私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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三章

教育

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 クリステルと智香が心血注いだR5S:CR、開幕リーグの結果は散々で、計五十チーム中四十三位だった。

「なんで頭を下げるの?」

 周りが結果を残す中、いたたまれないR5S:CRの面々の謝罪、美優希はそれが分からず困ってしまった。

「私もそうだけど、社長は『結果を出せるように頑張りなさい』と言っているだけで、『結果を出してこい』なんて一言も言ってないよ。だから、まずは顔を上げようか」

 頭を上げさせた美優希は、R5S:CRの選手を連れて戦術会議室に移動した。

「あのね。R5Sは今まで出場してなかったの。だから、他のチームに比べるとうちにはデータがほぼない。情報戦で負けてるし、あなたたちまだ十七でしょ?基礎技術だってこれからなのに、相手は旧R5Sのプロだっていたんだから、そもそも勝てるわけがないの」

 R5S:CRの選手は、一人暮らしとなってしまう高校生活に不安を持っていた。余計なストレスにならないよう、研究と練習だけにして、生活環境に慣れることを第一目標として過ごさせていた。
 R5S:CRの選手は社宅の二階、1LDKで生活している。一階のワンルームは、他のアルバイトとパートで埋まっているからだ。

「気に追う必要はない。普通は結果を残せないから、結果を残した新人が注目されるの。モバイル課もMOBA課も最初は散々だった。MOBA課なんか、SNSじゃ『ジャストライフゲーミングから抜けろ』って言われてたぐらいよ」

 ジャストライフゲーミングの信者から良く浴びせられた言葉だ。
 一義はわざわざMOBA課の練習配信に出演して、『結果を残せない理由では絶対に止めさせない。うち以上に、結果を残せるようになるまで成長できる場所がないと証明する』と明言した。

「そのMOBA課はあなたたちと同じ状況から世界二位にまで上り詰めてる。今はその時よりも強力な環境になってるはずだから、私に結果で頭を下げる時間があるのなら、自分たちの周りに教えを乞う為の頭を下げる時間にしなさい。いい?」
「「「「「はい」」」」」
「分かればよろしい」

 美優希は備え付けのパソコンを立ち上げて、モニターに映像を映す。

「勝負事ってね、人の和、地の利、天の時で決まるの。実は私に才能はないの。輝のような天才的なエイムもなければ、野々華のような天才的キャラクターコントロールなんてできないし、クリスのような戦略戦術の才能なんてない。IPEX始めた頃の動画を見せるね?しどろもどろの私がいるから」

 該当する動画見せられて、R5S:CRの選手は真剣に見入っている。

「二人に対して上手く指示が出せなくて、泣きそうになったこともある。それでも、私は学業をおろそかにしないよう気を付けながら、死に物狂いでやった。私は恵まれていたからこそ、胡坐をかくのが大嫌い。でも、結果が出なくても、やった努力は認める。それは社長も同じ」

 次は初期の恵美に対する指導動画を再生する。なお、指導動画は非公開だ。

「恵美はね、身内だからこそ厳しくした。罵声を浴びせるようなことはしてないけどね。それに、恵美は生粋の右利き、なのに、普段の生活様式を左利きに変えることまでした。そこまでやれ、なんて言わないし、そこまでしなくていい。やりすぎ」

 美優希はこれに関して、今ではストイック過ぎだと思っている。

「安心して、あなたたちは努力できてるし、これからもできる。楽しむことを第一にして、頑張り続けなさい。結果はおのずとついてくるし、ここにはやった努力を認めない人はいないから。ね?」
「「「「「はい」」」」」

 五人がしっかりと頷いたのを確認して、美優希は安堵し笑顔を見せた。

「美春については・・・あの子の事は気にしちゃダメ、あの子は本物の化け物だし、図らずも英才教育受けてるようなものなのよ」
「みはる・・・ボールモンの」
「うん。絵理奈主任マネージャーに心理学を教わってる時期もあってね。あの子がボールモンで残した結果は、すべてのモンスターを完全把握した上で、対戦相手を調べつくして、心理戦術を持ちかけるから出たの。勝てるわけないのよ・・・」
「えっと・・・ボールモンのモンスターって千を超えてますよね?」
「そう、この配信を見てみて?」

 五人はドン引きした。
 リーグ直前の雑談配信、企画の一つとして、ジュニアのボールモンコーチ兼美春のコーチが、ボールモンに関する問題を出して、美春が答えるだけの物。
 モンスターに加え千を超える多種多様な技、聞かれた事だけを答えるのならまだしも、ゲーム内説明文に加え、それがもつ特性や効果の注意点、更には、対戦ではおおよそ使われないモンスターや技まで、即座に答えて見せているのだ。

「は?やっば・・・」
「えっぐ・・・」
「何?この子・・・」
「天才」
「バケモン」

 美優希はこれを見ながら、美春はどれ程努力したのだろうと思う。
 雄太が生まれてからいつも自分の所に来て、家事や雄太の相手をしてくれており、勉強を見てあげているとは言え成績は主席だ。
 そう言えば、美春は友達と遊んでいるような事を言ったことがない。美優希は美春の交友関係が気になった。

「こういう事なの。幼い頃から大会には連れまわしていたわけで。私が同じことやれって言われても無理だし、クリスも智香ちゃんも無理って言った。だから、この子の事は気にしちゃダメ」

 新人でありながら、開幕リーグを優勝した美春、この影響で、五人に見せたこの生配信のアーカイブ動画は、百万回近く再生されまくっている。
 また、パーティの構成解説動画は、台本もあってか喋りが達者で、こちらは完璧な翻訳もあり、再生数が軒並み百万超えだ。
 モンスター一匹の育て方は存在するが、その組み合わせとなるパーティの組み方を解説する動画は少ない。他が作るには大変になるよう、高クオリティで仕上げる事で、その立場を確立させたようである。
 個別に解説しようものなら、一生かかっても解説しきれない組み合わせが存在するので、ネタには困らないらしく、そこは羨ましく思う美優希だった。
 その頃、夏休みに入って、丸ごと時間が取れるようになった美春は、第三社屋の三階でデータ収集に余念がない。本来、データ収集はコーチの仕事であり、ジュニアでも使用する為、主要なプレイヤーのデータは集められている。
 しかし、美春が他の選手と一線を駕するところの、心理データが存在しないので、絵里奈と共に収集分析中である。
 そんな様子を眺める美優希は、やはり安心できなかった。

「根を詰めすぎないように、休憩しながらやりなさいよ」

 自販機から買ったミルクティーを三つ、二人の目の前に置きつつ声を掛ける。

「はい、美春、絵里奈主任も」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「私の分までありがとう。きりもいいし、少し休憩にしようかしらね。作業始めてから三時間ぐらいたっているからね」
「はーい」

 絵里奈は美優希の顔を見て察してくれたようで、トイレに行くと言って席を外した。

「ねぇ、美春」
「なーに?」
「前から気になってる事があるんだけど、美春は友達いないの?」
「んー、いないわけじゃないかなぁ。小学校の時にボールモンの対戦でボコボコにしちゃって、敬遠されちゃった。後、中学に入ってからは、お金目当てだなぁって、なんとなーくわかるようになって、私から距離置いてるし」

 そう言われれば、中学に入ってからの自分もそうだった気がしてきた。
 ただ、美優希の場合は、悪事に対する追い詰め方が割と苛烈だったので、周囲の女子がそもそも遠慮していた。

「単純にお姉ちゃんと会うタイミングがないだけ」
「そうなのね」
「うん。あー、あがり症もってるから、お姉ちゃんと会うと倒れると思う。ファンだし」
「・・・そっか」

 楽しそうに、嬉しそうにそう言う美春に、美優希は安堵すると共に、美春の友達なら会ってあげてもいいかと思う。
 ただ、タイミングがないと言っても、美春には合鍵を持たせているので、社宅に連れてくればいいだけの話だ。美春、若しくはその友達が避けている可能性があるので、言及しないことにした。
タイミングが本当になかっただけかもしれないが。

「そう言えば、お姉ちゃん、今日朝からいるんだね」
「うん。開幕リーグの結果がそろったから、日本選手権のエントリー書類の確認でね。確認した、って言うデジタル印は会社じゃないと押せないから」
「それってお姉ちゃんだと残業?」
「残業だと語弊があるし、残業って俗称だから、正確には時間外労働だね」
「ふーん」

 何度か頷きながら美春は言葉を反芻した。
 そうしていると絵里奈が戻って来て、三人で談笑する。
 絵里奈は二人を見て思う。なんて、深い絆を持っているんだろう、と。
 カウンセラーとしてここに来てから、以前とは比べ物にならない程、穏やかに仕事ができる。
 どんな育てられ方をしたのか、どんな環境にいたのか、様々な人間と接してきて何度も思ったが、ここに来てからは、一度も思ったことがない。
 楽とは言えないが、カウンセラーとしては楽だ。カウンセラーとしない仕事の比率が多いのだから仕方がない。
 それこそ、やる気があるのかないのか分からない学生よりも、ここで心理学を教える方がやりがいを感じているわけで。

「そう言えば、絵里奈主任は、この前発表した論文はどうでした?」
「もう、あなたたちには感謝しかないわ。e-sports業界もまだまだ過渡期だから、驚くほど注目されて。ネット社会における心理学の立場、と言うのがね」

 論文を読んだ心理学者から、個人的な問い合わせがかなり来ている。また、心理カウンセラーの仲間からも、かなり絶賛された。

「そうそう、論文が注目されたおかげで、本を出す話があってね。あなたたちに協力をお願いするかもしれない。いいかしら?」
「勿論ですよ、お世話になってばかりですから。ね?美春」
「うん!」

 装丁のモデルと、内容に名前を出すと言うだけの話だ。
 休憩を終えて、美優希は自分の席に戻り、仮眠をとるのだった。
 翌八月
 日本選手権に出るのはR5S:CRのメンバーだけである。

「ともかくデータ収集に努めて。じゃないと、智香ちゃんも戦術構築できないからね」
「「「「「はい」」」」」

 勝てる相手には勝つが、次勝つ為に今は負ける。
 オフライン大会のデビュー戦となるこの一戦、ジュニアからアンダー15部門で戦っていると言っても、熱量が全く違うので、大会に慣れる為の準備の一つと捉えさせたのだ。
 どれだけ心血注ごうと、いかなクリステルでも机上論でしかない。最も足りていない実践データが足を引っ張っているのである。
 美優希に諭されてから、R5S:CRのメンバーは気持ちが軽くなっており、なんと、予選を突破して見せた。
 無論、開幕リーグで収集できたデータで、戦術に磨きがかかっているが、それで優勝できるほど甘くはない。決勝では、旧R5Sのプロ軍団を追い詰めるところまで行けたのだが、そこで敗退となった。
 経験には勝てないかと言うと、そう簡単な話ではない。
 できるはずの戦術を使用せず、相手のデータを取る為だけの戦術に終始させのだ。つまり、クリステルによって勝たせてもらえなかったのである。それでも、勝てる戦術無くしても、先輩を追い詰めた経験は自信に繋がった。
 日本選手権が終わって戦術会議室に集まったのはクリステルと智香に絵里奈、R5S:CRのメンバーだ。
 日本選手権で集まったデータを基に、これから習得する戦術を説明するだけ。クリステルが話している事は、戦った相手の情報が丸裸になっている。更に、絵里奈によって相手心理学の見地から有効な手段、相手の行動原理が示され、為人まで丸裸になっていった。
 この様子は有料会員にリアルタイムで公開、つまり生配信しており、なぜ公開されたのか分かっているかのように、翌日の練習配信ではコメント同士で自浄された。

「思い切ったことしたなぁ」

 これからの方針を、ある程度公開してしまったのだ。美優希がそう漏らしてしまうのも無理はない。
 しかし、周りがヤバい成績を残す中、本気で育てているところを見せないと、過去のMOBA課のように、SNSで言いたい放題に言われてしまいかねない。
仕方のない処置と言わざるを得なかった。

「ま、信用してるからね」
「うん」

 当然、すべてを配信したわけではない。クリステルが丸裸にした敵の戦術部分と、絵里奈による心理学による行動原理の解説のみで、核心部分は隠されている。
 クリステルが戻って来て、美優希たちも練習を開始した。


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