堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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第十二章 変化

一節 格上げ

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 イムを安心させる為、これまで以上に本気を出すようになったルシフェルに、ギャロワ商会員全員が茫然自失となっていた。
 一分の隙も与えず一撃で屠り、集団は魔法によって容赦なく一撃で全滅させた。
 時にはモニクが特別報酬を出すと言って護衛たちと模擬戦をやらせて、打ち合いすらさせてもらえず、果てには複数人の護衛を一瞬で制圧する技まで見せた。
 そして、クルノフ皇国に着くころにはイムの杞憂は消え去り、『当然だね、お疲れ様』と言う笑顔を見せてくれるようになっていた。
 セレは何をしたのか逐一聞くようになり、必要があればその場で教えた。

「いやぁ、四つも賊を壊滅させてくれたおかげで大助かりだよ。これは約束の賞金だ」
「多くないですか?」

 契約上では賞金の三割を受け取ることになっていた。これは直接戦闘をこなす護衛の数を加味して三割と言うことになっているのだが、元の額を知っているのでこの袋はそれ以上に重いとわかる。

「ほとんどあんたが倒したんだよ。契約通りだと護衛の顔が立たないのさ」
「そう言うことならありがたくいただきましょう」

 後から変に風評が流れるよりも、護衛の顔を立たせて渡しておいた方が今後の商売はやりやすいのだ。
 無論、良い噂を流してね、と言う気持ちが入っているのは当然である。

「あんた、傭兵の格付け上げな?」
「なぜです?」
「あんたの実力は白金級だ。素行に関しても特別問題視するようなことでもない。なんなら子供と一緒に旅団活動してんだ。その方がよほど自然に見える。それに、あんたは天使に導かれた者で、白金級の実力を持っている。それで銀級に留まっていること自体が問題だ」

 要するに正当な理由なしに下位の格に留まるなと言いたいのだ。

「確かに白金級の金回りなんて良くないだろうが、下にいるもんにとっちゃ勘弁してほしいことになっているぜ?組合への推薦状は私が書いてやるから、格上げな?」
「・・・」
「それに、銀級のままだと同じ銀級や金級、貴族からやっかみを受けかねないんだよ。今までは聖国の隣国だったからまだよかったんだ。特にスンツバル王国は宗教への執着が薄いから相手に良心なんて求めない方がいい。イネスもマリも見目が良すぎるくらいだからかなりまずいぞ?」
「確かに」

 白金級に手を出す傭兵も貴族も、王族もいない。国一つ相手にしたところで対等以上に渡り合えるのが白金級だからだ。

「白金級の実力はどの大陸でも恐れられている。そんなの抱え込んだら周辺国家が黙ってないどころか大陸全土から一斉攻撃を仕掛けれらかねない。だから、どの国も白金級の囲い込みなんてやらないのさ。失敗すりゃ国を滅ぼしかねないからな」

 しかし、金回りの悪さはどうしようもない。クシェルは最悪でもイネスごと天で過ごさせればいいだけだが、双子はそうもいかない。

「神殿付きの白金級は契約が変わって、活動保障じゃなく支援になる。この支援は各国が平等にお金を出すことになるから、神殿はうまくやれば儲けるだろうな。元から神殿付きだから各国から変に目を付けられることもないね。天使に導かれた者が白金級の実力を持ってましたんなんて有名な話さ」
「神殿と連絡を取る必要がありそうですね」
「それはそうだ。それに、こうして縁ができたんだ。商会から支援を受けている白金級はいるから、うちからいくらか出すこともできる。というか、そういう後ろ盾を複数つけられて傭兵稼業に専念できるから、今なら白金級に上がっても苦労はしないさね」

 所謂スポンサー、これが白金級で活動できるかどうかの境目なのだ。スポンサーがいなければ他に商売をする必要があるほど、回ってくる依頼は少ない。

「神殿と話が付いたらまた来な。それまでには推薦状を準備しておくから」
「そうしましょう」

 ルシフェルは出された紅茶を飲み干した。

「旅団借家を借りるのかい?」
「ええ」
「なら、出発が近くなったら人をやるよ。後で場所を教えてくれ」
「分かりました」

 商会の建屋を出て傭兵組合に向かい、イネスたちと合流すると今度は教会を訪れる。
 賊の賞金の件で借家の手続きを任せて、ルシフェルは一人でモニクと行動をともしていたのだ。

「話は聞いております。奥へどうぞ」

 応接間に通されて司祭の話を聞く。
 スンツバル王国にある学園の問い合わせの件である。
 答えから言うと一日だけの体験入学は可能だと言う。元々、留学生の為にやっている体験入学が一日から三日程で、それを適応できると言う。

「どうでしょう、セレ様、イム様は学園に興味はおありですか?」
「「ないです」」

 即答だった。
 これには司祭も苦笑する他なかった。

「では、この話はなかったこととして伝えておきます」
「お願いします」

 話をした十五日ほど前は興味津々だったのだが、理由を聞くと全寮制がお気に召さなかったようである。
 学園で学ぶ歴史など、学園がある国にとって都合の良いものでしかない。それを覚えると精霊の子として良くないので無理してでも受けさせないことにしていた。
 剣術に露ほども興味がなく、魔法はルシフェルや実父から学んだ方がはるかに高い技術になる。もっと言えば、学園でやる魔法の授業は既に遅れたものになっている。
 算術にしてもすでに知っているものになり、読み書きはできるので学ぶ必要がない。
 学費をスンツバル王国が負担してくれるにしても、何しに行くのかよく分からない状態だった。
 しかし、人族の、それも貴族に知り合いを作っておけば何か役に立つかもしれない、社交場としての価値はあり、双子はそれで興味があった。
 そこに対して全寮制、即ちルシフェル達から離れて暮らさなければならないと分かった瞬間、双子は興味を失ったのである。
 かもしれないと言う不確定な利点に、今の暮らしが侵されることを許容できなかったのである。

「私から一つよろしいですか?」
「なんなりとどうぞ」
「私の傭兵の格を白金に上げようと思うのですが」
「ようやくですね」

 どうやら上げなかったのが不思議に思われていたようである。

「すでに準備は整っていますから構いませんよ。認識票が発行されたら、組合から傭兵格保証書を発行してもらってください。それから・・・」

 司祭は立ち上がって一通の封筒を持ってきた。

「これは神殿、『民の矛』、『風来の剣』連名の推薦状です。写しですがこれがあれば素直に上がれるはずです」

 いたせりつくせりである。まぁ、こうなるとアージェ教は中抜きで儲けられるのだ。ある意味では当然の準備だろう。中身が天使だということも知っているわけで。

「ありがたく頂戴します」

 モニクと話をしたその日の内に神殿と話がついてしまったので、翌々日に合う約束だけ取り付けて借家へと戻った。
 夕食後、風呂を早々に済ませてイネスとクシェルが寝てしまい、応接間兼居間のソファーでくつろぐのは四人だ。
 と言っても、ラジエラは服を作り、ルシフェルが勉強を教えている。

「お姉ちゃんたちの格は上げないの?」

 今日の件で傭兵の格付けを知ってセレがそう聞いてきた。

「上げられないかな」
「どうして?」
「私もイネスも経験が足りないからだよ」
「「経験」」

 セレが主に聞いてきていたのだが、最後でイムも入ってきた。

「そうだよ。戦闘力ってね、持ってる力だけじゃなくて、今までどれくらい戦ってきたのかっていう経験によっても変わるんだよ」
「「そーなんだー」」
「お兄ちゃんは私たちと比較にならないくらい経験が豊富だからね。何回やっても勝てないよ」
「リールとニクスは?」
「リールとニクスがいても無理だね。組合でやった模擬戦は覚えてる?」
「引き分けじゃなかった?」

 本質が見抜けなかったのでそう覚えていてもしょうがない。と言うか、見抜けるような年齢でもなければ、経験もなかった。

「あれね、お兄ちゃん本気出してなくて、私たち遊ばれてたんだよ」
「うそ!」
「今でもそうなる?」
「なるんじゃない?どう?」
「認識を間違えさせるような余裕はないだろうが、それでも俺の手の内だな」

 双子は除いて、ラジエラ、イネス、リール、ニクスを合わせて、前の世界の獣魔で中間に位置する強さだ。ルシフェルはその上の獣魔を、時には複数相手にすることがあった。
 なので、見ている人の認識をゆがめるようなことまではできないにしても、手の平で転がせる程度でしかない。
 しかし、

「セレちゃんとイムちゃんがこのまま魔法を熟練して経験を積むと、いつか俺は負けるだろうね。二人ともそれくらい強くなれるからね」

 天使を相手にするのと変わらない程に双子は強くなれる。その双子が相手となればいつか負ける日が来るだろう。

「イネスはどこまで行けるのかわからないけど、マリだって同じくらい強くなれるから、今は無理でもいつかは負けるよ」

 種族としてのポテンシャルがそもそも違うのだ。祝福を受けているとは言え、イネスの力の底は見えている。

「さぁ、いつ勝てるようになるのかな?」
「「頑張るもん!」」
「楽しみにしてるよ」

 二人の頭を撫でてあげると、ルシフェルは二階へと向かった。
 静かに扉を開けて中に入り静かに閉めて、寝具の縁に腰を下ろした。

「ルシフェル様」

 と小声でイネスから声がかかった。

「起こしてしまったか」
「いいえ、まだ寝ておりませんでした」
「そうか」

 クシェルを挟むようにルシフェルも横になり、クシェルの手を触る。そうするときゅっと指を握られる。

「いよいよ、白金級ですね」
「欠点ばかりに目が行って利点はあまり考えていなかったな」
「あの時は神殿以外の後ろ盾がありませんでしたから仕方ありません。大々的に宣伝してもよかったのですが、普通よりも神経を使う必要もありましたから」
「そうだな」

 呼吸に合わせて握る力に強弱をつけるクシェルの頭を撫でて息をつく。
 こうしてクシェルを挟んで寝るようになって思うようになったことがある。

「自分に子供ができるなんてな」
「そんなに不思議ですか?」
「俺にこんな甲斐性があったのかとね」

 前に付き合っていた彼女との性交渉はなかった。不全と言うわけでもない。

「婚約とまではいかないが、親公認で付き合っていた女性がいたんだがな、子づくりするところまで行かず、そのくせ長々と付き合っていたからな」
「それは、清いお付き合いというわけではないのですか?」
「よく言えばそうなるんだが、関係を持つこともなく長々付き合うなんて向こうの世界ではありえないんだよ」
「であれば、なぜ私とは?」
「イネスとの初めては式の後だったから、彼女については結局そういう目で見てないんだろうな」

 意識するところが違った、それはそれで正解だ。
 が、実際のところ、彼女は母性に基づき、彼は空感情だった。つまり、そこまで行きつかなかったと言うのが正解だ。

「親公認と言うのも存外意識されてしまったのではありませんか?」
「そうかもしれないな。すまないな、こんな話をしてしまって」

 そう言われると、イネスはルシフェルの頬に手を当てた。

「他の女性の話をされると嫉妬してしまいますが、それはルシフェル様が辿られた道です。それを聞いてみたい、知りたいとも思っていますから大丈夫です。こうして結婚しクシェルもおりますから、良くはありませんがその女性よりも私は幸運に思っております」
「そうか」
「ええ、ですからいろいろ聞かせていただけませんか?私の愛する方の辿られた道を」
「ああ、愛する人の為に話をしよう」
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