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第五章 傷痕に触れる指
二十八話 触れる指 1
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◆
真夜中。玉蓮は、人の呻き声で目を覚ました。嵐の音に混じって聞こえる、苦しげな声。天幕の外では、いまだに激しい雨が打ち付け、雷鳴が遠くで轟いている。
その呻き声の元を探して寝台の上へ視線を向ければ、あの赫燕が苦しみに身を捩っていた。
(……お頭?)
玉蓮は起き上がり、足音を立てぬように、滑るように寝台に近づく。嵐の夜の闇が、彼の輪郭を曖昧にしているが、その苦しみの表情だけは、はっきりと見て取れた。己の喉から、声にならぬ音が漏れる。
「——っ」
「……ち、ちち、うえ……城が……!」
汗で濡れた髪が額に張り付き、その表情は歪んでいる。深い皺が刻まれた眉間は固く寄せられ、苦痛の色に染まっている。苦しそうな吐息とともに目の前の男の目尻から水滴が流れ、大きな手が何かを求めるように、胸元で揺らめく紫水晶を握りしめた。
「……燃え…………そげつ……!」
彼の口から紡がれるその音が、玉蓮の耳朶を打ち、脳裏にこだまする。
(……ああ、これは)
気が付けば、玉蓮は寝台の傍らで、彼の汗濡れた額に手を伸ばしていた。ただ、この男の傷に、痛みに、触れてみたかった。自分のそれに触れるように。
その指先が、彼の肌に触れるか触れないかの、その刹那。赫燕の目がカッと見開いた。
——ガッ!
「——っ!」
世界が反転した。
玉蓮の体は寝台に押し付けられ、太い指が喉元に食い込む。赫燕の瞳は開いているが、そこにあるのは虚無と殺意だけ。玉蓮ではない、誰か、敵を見ている目。
「——何してやがる!」
「……ぁ、お……か……」
喉にめり込む手に己の手を重ねたその時、天幕を揺るがすほどの雷鳴が轟いた。玉蓮の体が、びくりと震えると、赫燕の瞳の焦点が結ばれ、そこから殺気が霧散する。
首を絞めていた手がふっと緩む。玉蓮は、肺を必死に動かして喘ぐように咳き込みながら息をした。ぜいぜいと喉がなる。
彼は一度、大きく息を吐くと、糸が切れたように玉蓮の上に崩れ落ちた。のしかかる、男の身体。初めての重さと熱さに、玉蓮の心の臓がドクンと大きく跳ねる。
「なんなんだ、お前は」
「っ……うなされて、いた、からっ」
「……クソ」
赫燕は玉蓮の横にゴロリと横たわり、そしてまた、呼吸を整えるように深く重い息をつく。
玉蓮は体を起こして、赫燕を見下ろした。闇をぼんやりと見ていた瞳が向けられる。睨んでもいない。嘲ってもいない。——少しだけ悲しみを帯びた瞳。
彼の額に張り付いた髪をそっと払う。その熱い肌に触れる指先から、微かな痺れが走るような感覚が玉蓮の全身を駆け巡る。赫燕は、何も言わずに、玉蓮を見つめている。
後宮で見てきた、白粉と香の匂いをさせた宦官や、柔らかな絹の衣をまとった文官たちとは、何もかもが違う。
真夜中。玉蓮は、人の呻き声で目を覚ました。嵐の音に混じって聞こえる、苦しげな声。天幕の外では、いまだに激しい雨が打ち付け、雷鳴が遠くで轟いている。
その呻き声の元を探して寝台の上へ視線を向ければ、あの赫燕が苦しみに身を捩っていた。
(……お頭?)
玉蓮は起き上がり、足音を立てぬように、滑るように寝台に近づく。嵐の夜の闇が、彼の輪郭を曖昧にしているが、その苦しみの表情だけは、はっきりと見て取れた。己の喉から、声にならぬ音が漏れる。
「——っ」
「……ち、ちち、うえ……城が……!」
汗で濡れた髪が額に張り付き、その表情は歪んでいる。深い皺が刻まれた眉間は固く寄せられ、苦痛の色に染まっている。苦しそうな吐息とともに目の前の男の目尻から水滴が流れ、大きな手が何かを求めるように、胸元で揺らめく紫水晶を握りしめた。
「……燃え…………そげつ……!」
彼の口から紡がれるその音が、玉蓮の耳朶を打ち、脳裏にこだまする。
(……ああ、これは)
気が付けば、玉蓮は寝台の傍らで、彼の汗濡れた額に手を伸ばしていた。ただ、この男の傷に、痛みに、触れてみたかった。自分のそれに触れるように。
その指先が、彼の肌に触れるか触れないかの、その刹那。赫燕の目がカッと見開いた。
——ガッ!
「——っ!」
世界が反転した。
玉蓮の体は寝台に押し付けられ、太い指が喉元に食い込む。赫燕の瞳は開いているが、そこにあるのは虚無と殺意だけ。玉蓮ではない、誰か、敵を見ている目。
「——何してやがる!」
「……ぁ、お……か……」
喉にめり込む手に己の手を重ねたその時、天幕を揺るがすほどの雷鳴が轟いた。玉蓮の体が、びくりと震えると、赫燕の瞳の焦点が結ばれ、そこから殺気が霧散する。
首を絞めていた手がふっと緩む。玉蓮は、肺を必死に動かして喘ぐように咳き込みながら息をした。ぜいぜいと喉がなる。
彼は一度、大きく息を吐くと、糸が切れたように玉蓮の上に崩れ落ちた。のしかかる、男の身体。初めての重さと熱さに、玉蓮の心の臓がドクンと大きく跳ねる。
「なんなんだ、お前は」
「っ……うなされて、いた、からっ」
「……クソ」
赫燕は玉蓮の横にゴロリと横たわり、そしてまた、呼吸を整えるように深く重い息をつく。
玉蓮は体を起こして、赫燕を見下ろした。闇をぼんやりと見ていた瞳が向けられる。睨んでもいない。嘲ってもいない。——少しだけ悲しみを帯びた瞳。
彼の額に張り付いた髪をそっと払う。その熱い肌に触れる指先から、微かな痺れが走るような感覚が玉蓮の全身を駆け巡る。赫燕は、何も言わずに、玉蓮を見つめている。
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