申し付けください」

 正立して前で手を組み、頭を下げる。ここまで絵になる人はいないだろう。これが元レディースだと言うのだから馬鹿にならない。
 しかし、だからこそ美優希には許せない事がある。

「とりあえず、拓哉さんの事を『お坊ちゃん』と呼ぶの辞めませんか?」
「私にとってお坊ちゃまはお坊ちゃまです」
「悪いけどチーム優先で話するね」

 美優希は突然敬語を使わなくなった。

「主の嫌がることをやるのが従者のやる事なの?今まで黙って見て来たけど、レディース上がりなら分かると思うけど。こうやって話をする度に拓哉さんの歪む顔見たくない。親友の彼氏だから、そう言うところでストレス感じて、野々華に向かうの嫌なんだよね」
「ではなんとお呼びしたらよいのでしょうか?」
「拓哉様、でいいんじゃない?外から見ればメイドはビジネス関係なんだから、何ら不自然じゃないし、あなたにも家庭があるんだし。それに、同じ年で『お坊ちゃん』呼びは明らかに下に見た発言なんだけど」

 愛は溜まらず視線を拓哉に移した。

「美優希さんの言うとおりだね。四年前までは俺の親が君の主だったけど、今は俺が主になってる。前から言ってるけど、俺のプライドだがどうの、ではなく外面を考えてほしかったな」
「申し訳ございません」
「すぐは無理だろうけど、変えていってくれ」
「はい」

 しゅんとしてしまった愛は余所に、拓哉は美優希にお礼を言った。

「野々華が注意しても我を通したのに、美優希さんに言われて折れるとは」
「理由が腑に落ちないから、じゃないかな?後、心理的訴えが足りなかったかもね」
「心理的訴え、か。確かに人と人だもんな」

 拓哉は大きな溜息を付いた。

「愛さん、言葉一つで相手が捉える関係性が決まるんです。お坊ちゃんのままでは、親が付けたメイドもいて、野々華と言う彼女がいる。せめてビジネス関係に落とし込まないと、かなり悪い外聞が付くんです」
「では、様付けではどうでしょうか?」
「様付けも良くはないんですけど、そのメイドの恰好も、この部屋にいる時だけなら何とか大丈夫です。と言うか、相当世間知らずに見えるんですけど」
「申し訳ない。マンションの管理も任せてるけど、外向きは任せてないんだ。そもそも、笹原さんは人見知りだし、トラウマで旦那と俺以外の男とはまとも話せないんだ」

 美優希は特大級の溜息を付いた。

「それじゃ、しかたないか。機密保持契約はOKで、お金はどうしたらいい?」
「どっちでもいいよ。変わらない」

 つつかれた時が怖いので、美優希は良い顔をしない。

「あ、そうだ、スポンサー契約しよう。マンションのオーナーとして拠点となる部屋を貸すから、マンションの広告をしてほしい。これでWin-Winだし、どうかな?」
「決まりね。社長と話をして、OKが出たら契約書を作りましょう」
「そうしよう」

 こうして、卒業後の拠点を手に入れ、人脈が強いことを思い知った美優希だった。


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