百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

141 ドラゴンと不法入国者

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 翌朝。
 起床してきた白虎族と青龍族の家族は、特に騒がしい様子もなく、静かに食事をしていた。

 その後、白虎族と青龍族の家族はセレナと話があると言うので、俺はその場に残っていたドランヴァール王国のヒューマンの使者から話を聞くことにした。
 彼はもともと龍人の通訳として同行してきたのだが、俺が指輪と腕輪の魔道具を龍人たちに渡したことで、役目がなくなってしまったらしい。

「あー、ドラゴンですか。たしかに我が国ではドラゴンを飼育していますね」

 以前、ドランヴァール王国には竜騎士団があると聞いていた。そこで、ドラゴンの飼育方法について教えてもらおうと思ったのだ。

「飼育自体は、特に難しいことはありませんよ。三日に一度ほどの食事で十分ですし、その際はドラゴン一頭につきオーク一匹ほどを与えれば大丈夫です。敷地も、飛び立ちと着陸ができる場所と寝床さえあればいいので、そこまで広くなくても問題ありません」

 ドラゴンは地上を走り回るわけではないため、屋根付きの寝床を用意してやれば十分だそうだ。
 俺はさらに質問を重ねた。

「ドランヴァール王国では、どうやってドラゴンを捕まえているんですか?」

「近くの山に、もともと多くのドラゴンが住んでいますからね。必要な頭数だけ従魔にして連れ帰るだけですよ。この辺りなら、まさにそこに見えるグラント山脈の山頂付近に多く棲んでいると言われていますよ」

 え? この山脈の山頂に?
 そういえば、ターリアも魔女だった頃にセリオス山脈の頂上付近でブルードラゴンを見たと言っていた。どうやらドラゴンは、こうした標高の高い山々に住んでいるらしい。何頭か捕まえてきてもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、セレナから〈念話〉が届いた。

『アレス、少し時間いいかしら。執務室に来て』

『了解』

 シアとリオナの家族と話をしていたはずだが、何か問題でも起きたのだろうか。俺は急いでセレナの執務室へ向かった。
 部屋に入ると、セレナは困ったような表情を浮かべていた。

「アレス、シアとリオナの家族がね、雪が解ける春までエヴァルシアで過ごしたいと言っているのよ」

「いやいや、彼らは今、不法入国状態だろ? 春まで滞在するなら、リーファリアでないとダメだ」

「私もそう言ったのだけど、全然聞く耳を持たないの。それでね、ノワゼリア侯爵にお伺いを立てようと思うの。アレス、私を領都ヴァルグラントまで連れて行ってくれない?」

 領都ヴァルグラント。馬車なら片道二日だが、ドラゴンになって飛べば六分ほどで着く。

「わかった。連れて行くよ」

 こうして俺は、セレナと共に領都ヴァルグラントへ向かうことになった。

 ◇

 俺はドラゴンの姿となり、セレナを背に乗せて領都ヴァルグラントへ運んだ。
 あらかじめヒカルへ〈念話〉を入れておいたおかげで、ノワゼリア侯爵との謁見はすぐに実現した。

「久しいな、セレナ。エヴァルシアの開発は順調か?」

「はい、順調なのですが、実は一つご報告がありまして――」

 セレナは、現在スヴァルシア王国とドランヴァール王国の使者がエヴァルシアを訪れていることを伝えた。

「ほう、リーファリアから転移魔法陣で来たのか。さらわれた子供に早く会いたい親の気持ちは理解できる。そこまではいいとして……春まで滞在したい、か」

「はい。どうやらエヴァルシアの食事と酒をたいそう気に入ったようで、リーファリアには戻らないと言って聞かないのです」

「ふむ……それは困ったな。ならば私が一度エヴァルシアへ行き、直接面談しよう。問題がなければ、一時滞在許可証を発行する」

「侯爵自らお越しいただかなくても――」

「いや、私も一度見ておきたいのだ。開発中のエヴァルシアをな。それに――」

 それに?

「そこの男、アレスと言ったか」

「はい、アレスと申します」

「この屋敷とセレナの屋敷を繋ぐ転移魔法陣を設置してもらえんか? ヒカルとミリアが最近、エヴァルシアへ行かせろとうるさくてな。転移魔法陣があれば、ヒカルとミリアもエヴァルシアからこちらに通えるのだろう?」

「はい、可能です」

「では、転移魔法陣を設置する部屋を用意しよう。そこに頼む」

「承知しました」

 俺は、ノワゼリア侯爵が準備した部屋に転移魔法陣を設置した。

「アレスよ、これは誰でも使えるのか?」

「いえ。特殊な指輪か腕輪を装着していないと、使用できない仕組みになっています」

「そうか。では私の分だけ作って――」

「お父様! 私もエヴァルシアに参りますわ!」

 元気そうな、俺と同じくらいの年頃の少女が姿を現した。
 あれ? ノワゼリア侯爵の娘は一人だったはずだが……。

「リュシエル、遊びに行くわけではない。仕事で行くのだぞ」

「もちろん承知しております。侯爵の娘として、せめて隣町の状況くらい把握しておく必要がありますもの。勉強にもなりますし」

 侯爵は頭を抱えた。

「アレス、すまないが娘の分の指輪も作ってくれ。こう言い出すと、最近はまったく聞かなくてな……」

「承知しました」

 作る分には構わない。
 リュシエル……リュシエル?
 あの王城のパーティーで、休憩室に悲しそうに身を潜めていたリュシエルか?

 よく見れば確かに面影はある。だが、背中まであった髪は短く切られ、表情も明るく活発で、腰には剣を帯びている。その姿は、まるで別人だった。

「ヒカル殿の真似をし始めたと思ったら、急にお転婆になってしまってな……明るくなったのは嬉しいが、ここまで活発にならなくてもよかったのに……」

 ノワゼリア侯爵がぼやいていると、〈気配察知〉に引っかかったのか、ヒカルが勢いよく飛び込んできた。

「アレス!」

 そう叫ぶなり、俺に抱きついてキスをするヒカル。この子は人前だろうと、まったく気にしないらしい。

「ヒカル、侯爵も見ているから……」

 なんとか宥めたが、侯爵は目を丸くし、リュシエルは顔を真っ赤にしていた。

「ヒカル、ここにエヴァルシアとの転移魔法陣を設置した。明日からは、自由に行き来できるぞ」

「ありがとう、アレス!」

 せっかく落ち着かせたのに、また抱きついてキスをしてくる。再び宥める羽目になった。

「侯爵、今からエヴァルシアへ向かわれますか?」

「いや、部下にも説明してからだ。午後に向かおう」

「わかりました。では、指輪だけ先にお渡しします」

 俺はノワゼリア侯爵用とリュシエル用の指輪を手渡した。

「セレナ、どうする? 先に戻るか?」

「いいえ。私は侯爵様をご案内するから、一緒に戻るわ」

「了解。じゃあ俺は先に帰る。ヒカルも、あとでな」

「うん、アレス。またね」

 こうして俺は、一足先にエヴァルシアへ戻った。

 ◇

 エヴァルシアに戻ると、シアの家族とリオナの家族が、ちょうど出かけようとしているところだった。俺は声をかけた。

「どちらへ行かれるのですか?」

「ああ、娘たちからダンジョンの話を聞いてな。一度潜ってみようかと――」

「皆さん、自分たちが不法入国者だという自覚はありますか? 捕まって牢に入れられても、文句は言えない立場なんですよ。その問題が解消されるまで、外出は禁止です」

「ふざけるな! ずっと屋敷に閉じ込めておくつもりか!」

「そうです。今まさに、その状況を解消するためにセレナが動いています。それを無駄にするつもりですか? 自分たちがどれほどわがままを言っているのか、理解していますか? どうしても納得できないなら、力づくでリーファリアに送り返します。文句があるなら、あちらへどうぞ。今度は本気で相手をします」

 俺は屋敷の外の庭を指さした。

「くっ、いつまで待てばいいのだ?」

「午後からノワゼリア侯爵がこちらに来られます。あなた方と面談し、問題ないと判断されれば、一時滞在許可証が発行されるでしょう。ただし、今の態度のままでは絶対に無理です」

「なぜだ?」

「まず、自分たちが本来ここに居てはいけない立場だということを理解してください。今やっているのは、ただのわがままで法を無視している行為です。それを自覚していますか?」

 彼らは黙り込んだ。

「エヴァルシアにいなければならない正当な理由はありません。春まで過ごすなら、リーファリアでも問題ないからです。ただのわがままでしかないんです。上から目線で命令する態度では、許可など出るはずがありません」

「……では、どうすればいい?」

「ノワゼリア侯爵にお願いしてください。『春までエヴァルシアに滞在させてほしい』と、頭を下げるんです。それができないなら、諦めてください」

「もし、許可が出なかったら?」

「俺が力づくで、皆さんをリーファリアへ連れて行きます」

 しばらく考えた末、代表してシアの父親が口を開いた。

「わかった……お願いしてみる」

 とりあえず、彼らには部屋へ戻ってもらうことにした。
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