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第五章 傷痕に触れる指
二十七話 同じ痛み 2
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無意識なのだろう。赫燕の指が、胸元の紫水晶に触れた。まるで、そこに焼き付いた誰かの体温を確かめるように。
彼の眉根がほんのわずかに寄り、杯を持ったままのその指は、強く、白くなるほど握りしめられる。赫燕は、杯を口元に運びながらも、口をつけずに、唇を引き結んだ。
姉の顔が鮮やかに蘇る。守れなかった、たった一人の大切な存在。姉の衣の赤色と、自分の唇から滴り落ちた雫の赤色が、今も脳裏にこびりついている。
「……お頭」
目の前の男を覆っていた恐怖の輪郭が、少しずつ揺らいでいく。彼が放つ圧倒的な闇の奥に、自分と同じ、決して癒えることのない傷跡が見える。
胸の奥で早鐘を打っていた心の臓の音が、ふと、その律動を変えた。けたたましく騒ぐでもなく、恐怖に慄くでもなく、どこか、じくりと疼くような痛みを抱えながら刻んでいる。復讐を誓ったあの日から、腹の奥で燃え盛っている冷たい炎が、ゆらりと強く揺らめいた。
赫燕は、それきり口を閉ざしてしまった。
盤面は、すでにどちらの王も裸同然。互いを睨み合うだけの膠着状態。勝者も、敗者も、いない。盤上にあるのは、散らばる無数の駒の屍だけ。
激しい雨音と、重苦しい沈黙が満ちている天幕の中で、言葉少なに、二人は傍らにあった杯を干した。こつり、と陶器が卓に置かれる、乾いた音。その音だけが、雨音の合間に、やけに大きく響いた。
夜が更けても、雨足は強まるばかりで、外へ出ることは叶わなかった。やがて、雨音に閉じ込められるようにして、玉蓮は隅に積まれた獣の毛皮の上に身を寄せた。
目を閉じても、赫燕の瞳に宿る昏い光が蘇る。それは、自らの胸の奥で燻る、決して消えることのない痛みと、あまりにもよく似ていた。
彼の眉根がほんのわずかに寄り、杯を持ったままのその指は、強く、白くなるほど握りしめられる。赫燕は、杯を口元に運びながらも、口をつけずに、唇を引き結んだ。
姉の顔が鮮やかに蘇る。守れなかった、たった一人の大切な存在。姉の衣の赤色と、自分の唇から滴り落ちた雫の赤色が、今も脳裏にこびりついている。
「……お頭」
目の前の男を覆っていた恐怖の輪郭が、少しずつ揺らいでいく。彼が放つ圧倒的な闇の奥に、自分と同じ、決して癒えることのない傷跡が見える。
胸の奥で早鐘を打っていた心の臓の音が、ふと、その律動を変えた。けたたましく騒ぐでもなく、恐怖に慄くでもなく、どこか、じくりと疼くような痛みを抱えながら刻んでいる。復讐を誓ったあの日から、腹の奥で燃え盛っている冷たい炎が、ゆらりと強く揺らめいた。
赫燕は、それきり口を閉ざしてしまった。
盤面は、すでにどちらの王も裸同然。互いを睨み合うだけの膠着状態。勝者も、敗者も、いない。盤上にあるのは、散らばる無数の駒の屍だけ。
激しい雨音と、重苦しい沈黙が満ちている天幕の中で、言葉少なに、二人は傍らにあった杯を干した。こつり、と陶器が卓に置かれる、乾いた音。その音だけが、雨音の合間に、やけに大きく響いた。
夜が更けても、雨足は強まるばかりで、外へ出ることは叶わなかった。やがて、雨音に閉じ込められるようにして、玉蓮は隅に積まれた獣の毛皮の上に身を寄せた。
目を閉じても、赫燕の瞳に宿る昏い光が蘇る。それは、自らの胸の奥で燻る、決して消えることのない痛みと、あまりにもよく似ていた。
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