私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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三章

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 美春が配信を始めた頃、子供たちは保育所にすっかり慣れてくれた。久美は引っ越しするまで、ほぼ毎日雄太と顔を合わせており、雄太が世話焼きなせいもあって、雄太に会いたくて保育所に来たがるのだった。

「くみー、最初の苦労は何だったのー」

 美優希の部屋に集まった四人、輝はリビングのローソファに座って、机に伏してしまった。

「美優希にはうだつが上がらないよ・・・」
「「それな」」

 輝の言葉に、同じくローソファに座る野々華とクリステルが声を合わせた。

「何言ってるの?親友でしょ?」
「「「・・・うん」」」

 美優希と三人は笑顔で頷きあった。
 五月、美春がどの課よりも早く、開幕リーグに突入し、五月末にはゲーミング部全員がドン引きし、報告を聞いた上層部もドン引きした。

「ガンガン行くからね。皆応援よろしくー」

 試合後の雑談配信では明るくそんなことを言い、視聴者もすっかり応援ムードだが、美春が出した結果は全勝のぶっちぎり独走だ。
 当たり前のように役割封じを行い、サンタテを見ない日はなく、何度も魅せプ(魅せプレイ:超絶技巧で観客を魅了するプレイ、ボールモンにおいてはほぼ使われない、一般的に弱いとされるモンスターを活躍させること)して見せた。
 六月に入るとコマンド選択が分かるチートを疑われるのだが、これに関しては運営できない事を説明して否定した。
 ボールモンの対戦は、コマンド選択が終了した後にその結果が『再生』される。双方のコマンド選択はサーバー内でしか共有されず、サーバーで計算された結果が端末に送信され、送信を基にバトルアニメーションを再生しているだけなのだ。
 相手のコマンド選択を知りたければ、サーバーに送信要求する必要があり、それがあった時点でチート認定となり、要求を送った側の敗北が決定する。対戦が恙無く進んでいる時点で、チートはありえないと言う事だ。
 そんな事件がありつつ、その裏ではゲーミング部に夏樹が配置転換された。ちょうどテトリカの開幕リーグが開始する頃だ。
 すぐに出せるほどの練習はしておらず実力もないので、開幕リーグへの出場は見送りだが、開幕リーグ中はココノエ選手に付きっ切りで勉強することになった。
 ココノエ選手、実は会社での配信は行わない。
 だいぶましになっているものの、閉所恐怖症を持っており、配信を行うのはもっぱら自宅である。会社の防音個室は二畳もなく、この狭さに我慢できるのはどんなに長くても三十分ほどだ。

「独身でしたよね?」

 ココノエ選手の自宅をみて、美優希はそう言った。
 輝が家を建てた光の丘、実はそこにココノエ選手も家を建てている。三十五坪の木造二階建て、4SLDKに五畳くらいの地下防音室が付いており、家族か同居人がいないと広過ぎだ。

「独身だけど、今年から甥と姪が大学に通う為にこっちに来てるんだ」
「一人で維持してるわけじゃないんですね」
「さすがに一人は無理だよ」

 ココノエ選手は本当なら去年結婚するはずだった。良く言えば性格の不一致だが、実際は修羅場だった。
 家の完成と共に式を挙げる為、話を進めている最中に相手の不倫が発覚、式場のキャンセル費用を払わせて別れ、家だけが手元に残ったのである。

「あ、お兄さんお帰りなさい・・・」
「ただいま」

 キッチンで料理をしていた女の子は美優希を見て固まった。

「ジャストライフゲーミングのミュウ選手!」
あおいちゃんだっけ、初めまして」
「初めまして!お会いできてうれしいです!」

 目の輝かせ方は正にファンそのもの、お玉を置いて火を止め美優希の傍に寄った。

「お兄さんほんとに知り合いだったんですね!」
「所属がジャストライフゲーミングだ、って前から言ってるだろう?」
「そうですけど、お兄さんだと、なんか現実味がなくて」
「おいおい、そりゃないだろうよ。楯やらトロフィーは置いてるじゃないか」

 姪と言うに間違いはないな、とその仲を見て美優希は思った。

「葵ちゃんの事はお兄さんから聞いてるよ。はい、これ」
「え、いいんですか!」

 美優希は輝と野々華、クリステルにも書かせたサイン色紙をバッグから出し、手渡した。
 『宝物にします。一生大事にします』と言って喜んでくれる。

「えと、もう一人の方は?」
「今年からジャストライフゲーミングに入った、お兄さんのお付きで、選手としてお兄さんが育てるルーキーだよ」
「有坂夏樹と言います。よろしくお願いします」
「こちらこそ、叔父がお世話になります。よろしくお願いします」

 苦笑するココノエ選手、その顔には諦めもあった。

「仕事中はお兄さんと一緒にいてもらうんだけど、一つね、あなたにも話を通しておかなきゃいけない事があるの」
「私にですか?」
「うん。もう一人の同居人にもだね。今は学校?」
「そうですけど、あと三十分もしないうちに帰って来ると思います」
「そっか、じゃ、話はそれからでいいかな?」
「はい」

 葵がやっていたのは夕食作り、ほとんど終わりに近い時に来たらしく、パパっと終わらせた葵は美優希と話し込む。その間、ココノエ選手は、いつも配信を行う防音室へと夏樹を案内している。

「ほあー、ケーキ美味しい」

 美優希が持参したケーキに先に手を付けて、リスのように頬を膨らませて頬張る姿は何ともかわいらしい。その内、ココノエ選手と夏樹が戻って来て、ケーキをつつきつつ、話に花を咲かせつつ、もう一人の同居人、甥の到着を待つ。

「ただうぇっ!」

 帰ってきた甥も美優希を見て絶句、さっきと同じやり取りをして、部屋に荷物を置きに行った。

「ケーキうまっ」

 こちらはがっつく姿が猿のように見えてしまう。

「そうですか・・・」

 配信時間は夜に集中する為、ココノエ選手の傍で勉強しようと思うと、翔を見て置く人が必要となる。

「私は良いですよ。むしろ、保育士になりたくて大学に通っているので」
「そう、一樹君は?」
「俺も大丈夫です。弟みたいなの欲しかったんすよ」
「そう、ありがとう。ごめんね」
「「いえ、大丈夫です」」

 美優希は二人の目に嘘、偽りがないことを見て安堵した。

「何だったら、同居しませんか?」
「え、そこまで迷惑をかけるわけには・・・」
「いいんですよ。一部屋余ってますから。ね?お兄さん」
「四畳半だから子供と一緒は狭いかもしれないが」

 申し訳なさそうな夏樹が小さくなったように見える。

「それは、あなたたちが決める事だから、口出ししないけど、後悔しない?」
「だって、ね?私は三年、一樹は二年でいなくなりますし」
「何だったら、兄さん彼女いないし、兄さんと結婚してしまえば?」
「「ちょっ」」

 一樹は何となく口にしているようだが、美優希は二人の相性が悪いとは思っていない。むしろ、ココノエ選手が夏樹を見る目と言うのは、どこか熱っぽく、恋の眼差しをしている時があるからである。

「それは、本人たちが決める事だから。一応、会社としてはそうなっても口出しはしないから」
「ちょっと、美優希ちゃん・・・」
「これ以上は、ガヤが物言うのはマナー違反ね」
「「間違いない」」

 葵と一樹は口をそろえてそう言った。

「もしよかったら、翔君とも会えませんか?」
「いいよ。もうそろそろしたら迎えに行かないといけないし。ね」
「はい」

 保育部の人手が足りず、結局夜遅くまで預かる事はできないのである。夏樹の場合、旦那は居らず、親も縁が切れているので、こうして問題になるのだ。

「あの」
「ん、私?」

 おずおずと姪の方が美優希に声をかけて来た。

「カガヤキ選手とNonNon選手にも会ってみたいです。後、お子さんとも」
「いいよ、今日は生配信もしないし。あ、でも、ココノエ選手は、今日は生配信する日でしたよね」
「開幕リーグ直前の雑談配信の予定だな」

 美優希は少し考えた後、こう言った。

「じゃ、うちに招待しようか。一樹君も来る?」
「行きます。行かせてください」

 一樹は間髪入れずに腰を浮かせてそう言った。

「決まりだね。今日は、翔君はうちで預かるね」
「ありがとうございます」

 そんなこんなで、ココノエ選手の甥と姪を家に招待した美優希、翔の件を大丈夫だと言った通り、きちんと遊び相手になってくれている。
 また、二人は原付バイクしか所有しておらず、翔を運ぶ手段を持たないので、母親が迎えに来るまで、翔の傍にいてあげた。そもそも、ココノエ選手の自宅とその周辺には二人の車を置いておく場所がない。

「翔君」
「なーに?」
「ごめんね。ママとっちゃって」
「ううん。大丈夫。ママ、お仕事始めてからすごく明るくなったよ。一緒にいると楽しくなった」

 口ではそう言うが、その目は寂しいと言っている。美優希はそっと翔を抱きしめてあげた。

「翔君とママが一緒にいれる時間を長くできるように、私達も頑張るから、それまで我慢できる?」
「うん」
「ふふ、いいこ、いいこ。寂しかったらうちに来てもいいからね」
「いいの?」
「いいよ。いっぱい抱きしめてあげる」
「雄太君は?」
「雄太も一緒だよ。一緒に抱きしめてあげる。雄太」

 美優希に呼ばれた雄太はトトトっと走ってきた。

「はい、雄太も一緒にぎゅー」
「ぎゅー」

 雄太も一緒に抱きしめてあげると、翔はしくしくと泣き出してしまった。

「寂しかったね。もう大丈夫だよ」
「だいじょうぶ!」
「うん!」

 これですっかり美優希に懐いてしまった翔、美優希が休みの日、月に二、三回は預かることになった。
 そんなこんなで七月、開幕リーグの結果が出そろった。
 PSBGソロは恵美を追従できるものがおらず、次々と轢き殺される始末、絶対王者の風格を圧倒的ポイント差で見せつけた。
 美春はそんな恵美すら霞む優勝、流石に全勝優勝とはいかなかったが。
 PSBGデュオは戦術による人数有利で上位を安定して取った事で二位を突き放す優勝、カルテットは智香による変幻自在の戦術で去年の負けは何だったのかと言う優勝だった。
 美優希たちはと言うと、世界大会で見せる戦術を封印、それでも、十年以上培ってきた技術を前に、アジアチームはうんともすんとも言えない優勝となった。
 人が入れ替わった格闘ゲーム課はストーリー・ファイター、世界トップ選手が育てていた新人と言う注目を浴びている。本人たちは情報をシャットアウトされている為、リラックスして挑むことができ、団体は開幕リーグシード権を獲得、つまり、優勝した。
 超乱闘スカットブラザーズが開幕リーグで奮闘、成績を残せなかったこれまでと違い、引退した選手が指導したことで、三位にまで上り詰めた。
 パズル課はランキング一位がどういうことかその意味を見せつける。最終戦で元世界ランキング一位と二十分に及ぶ死闘を繰り広げ、負けはしたが、総合的には優勝したのである。
 成績が振るわないMOBA課、世界二位まで上り詰めた去年だったのだが、開幕リーグは三位に終わってしまい大泣きした。
 モバイル課は今年からとある理由で開幕リーグが存在しない。
 理由はデバイス差である。
 度々問題視されていたデバイスの性能差、チームによっては個人所有になってしまい、機種を指定しようにも手に入らなければ出場できなくなってしまう。
 さらに、オンライン開催であるが故のチート行為が横行し、問題になっていた。
 パソコンの場合、動作中のプログラムを表示する機能を、リーグ運営と共有する。しかし、モバイルでは技術的な問題で、それができない為に防げないのである。
 ただ、開幕リーグの代わりに、モバイルは機種メーカー主催の大会が存在する。賞金額は少ないが、そちらで結果を残し、優勝していた。

「結果出せませんでした。申し訳ありません」

 部長席に集まったR5S:CRのメンバーは、そう言って美優希に頭を下げた。

「は?」

 美優希は本気で意味が分からず、素っ頓狂な声を出してしまった。



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