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三章
株式会社ジャストライフ・上
しおりを挟む「は?」
年が明け、映像制作部の部長、誠を引き連れて社長室へとやってきた美優希と梨々華に、一義は素っ頓狂な声を出してしまった。
「私の名前で企画書をメールで送ってるから、まずはそれを見て」
「あ、ああ、まぁ、座れ」
もっともらしいことがそこに書いてあるが、一義は今一つ飲み込めなかった。
「新井部長は大丈夫なのか?子供いるんだろう?」
「大丈夫です。智美と智美の両親が全面協力してくれます。フレックスタイムを利用して出社を最大限遅らせて、残業は少なくします」
「なるほど、君たちは外堀を埋めて来てるのか・・・」
企画書を読み進め、一義は渋い顔をするしかなかった。
企画内容はこうだ。
大筋は、現状一番結果を残しているFPS課、パズル課、格闘ゲーム課のリーダー選手が聞き手となって、会社の事を社長である一義から話を聞こうと言う。
FPS課、パズル課、格闘ゲーム課、株式会社ジャストライフの公式四チャンネル同時配信を行う。これは会社のプロモーション動画の公開撮影とし、動画制作部によって公式プロモーション動画とする。
「コメントに答える必要はないのか」
「事前に社員から、マシュマロンを使って質問を投書させています。厳選も終わっていますし、聞き手にならない選手たちで、その場で送られた投書を厳選させて、タイムリーにします」
マシュマロンとは、多くの配信者が利用するメッセージボックスのようなもので、打ち込んだ文字が画像となって相手に送られ、その画像の利用は商用までフリーとなっている。
「社長、実は来年が創立二十周年なんです。二十周年記念への布石も兼ねて、プロモーション動画を取り直しましょう?こういう実直な方が、案外受けるんものなんです」
「・・・もうそんなになるのか」
誠に合わせた梨々華の言葉に、一義は一気に感慨深い表情となった。
「それに、人事部が満場一致で是非欲しいと言ってます。会社説明会で使う資料として最適だと」
「そうだな」
企画書にはその件もしっかり記載してあり、人事部はその有用性を原稿用紙に起こしてきそうなほど、文章には熱意が籠っていた。
「良かろう。会社の沿革から事業内容、年間売り上げまで語ってやる。五時間で済むと思うなよ」
美優希は梨々華と誠とガッツポーズをし合って喜んだ。その様子に、一義が特大級の溜息を付いたのは言うまでもない。
『やるからには』その気になってやった以上、企画書に付随していた稟議書に却下を出した。一流である必要もないが、会社の顔となる以上は、妥協品も許さないからだ。
却下印が押された稟議書を受けて、誠はすぐにその意図を読み取って指示を出した。
その後、一義は映像制作部から上がってくる多数の物品購入の稟議書に、少しだけ笑顔を浮かべて判を押して行く。
一ヶ月後、第二社屋の三階、第二スタジオにセットされたそれに、美優希は感嘆の声を上げた。
一面のグリーンバックは、映像合成に素材制作部渾身の絵を使うつもりなのは分かるが、半円形の机はどこから見つけてきたのだろう。
ゲーミングチェアを四つ並べてもゆったりとしたスペースが確保され、天板は滑りすぎない素材でしっかり硬く、主張しない落ち着いた色をしながらも、木目が美しい。
「よくこんな机見つけて来たね」
セッティングを終えて、配信パソコンを確認している誠に、美優希は話しかけた。
「ああ、それは大野家具に相談したら、二週間以内に作りますって言って、向こうからオーダーメイドしてくれたよ。後の使用用途で、ゲーミング部も動画でも使えると思うよ。対談動画とかね」
「需要あるのかなぁ」
「他チームとの対談とか、他のゲームタイトル選手との対談とか、海外選手を呼んでみてもいいよね。選手の対談って一定の需要があるんだ。梨々華課長と相談してみて」
「そうする」
美優希と誠は仲が良い。
智美と誠は起業メンバーであり、当時は一義が偶に連れてくる美優希と、二人はよく遊んであげていたのである。
美優希が小学校に入ってからはその頻度も減ってしまったが、会社に入ってからはその縁から二人を頼りにしている。
「智美さんとは上手く行ってるの?」
「こんど二人目だよ」
「いつなの?」
「今年の六月だよ」
美優希は危うく漏らしそうになって口を押えた。
予定日は九月、美優希は妊娠しているのである。これが爆弾となるよう、配信で投下する為に分かってから黙っていたのである。
因みに、輝もである。
美優希の様子に首を傾げたが、追求はしなかった。が、美優希は誠にしか聞こえないように耳元でささやいて教えた。
バツが悪そうな美優希に、誠は笑顔で頷いて見せ、何も言わなかった。
それから二時間ほど、一義を除く配信メンバーで夕食を食べた後、最終確認をしているところに一義はやってきた。
株式会社Non Rejectのコンサルティングに行っており、昼頃に帰ってくる予定だったのだが、交通事故の渋滞に引っかかって遅れたのである。
最終確認が終わり、スタイリストの用意した服に着替え、スタジオに戻ってきたことろで、一義は美優希に声を掛けた。
「妊娠、おめでとう」
「え!」
「詰めが甘いな。美春が教えてくれたぞ」
「しまった・・・」
美優希が報告して来ない事を不審に思い、美春をスパイにして何をしようとしているのか調べたのだ。そもそも、美春は美優希の家にいつでも行っていい代わりに、様子を報告するように義務付けている。
美春の口は堅いが、春香の作るおやつには勝てなかった。
「おまえなあ、昔俺と春香に突然妹が欲しいとか言って、困らせてるだろ?同じ手を何度も食らうと思うのか?」
「むう、美春は抱き込んでいたと思っていたのに」
「相手が悪かったね。美優希ちゃん」
「誠さんまで・・・」
うなだれる美優希は誠に励まされて、気を持ち直した。
「やっほー、みんなー見えてる聞こえてるー?」
カメラの前に立って、後ろを隠す美優希は、コメントの様子で映像と音声の様子を確認してから話し出した。
「みんな、聞いて、やっとね、やっと本当にやりたかったことが今日できるの。私が配信を始めた本当の理由、私のパパはすごいんだぞ、って自慢したかったの」
相変わらずいい子だと言うコメントが溢れた。
合わせて美優希は妊娠を報告、投げ銭機能がオフになっているので、コメントは非難ごうごうとなった。
「今日の本筋とは違うし、詳しい話は明日するから許してね?」
美優希によるオープニングトーク、仲間が常にいたしても、十年しゃべり続けたその腕はしっかりしていた。
また、本当にやりたかった事であるのが、しゃべりや表情で伝わり、コメント欄は落ち着いて行った。
「それじゃ、改めて紹介するね。日本プロゲーマーの父、Corsairこと、株式会社ジャストライフ代表取締役兼社長、そして、私のパパ、片岡一義です」
美優希が隠すのをやめ、席を立って頭を下げる一義、コメント欄は八の数字が拍手の代わりとして大量に投下される中、ちらほら、容姿を褒めるコメントが見られる。
美優希が席に戻ると、早速話を始める。
「知ってる人もいるだろうけど、四チャンネル合同で、株式会社ジャストライフの公式チャンネルの人は特に知らない人が多いと思うので、改めて紹介します。まずは左から、格闘ゲーム課課長、ゲームタイトルはストーリーファイター、ミノケン選手」
「よろしくお願いします」
「お隣が、パズル課課長、現在のゲームタイトルはテトリカ101、ココノエ選手」
「よろしくお願いします」
「そして、私がゲーミング部部長兼FPS課選手、ゲームタイトルはIPEX2、ミュウです。よろしくお願いします」
部長と言う事で会社を継ぐ準備が進んでいるんだと、コメントはしみじみと流れた。
「まずは、株式会社ジャストライフの事業内容を、社長に説明していただこうと思います。社長、お願いします」
「まず、株式会社ジャストライフの根幹事業が、公式ポータルサイト及び、スマートフォンアプリケーションに掲載する記事のライティングです。ライティング部門は一課と二課に別れており、専門家集団の一課と総合ライティングを行う二課となっています」
「社長、ここで質問なのですが、一課と二課の出す記事の違い、具体的にはどう違うのでしょうか?」
「まず、一課と二課の出す記事は、共通して生活に根差している事が絶対条件です」
ジャストライフを英語に起こすと『Just Life』であり、単語が持つ意味そのものが込められている。
「その上で、例えば、おすすめのパソコンを紹介するのが二課、パソコン選びの為の知識を紹介するのが一課、一部の例外を除けば、そう言う風にとらえて貰って構いません」
「一部の例外と言うのは」
「ファッション紹介やおすすめコーディネートがそれに該当します。さっきの例で言うと、おすすめパソコン紹介には、コストパフォーマンス評価が付いていますが、この評価のみは一課が加えていますし、提供パソコンのレビューを行うのは一課です」
「売り上げの仕組みはどうなっているのでしょうか?」
「提供はそもそもプロモーション費用が発生してます。商品紹介では、ECサイトごとの紹介料が、全体でCoogle広告掲載料が発生しています。アプリケーションの月額有料登録も売り上げに入ります。そして、この事業が株式会社ジャストライフの起業当時からの事業です」
すべての始まりはこれを個人的に行っていたことからだ。
「次に、この事業に絡んでいるのが映像制作と動画制作事業です。文字ではなく動画で見たい人の為に、すべての記事が動画化されます」
「動画にはナレーションが付いていますよね?誰がやっているんですか?」
「動画ナレーターは動画制作部門に所属する者がやっています。映像制作部が作った映像に、動画制作部がナレーションや字幕を付けているんです。機材や環境の関係で初期の頃の動画はお見苦しい物になっていますが、平に、ご容赦ください」
『人の問題とは言わないのか・・・』と言うコメントを皮切りに、少しずつコメントの様子が変わっていく。
「また、映像制作部は映画の撮影協力等も行っております。なので、新しい映画にはチラチラスタッフロールにジャストライフの文字を見かけると思いますよ」
「具体的にどんな映画とかは?」
「ステマになるのでここでは言えませんが、会社の公式チャンネルにまとめがあるのでそちらを見てくださいね」
「ここまでが、初期の事業に関する事ですよね?」
「そう、ではないです。初期の事業に関して、素材制作部がイラスト関係を作成していますので、正確にはここまでです。今は偶にアニメの制作協力もやってます」
「そうだったんですね」
タイトル名が出せないのは先ほどと同じである。
「素材制作部は一般社団法人、イラストレーター連盟への加入が必須になってましたよね?」
「はい。今はイラスト関係では有名になってくれました、イラストレーター連盟は、ジャストライフが第一出資者となりまして、非営利法人として、イラストにおける著作権を守る団体です」
「著作物の登録は必要なんですか?」
「要りません。相談窓口と弁護士紹介窓口であり、企業とイラストレーターのお仕事を円滑する為のシステムを運営しているだけで、初期の頃は赤字しか出してないです。今は、黒字分を弁護士費用の支援に充てる等をしています。なので、今は安く問題解決できます」
「因みに、FPS課の選手、カガヤキも登録してますし、有料会員登録はありません」
カガヤキは輝の選手名である。野々華の選手名はNonNonだ。
「興味があったら登録してくださいね。結構いろんな機能、特にポートフォリオ機能は便利ですよ。因みに私も登録しています」
「社長も登録されているんですね」
「絵が趣味なのでね。それは良いとして、ウェブコンサルティング事業として、サイト管理部が様々な取引企業のサイトを手掛けて運営管理しています。名前を出せるのは、大野家具、シルバーフォークホールディングス、光徳社グループ各子会社あたりかな」
「やらしい話、結構売上高ありますよね」
ミノケン選手が親指と人差し指の先をくっつけて、儲かってますよねと言うしぐさをした。
「コンサルティングもやるので、結構ありますよ。自信持って言えないとね。社員が不安になっちゃう」
「これって実は事業開始順番ですよね」
「そう、順を追って説明しています。で、次がプロゲーミング事業です。一定数勘違いしている人がいると思うんだけど、まぁ、社員の数人が勘違いしてたし。プロゲーミング事業のすべての始まりってミュウ選手、私の娘じゃないんです」
コメント欄にはクエスチョンマークが並んだ。
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