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三章
株式会社ジャストライフ・中
しおりを挟む「沿革にも関わるから簡潔に説明させていただくと、私自身がそもそもゲーマーで、大学時代にバイトしまくってパソコン買って、パソコンゲーム、オンラインゲームの世界に入って、あるFPSゲームでランカーになり、クランに誘われ、このランカーがすべての始まりです」
「では、沿革の時に詳しくお聞きしますね。リスナーさんちょっと待ってね」
「ランカーになった事である程度名前が知られますよね?その名前がCorsairですか?」
「そう。この時に、旧野良連盟の選手、現株式会社Non Rejectの統括マネージャー、ムーンシスターズのオーナー等の諸々の人たちと出会っています。これがないと、カガヤキのお兄さん、Falcon選手を送り出せなかったので、事業の基礎はこれです」
「この頃から、プロゲーミング事業の構想があった。そう言うことですよね?」
「勿論」
真剣な表情で頷く一義の姿に、コメント欄は静かになってしまった。
「Falcon選手には悪いんですけど、彼をフォローしたのは環境テスト、Corsairの名がどこまで通用するのか、勝算はありつつ全力で育てました」
「それで、行けると踏んだわけですね」
「そうです。ミュウ達はやる気があったのでその計画に乗せたわけです。大会については、初めは練習会だったのが、イベントにする話になり、協賛企業が結構手を上げてくれまして、その後すぐに、市を巻き込み、県を巻き込み、e-sports教会を巻き込み、メーカーを巻き込み、現在の形になっていきます」
「当時、胃薬飲んでませんでした?」
「そりゃ、私の思った以上に話が大きくなり、舵取りは私のままで、身までよじきれそうでしたよ」
実はこの流れがなければ、総合プロゲーミング世界大会は生まれなかった。
コンシューマーの開発と発売を担うSomyと純天堂が、この流れをマクロソフトに持ち込み、マクロソフトによってまとめ上げられたのが、世界大会とリージョン別大会である。
「さて、最後の事業が農業事業ですね」
「これは市、正確には市長からお願いが発端となっていますね。市との共同事業として、投資額は三億、農地借り上げ、農家の雇い入れ、大型農業用機械購入、IoT導入、投資金回収は来年で終了予定、再来年には子会社化を予定してます」
「市職員の天下りがささやかれてますが」
「入社試験は平等に受けてもらいます。農業知識かマーケティング知識のない社員は要らないので、天下るのも覚悟しておかないと取りません。それに、うちの本業はマスコミなので、つるし上げられる覚悟もないとね」
コメントは『忘れてた』や『そうだった』で溢れている。
「これが、株式会社ジャストライフの事業内容です。事前告知の通り、概要欄のURLから飛んでいただいて、マシュマロンを投げて頂ければ、リスナーの皆様の質問にも答えます。集まるまでは、社員から寄せられたマシュマロンに答えていきたいと思います」
所詮は社員が送った物なので当たり障りのないもの、五分ほどでリスナーの送ったマシュマロンへと移り、圧倒的に多かった質問がある。
「ほとんどこれみたいですね。『なぜ上場しないのでしょうか?』」
一部社員からも来ていた質問だった。
「上場にデメリットがあるのはご存知でしょうか?」
「「・・・え」」
美優希は知っているのでそもそもだが、それ以外はきょとんとした表情をし、コメントは『分からない』が多数だ。
「メリットは資本金の増額、企業信用度上昇、企業知名度上昇、社員の資産創造ぐらい。デメリットは、意思決定権の消失、IR情報公開の為の設備投資、倒産時の株主保障額の拡大、株主優待の準備、株主配当金の支払い」
「メリットの評価がしにくいですね」
「社員の資産創造なんて、その分給与を払えばいいだけの話で、事実払ってます。資本金の数十倍の内部留保があります。知名度はゲーミング部が世界的にやってくれますし」
「必要性を感じませんね」
コメント欄は社員の給与の話で持ち切りになった。
「給与形態を教えていただけますか?」
「基本給プラス役職給、昇給が一年毎上限あり。ボーナス年二回、基本給と役職給の合算の最大五倍、試用期間三ヶ月後から歩合が付いており、賞与もあります。この歩合で年収一千万越えが多数います。選手なんかは正にそう」
「歩合を付ける理由って何ですか?」
「搾取と変わらないからです。売り上げに貢献してるのは社長でも役員でもなく、社員だから」
あっけらかんと言ってのけた一義、コメントは『聞いたかブラック』と言うコメントで溢れた。
この流れは二回起こることになる。
「では、次に多かった質問、『就業時間と平均残業時間を教えてください』」
「就業時間は八時間、フレックスタイム制でコアタイムは部門に依ります。リモートワークが可能で、フレックスタイムの利用で八時間に足りない分をリモートワークで補填してもよく、昼休憩一時間の他、自由に三十分の休憩が可能です」
「これね、初めのうちは結構助かるよ。病気した時とか。平均残業時間はどうなってるのでしょう?」
「36協定を結んだうえで、会社としては申請なき場合、一日三時間以上の残業は禁止です。止むを得ない場合は後から申請を出してもらいます」
「そうそう、週休二日制なん、です、けど、これが結構特徴的なんですよね」
「半年に一回、週のどこで休むのかは自分で決めていいです。新入社員は教育担当と同じにしてもらいますけど。お母様方は水曜と日曜に休み入れるのが多いかな。これに付随して、会社既定のノー残業デーに休みがある場合は、ノー残業デーを自分で決めてもらいます」
二回目の流れに続いて、『ホワイトここに極まれり』と言うコメントも散見された。
「あ、これいいや、『御社に転職したい場合、必要な資格はありますか?』」
「これと言うのはないですけど、専門的な資格があると採用されやすいです。ポートフォリオは必須ぐらいに思っておいた方がいいかな。人柄は面接で見るので、能力を表す実績を提示した方が、書類選考を通過し易くなります」
「一応、ゲーミング部から詳しい例を。ゲームの上手さはゲーム自体が数字を出してくれるので、それを画像か動画にして添付してくれると、こっちも判断しやすいんですよ。それこそスマホでモニターの直撮りでも大丈夫」
「うちに必要なスキルはうちで身に付けてもらいますんで、役に立つとか考えなくていいですよ。光るものがあれば人事部は見逃さないでしょうから。因みに、人格が破綻してたら例え入れても解雇するので、人付き合いは安心してください。寧ろ、私にチクってください」
『言い方』と言う突込みが入ったが、数人は目指してくれるような発言をしてくれた。
「人格に関して、これ、というのはありますか?」
「業務連絡と報連相ができれば、コミュニケーションはあまり問いません。社会人として、ともかく他人を見下さない事、思いやりがあれば、なおよし。それだけ」
「うっわ、はや。『見下さない心や、思いやりはどうしたら身に付きますか?』」
「んー・・・自分がその立場になった時にどう思うのか、考えるだけじゃなくて、体験してみるのが大事かな。体験するなら安全面考えて下さいね」
「それで、本当に怪我するとかなわないですからね」
新入社員研修でやる事は伏せたのだった。
「百聞は一見に如かず、ですからね。では、会社の沿革に移りましょう」
「その前に、話し方崩そうか。硬いままだとつまらんだろう。歴史の授業と変わらんわけで」
「これはリスナーに聞いてみましょうか」
言うが早いか。コメントは『そうしてほしい』でいっぱいになった。
「ネットビジネスに触れるのはいつからですか?」
「Corsairの名前がランキング乗った頃、社会人二年目くらいかな。元々いた会社が副業をするかどうかで契約が違ったんだよ。ゲームの攻略情報と絵を載せて細々と初めて、広告を載せてたけど、一円もなかったかな」
「どこで跳ねたんですか?」
「ミュウが三歳になって半年したぐらいに一気に伸びた。もう死語になったけど、イクメンっていうのが浸透し始めたのがちょうどその頃なんだよ。コラムみたいな形にして週一で育児日記乗せてたの。たぶん、それが雑誌で連載紹介されたのがきっかけ」
「たぶん?」
ココノエ選手が首を傾げたように、コメントも『たぶん』と言う言葉に訝しげになった。
「時期は一致するんだが、俺自身は掲載許可をした覚えがないんだ」
「この頃の社長はそれどころじゃなかったでしょ?」
「まぁ、そうではあるけど、メールとかも残ってないんだよ。ファイリングしてたはずだが、書類もないし、それらしい通帳記録もない」
「そこまでないの?」
「当時の雑誌じゃなぁ、割と勝手してた雑誌も多いし、時代がね」
知っているものがリスナーにおらず、コメントは緩やかだ。
「それどころじゃなかったと言うのは?」
「だいぶ重たい話になるけどいいの?」
「いいじゃん。公開情報だし、そうじゃなくても調べればすぐわかる事だし」
「そうか。俺の前の奥さんが結婚前から浮気しててな。ミュウが三歳になった頃からミュウに対する態度もおかしく感じて、調べたら浮気どころかミュウと俺に血のつながりがないことまで分かった」
公開情報とは言え、あまりの重さにコメントはぴたりと止まってしまった。
「今は和解してる事だから、責めないでね。法的措置飛んできても知らないから。でも、これが重要で、この頃からよ、ユニオンオブヴァリアントソルジャー、UVSっていうFPSゲーム知ってるかな?」
「日本にプロゲーマーを生み出したゲームと言って過言ではないゲームですね」
「UVSにハチノスミカって言うクランがあって、そのクランのクランマスターが俺の状況に気付いてね。サンドバッグって言うクラン内イベントをやったの」
「プロに成るか心折られるか、で有名な奴ですね」
「そう、あれの始まりって、俺がクランメンバーボコボコにする、ってだけだったんだけど、マスターが戦術指導してくれって言いだして。ともかく強くなりたい奴が外部クランからも集まるようになったのよ」
「そんな始まりがあるんですね」
この情報を正式に表に出したのはこれが初めての事で、リスナーにUVSの元プロや、メンバーがいたのか、こぞって『懐かしい』と投稿してきた。
「サンドバッグ経験者の二割がプロに成って、二割はそのまま、六割は心折って、心折った三割はFPSゲーム自体から引退した。それくらい厳しかった。厳しくした。そう言う要望だったから」
「とやかく言われなかったんですか?」
「要望出してきたのはあちら側で、分かってて参加してる言質を取ってからやってたからね。クランマスターが結構過激な人で、カウンター食らわせてたよ」
「さすが。社長がプロに成らなかったのは、状況だから、ってことですかね」
「そう、実際に離婚したのはミュウが小学二年生の頃だから、それまでは。ランキング維持もままならなかったしな」
『それができる超人がいて堪るか』と元プロが言った事で、コメントに『勿体無い』と言う言葉は消え去った。
「時系列が進みすぎてるから元に戻そう?」
「だな。ポータルサイトの収入が当時の年収超える可能性が出て、元いた会社を辞めてフリーランスに。当時、まだ前の奥さんもミュウの事も愛していたから、離婚の選択をせずに、信じて待った」
「起業するのはいつ頃ですか?」
「フリーランスになった二年後。元いた会社が雑誌社で、前の奥さんって芸能人の清水優里だから、社長によくしてもらってて、縁もあって起業相談してた。この頃の収入が一千万越えして税金が苦してたまらなかったのよ」
「ポータルサイトってそんな強いんですね」
「当時は、ね。小方修一名義で小説の挿絵や表紙を描いていたのもこの頃」
アニメ化するまでの小説を手掛けていないので、小方修一の名は有名ではない。
「後ろに映ってるやつは俺が描いた一枚だね」
「私が一番大好きな奴じゃん」
「ミュウが昔から好きな絵だな。ミュウの妹もそうだったんだけど、俺が絵を描いてると、絶対膝上に載って来て、ぬいぐるみ抱きしめて、暴れないで楽しそうに見てるんだよ」
「こんな絵を描くんだよ?興味があればそうなるよ」
コメントが言うように、移り気が少ない性格だからというのもあるだろう。
「コメントにもあるように、可愛いのが容易に想像できるな」
「違いない、絶対に可愛いな」
ココノエ選手とミノマエ選手言われ、かーっと真っ赤に染まる美優希の顔、コメントも美優希いじりに変わっていく。
「可愛かったよ。親権取るってそう言う事でもあるからな」
「もう、次!」
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