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三章
姉妹と子供
しおりを挟む「お姉ちゃん、どう?」
三月末、自宅の建築状況の確認も兼ねて実家に戻った美優希に、美春はリビングで響輝女学園の制服を見せた。
「似合ってるよ。かわいい」
高身長の美春は、体格がいいので中学入学の時のような、着せられている感じがない。
「えへへ。あとね、お姉ちゃんに見せたいものがあるの」
「なーに?」
そう言って美春は自室に戻った。
テラスで一義とボールで遊ぶ雄太を眺め、美春の高校入学を感慨深くなっていた。
正直なことを言えば、美優希は美春が女子高に入学したことを安堵している。理由は至極簡単で、美春に近づく変な虫が嫌でたまらないからだ。
間接的に迷惑を被るから、と言う理由がないとは到底言えないが、何よりも、美春が不幸になるのがたまらなく嫌なのだ。それこそ、見合いさせたいとすら思っている。
それ故に、自分たちに対して見合いの話が一度だけあった事は、今では納得できる。直系血族でない自分を気にかけてくれた春香の両親は、よほどいい人だろうと推察できた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
呼びかけられた先にいたのは美春だが、その恰好に呆然とした。まっさらな本物のジャストライフゲーミングの制服を着ていたからである。スポンサーワッペンが付いていないと、チームロゴの銀の刺繍がよく目立つ。
「私、プロゲーマーになります。一年だけかもしれないけど、先輩、よろしくお願いします」
数度頷いた後、立ち上がった美優希は口を開いた。
「ジャストライフゲーミングへようこそ。先輩として、容赦はしないからね」
そんなことを言いながら、美優希は美春を抱きしめた。
「こんなことなら二十八で辞めるなんて言わなきゃよかった」
「今更、取り消せないもんね」
苦笑しながらも、解放された美春は腰を下ろし、美優希も腰を下ろした。
「お姉ちゃんとゲームタイトルは違うけど、いっぱい、色んな事教えてね」
「うん教える。それで、ゲームタイトルは何?」
「ボールモン、国際レート一位になったんだ」
そう言って、スマホでスクリーンショットを見せた。
「あー、今年の国際レート一位がとんでもない奴だって、あなたの事だったのね」
「え?なんか悪口言われてるの?」
「ほとんどの悪口は嫉妬だったり根も葉もない奴だったりね。ともかく選出が見破られてるような動きで、運が絡まないと勝てないってのばっかりだね。プロなんじゃないかって言われてるけど、結局分からなくて、何者なんだってSNSではトレンド入りしてるよ?」
「そんなに注目されてるんだ」
プロも含めた複数の有名配信者の生配信中にマッチングしたのが原因だ。本人にそんなつもりはなく、いつも美優希たちの生配信の、海外向けの方を聞き流してプレイしている。
その配信でサンタテ(一匹のモンスターで三匹のモンスターを倒す事)はするわ、動きを封殺するわで、たじたじにさせる。公開選出研究をしていたプロには『動きが完璧で、行動選択も早い、今の選出をぶつけたのが恥ずかしい』とまで言わしめた。
それが、半年以上も続いた上に、美春はレート一位に君臨し続けた。その為、SNSや掲示板でも特定作業がされたほどだ。
そんなことになってるとは、SNSもせず、配信者に興味もない美春は知らなかったのである。
「パパと一緒にやってたの?」
「うん。いろいろ教えてもらったよ」
「マーマ」
一義と遊んでいた雄太は、リビングに戻って来るなり美優希に抱き着いて、そのまま眠ってしまった。
「もう・・・良かったね。雄太。パパ、ありがとう」
「雄太が遊びたいって言うんだから、いいんだよ」
言いながら一義は腰を下ろし、ローソファの背もたれに体を預けた。
「俺は美春に基礎的なことしか教えてないし、随分前からやってるの見てるだけだぞ」
「傍にいてもらうだけでも全然違うんだよ。一人暮らしして分かる人の恋しさかなぁ」
「お前らはそうだろうな。中には一人の方がいい人もいる」
「それはそうね」
冷たいほうじ茶を持ってきた春香も着座し、話に混ざってきた。
「美春の制服には驚いた?」
「驚くも何も、これ、知らないの私だけでしょ?」
「知ってるのは私とパパと人事部だけよ?」
「あ、そうなの・・・」
自分だけではないと知らされて、美優希は安堵した。
「それで、美春はいきなり顔出し?」
「そのつもりだ。メガネとマスク、ウィッグも渡してあるし、教育もした」
「じゃ、デビューも今年なのね」
「開幕リーグの新人枠からで頼む。後は任せる。特別扱いするなよ」
「分かってる。仕事だからね。ね?」
真顔の美優希に向かって美春は頷き返した。
「美春はインゲームネーム、考えたのか?」
「うん。CBlossom386」
「桜美春ね」
「何で分かるのー」
美優希は英語圏の英語検定を持ち、世界中のプレイヤーと滞りなく喋る事ができるのだ。見破られて当然である。
「安直過ぎなの。あと、そう言う数字数字の入れ方はしない方がいいかな、こっちの方がいいよ」
そう言ってスマホで打って見せたのはCBl0ss0mだ
「Oをゼロに変えた?」
「こうするだけで日本人の大半は読めなくなる。もしくはこう」
今度はCB1_0ss0mと打って見せた。
「ボールモンのレベル上限は百だから、こっちの方がひねりも効く。美春の名前からの連想で桜、まではよかったけどね」
「なるほどー」
「これは『Leetspeak』って言ってね、英語圏でよく使われる手法だよ」
「おー、なんかかっこいい」
打った文字を一義にも見せる。
「そのインゲームネームの方が、姉妹としての認識も強固になるだろうな」
「うん!これにする」
「じゃ、決まりね」
上機嫌極まった美春を着替えに行かせた。
「パパ、明日からマネージャー陣に予定組ませようと思うけど、いい?」
「何でだ?」
「R5S:CRの子たちのプロモーション予定を組んでる最中だから」
「ああ、そうだったな。なら、伝えてそこに入れ込んで、必要なら美春は出社させろ」
「おっけー」
翌日、事を伝えると、輝と野々華は苦笑しつつも、美春の合流に喜び、マネージャー陣は『同時にやればいい』と、あっけらかんと言ってのけられた。
それもそのはず。
「全部俺が組むんかい」
と、啓が悪態付いた。
啓は、美優希の専属マネージャーの延長で、美優希たちのマネージャーなのである。
FPS課が稼ぎ出す額は、文句なしにゲーミング部の頭であり、それを追従しているのが格闘ゲーム課とパズル課、おのずとプロモーション効果が高いのはFPS課だ。
ともなれば、マネージャー陣にプロモーション日程を丸投げされるのは、当然とも言える。
「ごめんね?」
「まぁ、義妹の為だ。仕方あるまい」
美春は新設のRPG課となり、チャンネルも新設である。
ボールモンの開幕リーグは五月から、美春が高校生と言う事もあり、映像制作部との兼ね合いで、撮影は八日、最悪は十一日までに済ませる必要がある。
美春の入学式は九日の金曜日、十二日以降は映像制作部に残業してもらう必要があり、専用の新入社員研修も存在、開幕リーグまでに満足な練習ができない可能性もあるからである。
四月一日
「事前に連絡されてたとは言え、美春ちゃんもか」
「驚いた?」
「そりゃ驚くさ。俺が聞いたのは昨日だし、そんな素振りなかっただろう?」
美優希でも知らなかったのだ。当然である。
いたずらっぽく笑う美春に、梨々華と啓が苦笑、なお、美優希は開幕リーグへの参戦登録の為、e-sports教会への日帰り出張でクリステルと共にいない。
「それで、私は美春ちゃんに腕を組ませるのは反対なんですけど」
「それな、俺も考えた」
梨々華が誠に対して言い、誠も半ば同意した。
と言うのも、何の因果か、美春も胸が大きい。その為、腕を組ませると、その胸が強調されてしまうのである。
「アイドルならまだしも、選手だからな、ポーズについては頭が痛いよ。正立で正面から、敬礼に近い、挨拶しているようなポーズはどうかと思ってる」
「美春ちゃん、ちょっとやってみて」
「こう?」
美春は内弁慶なところはあるが比較的明るい性格だ。スタイリストがすぐに離れて、美春は言っていた通りにポーズを取った。
梨々華が腕や手の角度を調整して、笑顔を作らせる。
「さすが、誠部長、シルエットも映えますし、これで行きましょう」
「うん、案外いい」
今日は宣材写真を撮る為に、第二社屋へと集まっている。
プロモーションは段階的に行う。
SNSにて、新人選手のシルエット写真の公開と同時に、一人一人の記事が公開される。その数日後に、プロモーション動画の公開と同時に、一人一人の紹介記事を公開、翌日から数日かけて、美優希たちと一緒に生配信の練習を兼ねた、お披露目生配信だ。
また、プロモーション動画の撮影は二回、自己紹介動画を一人で撮り、準オーナーとして美優希が加わり対談動画を撮るのである。
六人分の宣材写真を撮り終わり、今度はライティング二課へ、シルエット写真と同時に公開する記事の制作の為だ。
一問一答形式で、文量が多くない為、この記事はその場で出来上がる。その記事が社内サーバーへとアップロードされるのを確認すると、ゲーミング部へと戻り練習開始だ。
これが三月以前にできない理由がある。
スポーツである以上は機密情報が多い。その為、ゲーミング部へ、正確には第三社屋へのアクセスが厳しく制限されているのだ。
第二社屋に入れるのは、ゲーミング部所属、取締役員、社長、副社長、総務部部長、人事部部長、映像制作部部長、映像制作部動画課課長のみである。違反者は最悪だと懲戒解雇となる。
また、雇用契約は四月一日から、これらも仕事の一部と規定されているので、監査の関係でこの程度と言う言い訳は通用しない。なので、一義は『大きくなりすぎた』と偶に漏らす。
さて夕刻、美優希とクリステルが戻って来ると、すぐにマネージャー陣が美優希のデスクへと集まる。
開幕リーグ出場に必要な、参戦IDとパスワードを受け取りに来たのである。ディスコルドを大会用に改造したソフトウェアの入手とログインに必要なものだ。
このソフトウェアが実質的にパソコンの状態を監視しつつ、テキストチャット、ボイスチャットを可能とし、本戦となるオフライン大会でも使用される。
悪用防止の為、所定の期日にならないとダウンロードできず、大会終了後は削除する必要があり、削除しないと通知がうるさい。
「そろそろお迎えじゃない?」
「何とか間に合ってよかった」
保育所に預けた子供たちのお迎えである。梨々華に話しかけられて、美優希はため息交じり。
「輝ちゃんげっそりしてたわね」
「だいぶ泣かれたからね」
朝、保育所に預けたのだが、久美がギャン泣き、先生たちはいつもの事だと、冷静に対応していた。釣られなかったのが雄太と翔、翔は年長で、雄太は久美とよく遊ぶ関係上、久美が泣くことに慣れている。
親と離れることに少しずつ慣らす為、しばらくはお昼ご飯を一緒に食べ、お昼寝は寝かしつけを行う。
美優希が帰ってくる前にお昼寝が終わり、起きるといないのでまた泣いたと報告があった。ただ、この件では雄太が言って聞かせると、割とすぐ泣き止んだとのことだった。なので、輝が幾分安心したのは言うまでもないだろう。
さて、十七時を越え、美優希たちは子供たちを迎えに行く。
「ママ!」
迎えに来た美優希たちを見て、いの一番に飛んできたのは久美、輝に抱き着いて大泣きした。
その後、雄太が来て美優希に抱き着き、遅れて真理香、そして真哉野と紗哉野がやって来る。
笑顔のお迎えは美優希だけだ。美優希は、野々華が泣いている双子を、同時に抱き上げるのを傍目に見て器用だと思い、雄太は不思議そうな顔をした。真理香は、クリステルが座った状態じゃないと抱っこできないことが分かっているので、不満そうに洋二郎に抱かれている。
チャイルドシートに雄太を乗せていると啓もやって来て一緒に帰る。輝もクリステルも同じようなものだが、真哉野と紗哉野が羨ましそうに見ていたのに、今は気付かないふりをする。
家に帰り着いて夕食を食べた後、雄太も寂しかったのか美優希の傍を離れようとしない。
配信の前に、IPEXチームのみでリモートを繋ぐと、他三人も同じようで、しがみつくように抱っこされている。
二十時過ぎたところで、子供たちはすっかりお眠に、二十時半になる頃には眠ってしまった。クリステルはベッドを椅子代わりにして、そのまま後ろに寝かせているのを見て、美優希は天才だと思った。
輝と野々華は和室を書斎代わりにしているので、お布団を敷いてあげれば傍に寝かせてあげられる。
練習配信なら四人共叫ばない。なので、どれだけ喋っていようと子供たちは起きないし、何なら子守唄代わりにしている節もある。
美優希は急遽、環境を寝室に移したのだった。
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