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三章
式と家
しおりを挟む「解説は地力だ、地力が違うと言っていますが、ジャストライフゲーミングは明らかに新しい戦略と戦術で、一つ先にいるじゃないですか?初動被せのやり返しも、大会中のキャラピック変更も、そしてキャラピックを固定しないやり方も、高がゲームじゃないですよ?」
ネットの動画配信者や生配信者がテレビ番組に呼ばれるのも、すっかり当たり前となり、呼ばれた元プロゲーマーの動画配信者が腰を浮かせ気味に突っ込んだ。
「新しい戦略と戦術を生み出す事はどこかがやりますから、それを勝てるレベルに昇格させるのは地力が物を言うので間違ってはいませんがね。大会でいきなりそれを見せて勝ちに行く貪欲さも必要です」
彼はその後すぐ、『プロがなぜプロであるか考えられないのか?』と言っているが、カットされていた。その代わり優里が『ゲーム文化の国民栄誉賞をもらって、世界王者に君臨し続ける理由が詰まっていますよね』と言う一言が流れていた。
最も栄誉ある賞が褒章され、無視し続ける事ができず、特集を組んだ結果、収録は配信者たちにこぞって台本を無視されて、滅茶苦茶にされたのだった。
「ざまぁみろ」
その滅茶苦茶にした張本人である元プロゲーマー、実は隼人である。出演していた優里は美優希の実母として、隼人は輝の実兄として出演した。司会に言い方にムッとした隼人が台本を無視すると、優里も無視に参加、配信者たちもそれに倣ったのである。
「取材してやってるのに、呼んでやってるに、ってやっぱりどこかで思ってるのよ。特にあの番組のプロデューサーはそれが強いのよ」
「遊びじゃねーっつうの。引退した俺一人に勝てねーくせにさ」
番組の中盤で、プロの強さを体験すると言う名目で、呼ばれた芸能人や配信者たちでカスタムマッチが行われ、ハンデとして隼人は一人にされたが、一方的に殲滅してチャンピオンに輝いていた。
「輝、分かってるだろうけど、外で『ざまぁみろ』なんて言うなよ」
「はーい」
番組の放送がちょうど休日にあり、番組が終わってから、美優希は優里と隼人と連絡を取って、そのまま輝と野々華、クリステルとやっていたオンライン飲み会に参加させたのである。
「それより、美優希ちゃんごめんな?」
「ん?何が?」
「結婚式さ。せっかく平服の心遣い不要で招待くれたのにさ」
「気にしなくていいよ。最初は取引先もって話になってたけど、結局外部は会社の人とスポンサーの代表者以外呼ばないし」
そもそも、結婚披露宴しかやらない。自分たちの稼ぎ上、大事になってしまうので、ほんとは身内だけの結婚式をしたかったのである。
招待状は株式会社ジャストライフ課長以上の役職者及び、ゲーミング部のパートとアルバイト、スポンサーの代表者二名、IPEX部門チームメンバーの親と兄弟姉妹、自身の祖父母、親、兄弟姉妹、優里にしか送ってない。
だが、それだけで百通近く出している。
「身内として見てくれてたのか、余計申し訳ないな」
「そりゃ、輝のお兄さんだしさ、パパが主だったとは言え、私たちをプロゲーマーの道に引き込んだ一人として、隼人さんは重要なんだよ?それだけに、自分の事があるならそっちを優先してほしいの。参考までに理由を聞いていい?」
「子供が生まれるんだ」
「おめでたいじゃん。そんなの自分を優先して。あ、生まれたら教えて、祝儀送るね」
仕方ないとは言わなかった。
「気持ちだけでいいよ」
「まって、お兄ちゃん、結婚式は?」
「ああ、妊娠してたのが結婚式の相談する前でね?何処でやるかいろいろ相談してたら分かってさ。予約状況とかの諸々で、子供が生まれる予定日の後になっちまったんだ。だから、籍はもう入れた」
所謂、デキ婚と言う奴だ。
何の縁なのか、出産予定日と美優希の結婚式がかぶっているのである。
「あー、そう言う事」
「実は俺の方からも招待状は送ってるから、野々華ちゃんもクリスちゃんも、良かったら来てくれ」
「「勿論だよ」」
ないようであったのがクリステルと隼人の繋がりである。
隼人がIPEX部門に移籍してすぐ、輝の伝手と一義の口添えで、チームの育成や練習法などを相談していた。IPEX部門ではチームリーダーであった為、その辺りは恥も外聞も捨てて行動している。
その為、引退直前は日本のIPEX部門でジャストライフゲーミングの次に、チーム名が挙がるようになるまでに押し上げた。
その功績もあって、隼人は現状ムーンシスターズのコーチ兼ストリーマー(ゲーム配信による広告収入と投げ銭で稼ぐ人、美優希たちとは少し違う)で、立導大ゲーミング部の外部コーチである。
美優希たちとストリーマーの違いは、ストリーマーの生配信や動画制作の元がゲームであるのに対し、美優希たちはお菓子作りやスポンサー、自社のプロモーション動画等、ゲームに関係ない生配信や動画を作るところにある。
「そう言えば、野々華ちゃんの彼氏ってどんな人?会った事なんだよね」
「今家に居るから呼ぶね」
「ありがとう」
隼人は野々華の彼氏だけ会った事がない。
隼人は立導大ゲーミング部のコーチングで、立ち上がったばかりのゲーミング部に遊びに来る美優希とクリステルの関係で、啓と洋二郎に会った事があり、信也は輝に紹介してもらって会った事がある。
で、当時、四人の中で一番接点が薄かった野々華の彼氏と会ったことがない。
その彼氏、拓哉が呼ばれて話を聞く隼人は、語彙を失って『凄いなー』を連発していた。
「じゃ、拓哉さん、一つ相談いいかな?」
「はい、どうぞ」
「3LDK以上で防音がしっかりしてる部屋って紹介してもらえる?今いるところって、配信部屋を潰さないと子供部屋がないんだ。子供部屋を作ると、俺のストリーマーとしての仕事もできないし」
「そうなんですね。ちょっと待ってください」
席を外して資料を持ってくると、通話部屋を分けて相談に入った。
「家探しも同時並行だったのか、お兄ちゃんそう言うところで無頓着が出るんだよねー」
「そうじゃなくても、結婚するってそう言う事よ。あなたたち、家はどうするの?」
クリステルは洋二郎が婿養子となって、クリステルの実家を建て替えて住む。父の典昭が二世帯住宅の為に隣の土地の買収を済ませ、計百坪の土地として建て替えて、資金は共同で出すようだ。
「パパさんがすっかりやる気になってるのね」
「はい。出すと言ったのに頑固で、建て替え費用の半分しか出させてもらえませんでした」
「いいじゃない」
美優希は、クリステルの頑固さが親譲りであり、クリステルの頑固さでも勝てないとは、典昭はどこまで頑固なんだろうと思った。正解はこの件に関してのみ頑固になったわけだが、知る由もない。
そんな美優希は今いる社宅の部屋を使い続け、隣の部屋の輝はゆっくり土地探し中、野々華は拓哉のマンションのオーナーズルームに住み続ける。
「輝ちゃんはご両親と住まないの?」
「あの家は借家なんです。兄は帰ってくるつもりがないので、二世帯住宅を建てようって、社長が土地開発の情報を回してくれるそうなので、信也と相談しながらやってます」
土地を捜している割には、家の間取りはある程度決まっていたりする。
「一義さんらしいわ。野々華ちゃんは?」
「何もなければこのまま彼氏と彼氏のマンションに住みます。姉がいますし、私と姉に世話になるつもりはない、って意固地になってます」
その意固地になる姿は美優希や輝、クリステルにも容易に想像できた。
「真純さんはその辺しっかりしてる方だものね。美優希は?」
「美春に譲ろうと思ってるけど、美春次第かなぁ。もう少し美春が成長してから話はしようと思ってる。あ、お母さん、お色直しの後は私も平服になるんだから、気合入れすぎないでよ?」
「大丈夫よ。プライベートモードで来るわ。式の様子は配信するって言ってたけど、どうするつもりなの?」
「お色直しの前までを動画にして公開するの。だから、写り込んだとしても編集の手が入るからカットかモザイク処理されるよ」
当初は生配信の予定だった。
しかし、映りたくない人もいるだろうし、どんな事故が起こるのか分かった物ではないので、動画にして公開するのである。
配信にこだわる理由は、美優希は配信者であるからだ。ウエディングドレス姿を見たいと言う、多数のコメントが寄せられ、見せると言う約束だからでもある。
「美優希、あなたには感謝してるわ」
「忙しい?」
「忙しいけれど、そうじゃないわ。恵美の事よ」
「恵美ちゃん?」
「恵美が小さい頃からずっと仲良くしてくれるでしょ?それに、恵美はあなたと暮らしたかったみたいなの。下宿する事が決まった時の恵美の嬉しそうな顔は、この先見れる気がしない程だったのよ」
普通じゃないからこそ、普通の事に歓喜するのだ。
「私は素直に美優希が凄いと思う。ぐれないし、反抗期が怖いとまで言って、恵美ちゃんと仲良くできて、私はたぶん無理かなぁ」
「私も無理、同じことになったとして、親を許せないもん。どうしてそう言う事ができるのか、不思議なくらい」
輝と野々華は同意見で、答えを出して見せたのはクリステルだ。
「美優希って出会った頃からそうだけど、個人を見てるんだよね。たぶんそれは社長譲りでもあると思う。私が戦術と戦略を立てようと悩んで社長に相談した時、真っ先にプロファイルを作れって言われたの。チームじゃなくて個人の、それは敵も同じだね」
「敵じゃなくてライバルね。確かに、お母さんと恵美の事は自然と切り離して考えてた。幼い頃から人を見る時はサングラスをかけるなって言われてたね」
「「「いいそう」」」
話は本格的に一義の事に、そして、配信を始める頃から思っていたこと、相談が終わって戻ってきた隼人を含め五人に告げた。
「社長のすごさを伝えたい、か。何か分かるかも」
「どうして」
「話を聞いてね、もし私がプロに成らなくて配信を続けてて、お兄ちゃんがプロに成ってたなら、同じことしてるなぁって」
輝のブラコン気味は昔からだ。保育園の頃は親の迎えより兄の迎えを喜び、小学校では美優希と野々華がいない時は隼人にべったりだった。隼人が一義の世話になった時は、寂しさを美優希と野々華に相談している。
「要するに自慢したいってことでしょ?いいんじゃない?お姉ちゃんは絶対協力するはずだよ。未だに自分の配信で社長はすごいって言ってるくらいだし」
実際、一義は気恥ずかしいから梨々華に止めろと言ったのだが、梨々華は頑として聞かなかった。尊敬する人の話をして何が悪い、と開き直ったほどだ。
「それならこうしたらどう?」
優里の入れ知恵によって、一義のあずかり知らない所で企画が膨らんでいくのだった。
そして、十二月は半ば、ジャストライフゲーミングの結婚式の一発目が執り行われた。困ったのは美優希のウエディングドレス姿を見た時から、一義の涙が止まらない事だろう。
激しく嗚咽するわけではなくさめざめと泣き続け、それが可笑しくて、美優希は終始笑顔を見せることができた。さすがに手紙を読むときは泣いてしまったのだが。
新郎側からは平服に感謝された。
相手が相手だけに、初めは緊張を強いられた。引退したとは言え、啓の母方の祖父が、昔洋菓子店を営んでおり、春香のことを知っていた。これが良くなく、パティシエール春香として作った、ド級のウエディングケーキを紹介された時、その祖父は震えていたほどだ。
お色直しの後の美優希に解きほぐされ、庶民的な感覚を持ち合わせるその性格をすっかり気に入られ、少しだけ啓の立場が危うくなったのは言うまでもない。
それ以外、式は恙無く執り行われた。家に帰ってくると、その日から一週間、気を利かせた恵美と智香は一義の家に泊まり、家には二人きりにされたのだった。
自分たちのチャンネルで公開された結婚式は大反響だった。
高額投げ銭が飛び交い、今度は子供だと、めんどくさい舅と姑が一気に増えたような気分になった。
それはそれ、式が終わった美優希にはもっと楽しみなことが待っている。
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