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三章
最後の大会
しおりを挟む九月に入り、アジア大会は台湾。
例年通り、美優希がいないチームの部屋では、子供たちが仲良く遊んでいる。すっかりお兄ちゃんになってしまった雄太の面倒見はよく、お昼寝も母親と一緒に寝るより、雄太が中心となってベッドで寝ている。
「久美はすっかり雄太君に懐いちゃったなぁ」
「真哉野と紗哉野もそう。ちょっと寂しいなぁ」
「真理香もね・・・両手足に華、ね」
クリステルの言い方に、二人はクスリと笑った。
おかげさまで楽なもの、ただ、子離れが大変かもしれない、と言う感想が一致し、全員で苦笑した。
そんなところへ美春が遊びに来た。
ボールモンはその特性上、対戦に影響するチートを作る事ができないので、他のゲームのような対策室が存在せず、今日は試合がないので暇なのだ。
「美春ちゃんはずいぶん余裕ね」
「うん、って言った方がいい?」
「あ、昨日の時点で分析終わったな?」
「そうだよー」
美春が何のために来たのかと言うと、子供たちの相手をする為だ。恵美はと言うと、今年からチート対策室に行かなければならない。去年までは智香が行っていたが、クリステルの後釜として、情報収集や分析がPSBGだけではなくなったからである。
普段会えないからこそ、美春と遊びたいと思うのは、雄太や久美だけではない。美優希の家に遊びに行くと、ほぼ間違いなく美春がいたので、真哉野と紗哉野、真理香もすっかり懐いているのだ。
これから始まる予選の分析、それを邪魔させない為の美春、というわけだ。なお、啓は美優希のマネージャーとして、今年が最後だが、今年から対策室に呼ばれていない。
甲斐甲斐しく美春のお世話によって、三人は分析に集中した。
結果から言えば、予選通過チームに注意が必要なチームはいなかった。
もうほぼレベルは横ばいとなったが、経験の浅さが見え隠れしているようでは、話にならないのである。
予選から三日空けて決勝、子供たちの相手は啓を含むマネージャー陣に任せた。と言うのも、選手たちは軒並み決勝戦で手が空いていないのだ。
決勝、ジャストライフゲーミングの出した結果は、出場タイトル全優勝という快挙を成し遂げた。
いろいろありはしたが、R5S:CRも含め、相応の努力をしたのだ。絵里奈に言わせれば、全選手が心理学の学位を持っていてもおかしくはない。
それこそ、帰国してみると、何人かの選手は心が折れた、と言って引退したニュースが舞い込んでいる。
特に多かったのはボールモン、決勝も総当たり戦だが、美春は全勝優勝を飾っており、心理戦に置いて相手にならなかったことが原因である。
美春のへの注目度は尚更高い。
プロゲーマー三姉妹としては勿論の事、美春が美優希に教えてもらったと言って憚らないからだ。
美優希はPSBGにおけるトッププロの妹を育て上げた。その恵美が、デビューの年に残したのはアジア優勝、世界二位である。
末の妹も彼女に育てられたのなら、ルーキーがリージョン別大会で全勝優勝と言う前代未聞の成績が、『運ではないのかもしれない』『世界大会でもルーキー優勝に期待大』となっているのだ。
そもそも、美優希のデビューはアジア二位、世界二位である。注目度の高さは必然と言え、そこに引退が輪を掛ける。
今になって特急の取材申し入れが相次いでおり、内容も世界大会を控えた今、美春や恵美に関するコメントが欲しいと言う。要するに、美優希の後釜である事の言質が欲しいのだ。
無論、そんな特急の取材は許されないので、すべてお断りである。なお、今までが今までだっただけに、突撃取材はなかった。
世界大会はメキシコ、今年引退する選手、と言うのは、美優希たちだけではない。
年齢的な基礎能力の衰え、体、特に目を酷使する関係で、ドライアイや乱視、近視、遠視の視力低下に悩む選手が多い。最近では奈央と麻央、恵美と輝が会社からの支給眼鏡に度を入れて、恵美は普段使いの眼鏡まで購入し、掛けるようになった。
レーシックと言う選択肢もあるが、必ず治ると言うわけではない。現に、今年の引退者の一人は、レーシック手術の効果が現れなくて引退する。
また、反射の衰えも大きい。
判断の前に反応できなければ意味がない。引退者の多くは、三十代後半に差し掛かろうとしている人ばかりである。
「反応が遅くなった、か」
「そうさ。俺らは、『もう限界だ』と思ってしまったからな。気持ちがついて来ないのだから、戦う事はできない」
「そうだろうね」
美優希は配られたお弁当を、引退予定の選手と共にフードコートで食べながら、その理由を話し込んでいる中、遠い目をした。
美優希は単身で引退予定の選手たちと話をしている。
選手には運営からお弁当か、それに相当する物が配られるが、マネージャーやオーナー、家族には配られない。
しかし、それが理由で、こうして、単身で引退予定の選手と疑似的な会食をしているわけではない。
ジャストライフゲーミング、株式会社ジャストライフが主催するファンとの交流会を兼ねた、引退パーティへ招待する為である。
「皆はこれからどうするの?」
「俺はコーチの職が約束されてる」
「俺は実況解説だな」
「私は配信者を続けるわ」
と、それぞれの道はもう決まっているようだった。
フードコートを後にして、輝たちと合流し、ホテルの自室へ向かう。
「なるほど、気持ちが付いてこいないのかぁ」
「まだやれる、そう思えなくなったわけだね」
「それが引退する時じゃないかな」
「私達が特殊なんだよ」
特殊と言っているが、結局は同じことだ。この四人以外とやるつもりはない、と言うのも気持ちが付いて行かないからである。
実力を知りたい、知ってほしい、気楽にやりたい、プライベートで旦那とプレイする時はその気持ちがあるからできた。オフシーズンで招待された大会に、一度しか応じなかったのも、赤の他人とやるのは苦痛を感じたからだった。
「そうかもね」
そう言う事にして、他愛もない話をしながら、旦那と子供たちが待つ部屋に戻った。
予選開始、チート対策室に行って美優希がいないのに、一義が泊まる部屋に輝、野々華、クリステルがやってきた。
理由は割と単純で、雄太を預かっているのが一義で、子供たちが雄太と会いたがり、そこに母親もいないと嫌だと駄々をこねたからである。
一義はそんな様子を温かく出迎えた。この様子が懐かしいからである。無論、そこに一義は口を挟むつもりもなく、そもそも、口を挟む余地はない。
「アジア大会の時もそうだったけど」
「雄太君いるとほんと楽・・・」
「二人目が生まれても、美優希は苦労しなさそう」
お昼寝する姿は、アジア大会の時のそれと同じだった。
「これが両手足に華、か」
「「「はい」」」
「言い得てるわ」
と、一義は苦笑した。
子供たちが遊んでいる時、端から見ていると、四人のお姫様に振り回される執事、と言う様子が良くあてはまる。この頃からこれでは、将来の雄太は相当苦労するだろうと、全員が思ったのは言うまでもない。
チート対策室から美優希と啓が戻って来ると、雄太は今日一番の笑顔を見せた。
両親がいない、と言う状況がそうあるわけでもなく、保育所でもない為、寂しかったのである。ただ、美優希か啓に走り寄るようなことはしなかった。
そうは言ってもまだ三歳、自室に戻るとうんと甘えてきたのは言うまでもない。
IPEXの予選が終了してから四日、いち早く恵美がソロ優勝を決めた。これまでがそうであったように、ジャストライフゲーミングが出場するタイトルで、一番早く決まるのがPSBG2ソロ部門なのである。
今年の恵美の戦いは苦しかった。時差ボケに悩まされて本調子ではないからだ。歯を食いしばる程、調子が悪いと言うわけではないが、普段ならしないミスが目立った。
それでも、優勝をもぎ取る当たり、その才能は本物だ。その恵美に応援できるほどの元気がなく、ホテルで休んでいる。
恵美の優勝が決まった午後、IPEX2トリオ部門が決まる。
一日目を二位通過した、と言っても、一位のポイント差は三で、簡単に覆る差だ。寧ろ、情報封鎖の為に、戦術を縛ってその差なので、健闘していると言えるだろう。
「さ、もう遠慮しない、暴れるよ」
「「うん!」」
恵美の優勝に輪を掛けるように、美優希は輝と野々華に声を掛け、二人はしっかりと、楽しそうな笑みを浮かべ、しっかりと返事をした。
さて、なぜ、これまで、美優希たちは世界王者を取り続けられたのだろうか?
その理由を体現するかのように、美優希は全選手を手の平で転がしてみせ、二日目の五戦、すべてにおいて、チャンピオンを取って見せた。
「動き、オーダーが読まれてる」
すべてのチームの司令塔は戦慄を覚え、そう漏らした。後ろから監視している全チームのジャッジは画面に見入ってしまう時があり、ジャストライフゲーミングのジャッジに至ってはドン引きである。
美優希は相対する選手の癖から相手を特定し、事細かに相手の心理状況を説明しながらオーダー、試合中喋っていない時がない程だ。
キャラクター構成も固定されておらず、心理面からの制圧、ここに来て、こんなことをされるとどうしようもできない。
無論、ジャッジによってウォールハックを疑われるが、使っているようなエイム挙動はしておらず、チート対策室で、そのようなプログラム、履歴、物的証拠は発見されなかった。
美優希はクリステルと共に、この日の勝利の為に準備した。絵里奈によって仕込まれた心理学で、すべての選手を分析し、正確や癖をトレースできるほど、配信で練習した。
また、これが情報封鎖にもつながった。あまりにも戦術の幅が広すぎる為、同じように分析されても、美優希につながる結果が出ないからである。
引退となる本戦で優勝できたことに大号泣する三人、試合後インタビューもままならず、クリステルまで泣いてしまっており、代役には啓を建てた。
そして、啓によって種明かしがされ、情報戦での完全敗北を知った他の選手は、美優希たちIPEXクイーンズの勝利は必然だと声を上げた。
これには会場がスタンディングオベーション、鳴り止まない拍手を背に、美優希たちが先頭に立って退場したのだった。
「落ち着いたか?」
「パパ!」
ホテルの自室へと訪れた一義に、美優希は思いっ切り抱き着いて褒めてもらう。
子供たちはまだ戻ってきていない。こんな状態の母親を見て、不安にならないようにする為の配慮である。
美優希が一義から離れると、今度は美優希以外の三人、輝、野々華、クリステルが抱き着て来た。
「お前たちもよくやった。よく、美優希を信じてついてきてくれた。ありがとう」
「「「はい!」」」
四人が落ち着くのを待って、旦那たちが大興奮状態の子供たちを連れてきた。
そして、声をそろえてこういった。
「「「「「ママたちすごかった!おめでとう!」」」」」
「「「「ありがとー」」」」
それぞれがそれぞれの子供を抱きしめ、『よくできました』と褒めてあげる。ほぼ同じタイミングで抱き上げて、旦那たちともハグをした。
夕食後、美優希は雄太を抱いて恵美の部屋を訪れる。
「えみおねえちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ、ありがとね」
笑顔が出るくらいには元気になっており、空元気のような無理は見て取れない。それでも心配しているのか、雄太は美優希に顔を向けた。
「顔色も戻ってるし、声色もいつも通り、恵美お姉ちゃんは大丈夫だよ」
「うん」
眠気が襲ってきている雄太、元気さはないが、笑顔で頷いた。
「様子を見に来てくれたの?」
「そうよ」
恵美がリビングの方を見やると、そこにいた智香が頷いた。
「・・・お姉ちゃん、アドバイス欲しい。雄太君もいていいから」
「わかった」
部屋に入れられてしばらく、雄太は恵美の腕の中で眠ってしまった。相手してもらえなくてつまらなかったのではなく、単純に眠かったのである。
恵美は雄太を美優希に帰すことはせず、抱いたまま分析を続けた。
「グレネードを投げる位置がずれてて、ここはすごくもったいなかった。全体的にはワンテンポ動作が遅くなってる。結局さ、ミスはしてるけど、致命傷になってないのが、恵美だよね」
「PSBGって戦ってる相手が誰なのかは、今も分からないのね」
「そうだよ。キャラのコーディネートは、大会運営から指定されている程、徹底されてる」
本当は、指定しないと、コーディネートによる有利不利が生まれるからである。
PSBGは全体的な色遣いが暗く、ビビットな色程浮き彫りになりやすい。また、一部コーディネートには、疑似ギリースーツと揶揄される物まである。
「お姉ちゃん、これが分かりやすいよ」
「これは・・・」
一瞬見ただけでは近くでも見逃すだろう。恵美に見せられた画像に美優希は苦笑いし納得したのだった。
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