百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

142 学び育つ街と行方知れずの副団長

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 午後から行われたノワゼリア侯爵とシアの家族、そしてリオナの家族との面談には、俺は参加していない。だが結果として、彼らには一時滞在許可証が発行されたそうだ。
 では、その間俺は何をしていたのかというと――。

「アレス! あれは何?」

「あれは学校です。満六歳から満十二歳までの子供たちに勉強を教える施設で、エヴァルシアでは“小学校”と呼んでいます」

 ノワゼリア侯爵の一人娘、リュシエルを連れて、エヴァルシアの各所を案内して回っていた。
 護衛としてヒカルとミリアも同行しているため、四人での見学だ。もっとも、ヒカルもミリアもエヴァルシアを見るのは初めてなので、護衛というよりはリュシエルと一緒に観光しているような雰囲気だった。

「少し見学できるかしら?」

「今は午後なので、満十三歳以上の人たちが読み書きや計算を習っている時間ですね。満六歳から満十二歳の生徒は、隣の武術練習場か魔術練習場にいますよ」

「どちらも見たいわ」

 そう言うリュシエルの希望に応え、まずは十三歳以上を対象とした授業の様子を見せることにした。

「住民が自ら学ぶことを選択するなんて、とても良い傾向ですわね。他の街でも、このようになればよろしいのに」

「それは、すぐには難しいかもしれません。我々は教師に恵まれましたが、普通の街でこのレベルの教師を揃えるのは簡単ではないでしょう。少しずつ増やしていくしかありません」

「そうですわね。できる限り学べる環境を整え、それを利用してもらえるようにする……今はそれしかないのかもしれませんわ」

 意外と言ったら失礼かもしれないが、リュシエルは年相応以上に、物事をよく考えているようだった。

 続いて武術練習場を見学したのだが、驚いたのはリュシエルよりもヒカルとミリアのほうだった。ヒカルが声を上げる。

「アレス、ここの子供たち、強すぎない? 全員スキルレベル4は持っているよね? これ、普通に侯爵家の騎士団の一般兵レベルだよ……」

 腕輪の影響で、子供たちのスキル経験値は驚くほどの速度で蓄積される。五日もあればレベル4に到達できるのだ。
 驚きで言葉を失っていたリュシエルも、ようやく口を開いた。

「あんなに小さな子たちでも、私よりずっと強いとわかりますわ。私も、あれくらい強くなりたいです」

「リュシエル様は、なぜ強くなりたいのですか?」

「私はこれまで、守られるだけの存在でした。でも、私も誰かを助けられるだけの力を身につけたいのです。それが〈剣術〉でなくても構わないことは承知しています。ただ、せめて自分の身くらいは守れるようになりたいのです。……もう、守られているだけの存在ではいたくありません」

「そうですか。でしたら……この腕輪を、常につけておいてください。スキルの成長を促してくれるはずです」

 それは、エヴァルシアの住民に配布している〈全スキル経験値アップS〉、〈無詠唱〉、〈強靭〉、〈魔力常時回復〉が付与された腕輪だ。

「この腕輪は、リュシエル様にしか使えないように設定しています。他の方に貸したりしないでくださいね」

「わ、わかりましたわ」

 リュシエルがどこを目指すのかはわからない。だが、この腕輪が、彼女が目指す自分に近づく一助になれば、それでいい。


 さらに鍛冶工房などの生産区を案内しようとしたところで、セレナから〈念話〉が入った。

『侯爵がお帰りになるそうよ。リュシエル様を連れてきて』

『了解』

 俺はリュシエルのほうを振り向いて告げる。

「リュシエル様、侯爵がお帰りになるそうです。この続きは、また今度時間があるときに」

「残念ですが、仕方ありませんわね。屋敷に戻りましょう。……それにしても、この馬車、まったく揺れませんわね。このこと、父上はご存じなのかしら?」

「まだ販売はしていませんから、ご存じないかもしれません。よろしければ、侯爵に勧めておいてください」

「わかりましたわ」

 その後、侯爵とリュシエルは転移魔法陣で領都ヴァルグラントへと帰っていった。その際、森で我が物顔だった貴族、モルドレイの娘――アナスタシアも一緒だった。

「あれ? アナスタシアは侯爵に預けたの?」

「ええ。このままエヴァルシアに置いておくと、住民の反発もあって外に出せないもの。侯爵が、養子を欲しがっている貴族を知っているそうで、アナスタシアの希望を聞きながら調整してくれるそうなの。だから、お任せしたわ」

 たしかに、アナスタシアは別の土地でなら、自由に暮らせるかもしれない。
 しかし、セレナは少し疲れた様子で、話題を変えた。

「アレス、私、ついさっき男爵になっちゃったわ。侯爵には男爵まで任命する権限があるんですって。それに、エヴァルシアはもう村じゃなくて、街扱いになったの。ある程度完成したら、今度は国から子爵に叙されるのも確実らしくて……」

「おお、出世街道まっしぐらだね」

「私は、別に出世したいわけじゃないのよ……」

 ◇

 屋敷に戻ると、リディアが待っていた。

「アレスさま、少しお話があるのですが」

「ああ、リビングのソファで大丈夫?」

「はい。では、そちらで」

 ソファに腰を下ろすと、リディアが静かに話し始めた。

「以前、私の騎士団に所属していたロゼリア、マルティナ、ブリジットの三人によると……実はもう一人、森に住んでいる人物がいるらしいのです」

「え? 本当に? あの辺りは〈気配察知〉でも特に引っかからなかったぞ」

「ええ。かなり離れた場所にいるようで、目撃されたのも七年間で三回ほどだそうです」

「へえ……どんな人なんだ?」

「私が率いていた騎士団の、副団長だった女性です」

 リディアが率いていた『戦乙女ヴァルキュリア騎士団』は、名前こそ騎士団だが、実際に戦える力を持っていたのはリディアとその副団長だけだった。本来の役目は、戦場での“応援団”のような存在である。
 そのため、常に最前線よりも少し後方に配置され、基本的には安全な場所にいる騎士団だった。

 ある日、軍として偵察任務が発生した。しかし人員を出せる隊がなく、偵察を得意としていた『戦乙女ヴァルキュリア騎士団』の副団長が単独で向かうことになったという。
 だが、リディアが副団長を見たのはそれが最後だった。副団長は帰ってこなかった。

 そして一週間後、本来は後方にいるはずの『戦乙女ヴァルキュリア騎士団』が、ピンポイントで敵部隊の襲撃を受けた。
 その部隊は、地元の者ですらほとんど知らない山道を越えて現れたという。

 攻撃を想定していなかった騎士団と、その周囲の護衛部隊は大混乱に陥り、一気に壊滅状態となった。
 リディアは孤軍で殿しんがりを務め、可能な限り『戦乙女ヴァルキュリア騎士団』の少女たちを逃がしたのだ。

「つまり……その人を探したい、ということか?」

「はい。その通りです」

 ◇

 翌日。
 俺はドラゴンの姿となり、背中にリディアを乗せて森の上空を飛んでいた。

『うーん……魔物の気配はちょこちょこあるけど、ヒューマンは見つからないな』

『あの三人によると、この方角で間違いないそうなのですが』

 うーむ。すでにかなり離れていると思うんだが……。
 ――いや、待て。

『これ、常に〈気配遮断〉しているんじゃないか? 〈魔力感知〉に切り替えよう』

『承知しました』

 〈魔力感知〉に切り替えると、かすかにヒューマンのものと思しき魔力反応を捉えた。

『リディア、北東方向だ。岩山の……おそらく洞窟の中にいる』

『たしかに、そこに反応があります!』

 俺たちは、その岩山にある洞窟へと向かった。
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