孤児のTS転生

シキ

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孤児と愚者の英雄譚

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前からはいつしか見た神官の装いをした壮年の人族が錫杖を地面へ突きながらこちらへと歩いてくる。
その手には口を開けた獣人族の頭を持ってはいるがその装いには血が一滴も付いておらず不気味だ。

「おやおや…こんな所に主神様の祝福を受けていない子供が。非常に…えぇ非常に残念ですよね?」

私を見つめながらそう言うと有無を言わずにその手に持っていた獣人族の頭を私目掛けて投げつけると駆け出す。
私は咄嗟にその頭を躱すと手をクロスさせ防御体勢に入るとその腕に衝撃が走る。
それは目の前にいる壮年が私に向かって錫杖を突き出した攻撃だった。

見た目より剛腕の持ち主だったようで私の身体は簡単に空へと飛ばされ壁へと激突する。
痛みこそ無いが動きづらいことこの上無い。

こんな壁に激突して壁自体崩れる程の音を鳴らしているというのにここの騎士は何やってるんだと思いチラッと横を向く。
その視線の先では騎士と神官が戦いを繰り広げており劣勢を強いられていた。
どうやらあちら側からも周られていたようで挟み撃ちに遭っていたようだ。

あちらは人数にして五人おりこちらは一人…まだこっちの方がいいか。
にしてもあっちにいる騎士は十人以上いるのに何故か五人に勝てないようで相当この神官ってのは強いらしい。

「おやおや?…大丈夫ですかね?直ぐにその痛みから解放して我が主神の元へ送ってあげますので我慢してください…煩いのはあまり好みでは無いのでね」

態々壁に埋もれている私の目の前まで来てそんな言葉をかけてくる。
そして腕を天井へ上げ錫杖を振り下げようとしてくる。

コイツの身体能力には目を見開く程のものがある。
それから繰り出される一撃はかなりヤバいものだろう。
錫杖の突きでもこの威力だしな。

「魔法陣展開ッ!守護結界ッ!」

私は使い慣れた魔術で結界を作り出し四方八方どこから来ても守りきれる透明な壁を作り出す。
だがそれを見て私にまだ戦闘の意志があると分かったのか「愚かな子よ」と呟き錫杖を振う。

私が作り出した守護結界に「ピシャッ」という氷が割れるような音が響く。
目の前にはヒビが入り今にも割れそうになっている。
一撃…たったの一撃でヒビが入っている。

決して即座に防ぐ結界が必要だったからって手は抜いていない。
逆に魔力を注ぎすぎたぐらいだし並の攻撃じゃ傷一つつかないことは実証済みの結界だ。
それにヒビが入ったとなると…かなり相手は相当の手練であることに違いない。

「おやおやおや?ふむこの一撃に耐えるなんて運命に愛されていますね?まぁ…ではさようなら」

目の前の壮年はそう言いながらまた錫杖を振り上げると金色のオーラを纏う。
ユラユラとそのオーラは揺れたかと思うと錫杖の先に付いている鏃のように鋭いクリスタル部分へと収束しそのクリスタルを明るく灯す。

「我が主神よ力をお貸しくだされ『信義の剛撃』」

そう言いその凄まじい魔力を放つ錫杖を振り落とそうとする時に身体が震える。
それは生存本能が鳴らす最後の警告。
どんなことをしてでも生き残れと判断する単純な思考の一端であった。

思考を回し魔法陣で出来ることを考える。
私が死なない方法、後ろの扉の向こうにいるアルキアンを守る方法、この場を凌げる方法。
全ての魔力を身体に回して動ける準備をする。

そうして放たれた一撃…振り下ろされたその閃光は容易く守護結界をカチ割る。
割れたその瞬間にリソースを身体に回した私の脚は跳ね壮年の股を潜り背後へと移動する。
壮年の一撃は壁を削り光は熱を放ちバターのように石をドロドロに溶かす。

「思考をぶん回せッ!」

この一瞬に全力を尽くす。
幸いこの一撃の攻撃は自らの意思で止めれないほどの威力を誇るらしくこちらを向かない。

宣言した通りに魔力を回し脳を強化してそれと同時に並行思考で魔法陣を思い描く。
その思考全てを分割して約12個の想いを描き始める。
ここにくるまで見て思考の隅に残った情景を思い出して座標を指定する。
発動時間短縮の為無理矢理魔力を回して血管に重なる魔力回路がショート寸前まで追い詰めて作り出す。

どうやら今更になって私が何をするのか見つけたのか壮年の人族は目をかっぴらくとその手に持っていた錫杖を手放す。
光は手を離した瞬間から収まりそこには赤熱したドロドロの石のみが残るが放された手はこちらへと掴みかかってくる。
首が両手で掴まれ「ゴキッ」という何かが折れた音がする。

「この…餓鬼がッ!何をッ!」

「クシュ、うるせぇ残念だがここから先は……あっちで、だ…魔法陣展開『転移』」

地に伸びた魔法陣はもう既に完成されている。
さっさとこんな私の戦闘に合わない場所とはおさらばだ。

この魔術のせいかそれとも首が折れたせいか息は絶え絶えで思考はぼんやり薄くなるし熱が全身を回り視界は赤色に染まった。
口や鼻からは何か流体が流れているような感覚があるがそれでも幸い痛みがないからこうして余裕でいられる。

まだ生きている…それだけは分かる。
頭に鳴り響いていた戦闘の感とも言える生存本能の警鐘は鳴りを潜めている。
「ここからが私の出来る戦闘だ…気合を入れろよ」と意気込み周囲は光に包まれた。
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