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二章
支援する為には
しおりを挟む会議室で唸る学長たちと理事会、頭を悩ませたのはストイックと言えるほど美優希の生活だった。
「では、なにかね、休日の午前中と配信をしない水曜以外に、プライベートはなかったと言う事かね」
美優希の大学生活は特に一年次がひどい。必要単位を詰め込んで、午前も午後もフルで大学におり、帰宅してご飯を食べたら、練習を兼ねた配信が平均で二十三時、遅くて二十五時頃まで続く。
水曜は、配信が無いと言うだけで、家の事を済ませたら、配信を見直しながら戦術会議をしたり、情報収集をしたり、スポンサーの案件動画を作成したり、こちらも遅いと二十五時を超える。
休日の午前中は家の事か遊んでいるかで、午後は練習、夕食後練習配信か雑談配信で二十二時まで。
因みに、輝も野々華も同じようなもの。
「それがプロと言う事では?二足の草鞋を履く以上、結果を出す為にはこれくらい必要です。プライベートで髪を染めて、配信中にウイッグと眼鏡をしているのも、大学にいる間もプライベートにする為です」
「確認させてくれ、配信は君たちの仕事なんだね?」
「はい。配信時間プラス一時間が時給になります。時給を超えた稼ぎが歩合として、スポンサーのプロモーション費が会社と折半です。大会賞金はチームなのでコーチと合わせて四人で四分割です。しかし、全部私たちの場合でしかないです」
「どういうことかね?」
「配信で稼げるからできる生活であり、練習時間が取れるんです」
一部の反応が良くなく、分かっていない様子だ。
「大学生の学外生活の実態はご存じですか?」
「大体バイトをしてるか、遊んでいるか・・・そうか、君たちの場合、練習時間も配信することでお金を稼げるから、時間が捻出できたのか。強いはずだ」
「あくまでも配信で稼げることが前提です。賞金額だってそう多くはありませんし、チームからお金が出ているとも限りません」
e-sportsにおける問題は一切解決されていない。現状はスポンサーがついてくれるかどうかで変わってくる。実は美優希たちが配信で稼げないと、株式会社ジャストライフと言うのは、投資してくれるスポンサーに早変わりするのだ。
「因みに、君たちの去年の賞金額はいくらだったんだい?」
「えーっと、二億二千万の四等分が私の取り分です。」
「五千五百万か夢があるな・・・賞金が獲得できるボーダーはあるかい?」
「日本選手権はシード選手を含む、決勝出場で五百万支払われるはずです。アジア大会に行けるのは、ベストエイト入賞選手で、アジア大会も同じです。世界大会は、条件同じで七百万です」
「だとして、チームだったら等分、五人チームならアジア大会予選突破で二百万だから、そこまでいかないと苦しいな」
仮に賞金だけで考えて、年収二百万、月収に直すと約十六万円で、高卒の初任給平均と言ったところ。
「ベストエイト入賞賞金が別に百万あります。が、雀の涙でしょうね」
「そうだな。月収換算でだいたい十八万になる程度、在学生としては悪くないが」
「選手としての華々しさはありませんね。それに、大会の為の渡航費、宿泊費、チーム運営費もあるので、賞金だけだと手元にいくら残る事やら。確定申告と税金の支払いもありますし」
「違いない。全員が全員、親御さんのお金で通っているわけじゃないからな」
百パーセント自分で稼いだお金で通う美優希がおかしいのである。
「まず初めの問題は練習時間とバイトの時間を両立できるようにしてあげる事だろう。全員が親の支援だけで大学生活を送っているわけではない。いくらストイックにやれても、気を抜く瞬間、プライベートの時間も必要だろう。最低限必要な練習時間は?」
「私たちは平日が四時間のプレイとその見直し一時間で五時間、水曜は見直しで二時間に、必要なら一時間の動きの確認、休日は練習試合も込みで八時間です」
「野球部とほぼ同じように考えるべきだな」
立導大の野球部が美優希の生活と同じようなものである。寮ではあるが。
「何なら、大学の動画チャンネルを立ち上げて、そこに巻き込む方法もあります。私が通っていた響輝女学園のゲーミング部は、そうやって部費を稼いでいます」
「悪くはないが、それはそれで別の問題が出るんだろうな」
「これはあくまでも大学で育てるのなら、と言う話になりますね。リージョン毎規制の年度満年齢で出場できますから、プロ活動をしつつ大学に入ってくる場合もあり、既にチームに所属している可能性が高いでしょう」
「その場合は、時間が捻出できるようにしてあげるべきか」
「そうなりますね。チームからの要請もあるでしょうから、その辺りの門戸を開いておくのもよいでしょう」
大学としてどう対応するかは大学が決める事なので、所詮は事実を伝えるのみである。
「一昨年、君にプロモーションを頼んで、問い合わせや受験者は明らかに増えた。我々がスポンサーとなる事も視野に入れるべきだろうか?」
「そのプロのもつ拡散力、インフルエンサーとして力、そしてその人格が立導大にふさわしいかどうか、査定すべきでしょう。チームに所属しているからと言って安心しない方がいいです」
「なぜだ?」
「私たちが初めて世界を取った時、崩壊したチーム、選手はかなりいました。四年前の事です」
美優希は当時の様子を事細かに説明した。
「確か、アジアンヘイトとかいったな。その標的になったわけか」
「はい。加えて女。真なる男女混成が可能なスポーツ大会で、規模が大きくなることが見込める分野で、女性が活躍するのを、指をくわえて見ている事ができなかったのでしょうね」
「そして、世界大会はやり直された、と」
「そうです。それから関連する問題として、選手に対する取材が挙げられます。うちは休日にしか対応しないですし、テレビは生放送以外をお断りしています。うちは立場として強いからできますが、できないとテレビが大学に乗り込んでくる可能性もありますし、取材での発言も注意すべきでしょう」
これには教授たちの反応は良くない。
「対策はどうすると良いだろう?」
「選手本人に関しては調査するしかないでしょう。過去の炎上や言動を第三者に客観的評価をお願いするべきです」
「むう」
学校法人は非営利公益法人なので、使えるお金は限られている。
「大学側から申し出るのではなく、申請方式にしてはどうでしょう?その方が調査したとしても、申請を却下しても、心証が悪くなることはないでしょう。つまり、ある程度強く出る事も出来ます」
「それは良いアイディアだ。検討事項に入れよう」
「取材に関しては在学している事を明かさせれば、大学に知名度拡大の利益がありますが、発言次第では大学の品位を落とします。テレビは許可のない撮影なら追い出せるでしょうし、そこまでテレビも馬鹿ではないはずです」
「まぁ、そうだな」
「選手が取材を受ける場合、大学側としてどう対応するか、同席するなり、校舎の利用を厳命するなり、明文化しておくといいんじゃないんですか?」
「だな」
理事長は議事録を作っている秘書を見た後、時間を確認した。
「最後に一つ、詳細は次回でいいから、今君が使っている機材の値段、大体でいい」
「椅子、机も含めると百万近くかかります」
「・・・は?研究室のパソコン並みかね?」
「パソコン本体と周辺機器に加えて、モニター一枚は会社からの支給品、もう一枚のモニター、椅子、机は提供ですから、実際に出したお金は少ない物です。私たちの場合、配信の仕方が特殊なので、三年前の最高級環境でないと、配信中の練習がままなりません」
大学在学中の美優希たちの配信手法は特殊である。
まず、三人共にクリステルに画面共有を行い、クリステルは三人分録画する。これは配信をしない練習も同じだ。なので、クリステルのパソコンだけ、記憶領域が大容量になっている。
独自開発の専用ソフトウェアを使い、その特性上、画面共有は自分以外にも行われるので、配信はこれまでどおり三画面合成配信となる。パソコンの寿命の関係で負荷分散をする為、配信で使用するパソコンは持ち回りだ。
ゲーム画面、共有画面二つの三つ、更に共有されているウェブカメラの映像三つと、自分のウェブカメラを配信ソフトでキャプチャーする。
配信ソフトの負荷も大きくなるので、その影響がゲームに及び、配信中は思ったよりフレームレートが落ち込んでしまう事もあるほどだ。また、回線の占有率も高く、二回線契約になっている。
「それは君だけではないよな?」
「そうです。社員を含め、結果を出せば出すほど給料と職場環境が良くなります。税金やコスパの関係で上限はありますが」
「話には聞いていたが、なんて会社だ・・・」
経済学部の学長は一義と話をしたことがあるのでそもそもだが、他の学部の学長は頭を抱えている。
「調べてはみたんですが、美優希君の会社は株式評価額が低くても五百億超えますね。一時期はユニコーン企業なんて呼ばれてましたし、人によっては一兆超えるかもしれません」
「なんて会社だ・・・それはともかくだ。差し当たって時間、平日に五時間の練習時間が取れるよう、各学長と話し合ってみてくれ。プラスして、学内に環境を整えてあげる場合に必要な予算を見積もってくれ。一般価格でいい」
「かしこまりました」
次回は二ヶ月空いて七月の頭、各学部の学長、理事長の予定が合わないので仕方のない事だ。
「ただいまー」
「お帰り、会議お疲れ様」
「疲れたよー、変な目で見る学長もいるしさー」
昼も過ぎて十四時、美優希を出迎えた啓はお昼の準備をする。
「結構ヤバそう?」
「分かんないけど、文学部の学長と話し合いする時は同席してほしいかな」
「おっけー、講義休んででも同席するわ」
「ごめんね、ありがとう」
遅い昼食後、練習を開始したのだった。
数日後、武道黒帯の睨みにひるんだ文学部の学長が、脂汗を拭いつつ会議を行う事となる。経済学部の学長が味方である言質を取ってあり、学内でも噂があるので、啓の同伴は半ば公認のようなものだった。
学長と話して分かった事は、単位選択を固定すると、練習時間が大幅に取れると言う事だった。
「当然と言えば当然か」
「はい。ただ」
「単位の余裕がないな」
二回目の会議、理事長は頭を抱えて悩んだ。
「単位を落とすのは本人の責任ですし、気にしなくてもよいのではないでしょうか。大学に通う選択をした時点で、二足の草鞋を履く覚悟ができているはずですし」
「それもそうか。単位はそのように進めよう。して、環境を整える時の金額がこれか」
「はい、一般価格で言って一人頭が一式二十五万ですね。机は長椅子で、椅子もそんなに高い物を導入する必要はないでしょう」
現状最もスペックが必要なのはFPS部門だ。
そのほかの部門は、巨大なマップを使用するわけでもなく、そうそうスペックが必要と言うわけでもない。スマホやコンシューマー機を使うので、それをどうするのか、考えるべきであろう。
「椅子は最低限昇降機能があればいいのか?」
「健康を考えるのならそうとも言えませんけど、学校の備品なので譲歩させた方がいいです。ただ、宣伝に使う事を考えるのなら、あまり妥協しすぎない方がいいでしょう。勿論、私のスポンサーに寄付を促すこともできますが、そう簡単な話ではないですね」
「既に話をしてあるのか?」
「話す機会があったので、聞いてみましたが、できて五つが限界だそうです」
理事長と打って変わって、法学部の学長が聞いてきた。
「五つの根拠はあるかね?」
「現状の大会タイトルから言って、一チームの選手の最大人数が五人ですから、それ以上は購入を検討してほしいとのことです。教育現場なので寄付した上で、残りは三割引きできるそうです」
「それなら、会社としてはそう言うでしょうね。むしろ最大限の譲歩、と捉えるべきでしょうね」
経済学部の学長が裏付けをしてくれた。
「それでも、君の使ってるモデルで言えば、一つ当たり四万からか。物は良いんだがなぁ」
「そんなにいいのですか?」
「かなり良いぞ。腰痛を感じるまでの時間が確実に伸びた。それに、これについては美優希君の方が詳しいだろう」
「はい。私たちは配信の企画次第で最大二十四時間座り続けることになります。日常的に五時間は座りっぱなしですし、三時間超えたあたりで辛さを感じます。大学の講座は二時間を超えませんが、後半は結構しんどいです。学生が椅子の位置を変えたりするのは後半ですし」
言われてみれば、と学長たちが頷いている。
「提供で座椅子タイプが遊んでますから、試しに使ってみますか?」
「「「是非」」」
ランランと光る学長たちの目を見て、美優希は言わなければよかったと後悔した。
後日、経済学部の学長室に運び込み、学長や教授、準教授たちが入り浸り、夏休み直前には彼らの半数が椅子を購入して持ち込んだ。また、椅子を変えた彼らの部屋で、学生と話が弾んだと言う。
「いっそのこと、立ち上げるか、ゲーミング部。引退した選手をコーチとして雇えば、業界にもよい影響が出るだろう。空いた時間で学内での練習もできる。そのあたりの橋渡しは頼んだぞ?」
「条件は考えてくださいね?」
「もちろんだよ」
夏休み前日、美優希は溜息ながら理事長室を出て行った。
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