闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

文字の大きさ
65 / 159
第六章 首輪の在り処

三十四話 揺れ動く熱 2

しおりを挟む
「あっ……や、ぁ」

 赫燕の体は、己の言葉を裏切るように、玉蓮を寝台へと押し倒す。衣の下から滑り込んだ指が、玉蓮の肌を這い、熱い痕を残していく。

 玉蓮の喉からは、か細いあえぎが漏れ、彼の熱い吐息が首筋を撫でるたびに、全身が粟立つ。身体は、正直に、そして愚かなほど素直に、その熱を受け入れる準備を始めてしまう。

 つい先ほどまで受け入れていたその熱い体躯。再び受け入れれば、蜜を求める花のように開いていく。

「……玉蓮……は、」

 赫燕の熱が玉蓮の芯を捉え、互いの境界が溶け合うたびに、抗うことのできない悦びが貫いた。赫燕の荒い息遣いが耳元をくすぐり、熱い指先が肌を這う。そのたびに、玉蓮の身体はさらに熱を帯び、意識は朦朧もうろうとしていく。

「玉蓮……ぎょく、れん」

 その低い声が玉蓮の心の臓に深く染み渡る。優しい声色で名前を呼ぶくせに、その瞳は、深く昏い光を宿している。彼に向けて手を伸ばしたいのに、大きなその手で押さえつけられる。

 赫燕の唇が、何度も何度も玉蓮の白い首筋を這い、吐息と共にその肌に鮮やかな跡を残していく。首筋を熱い舌がなぞり、甘く噛まれるたびに、玉蓮の体は震え、吐息が漏れた。

「……くな……っ」

 あえぎに混じって、懇願するような、命令するような、途切れた言葉が耳元で響いた。

(今……)

 赫燕の熱い眼差まなざしが玉蓮の瞳を捉え、互いの呼吸が混じり合う。彼の重みが玉蓮の上にのしかかり、熱い雫が玉蓮の肌を滑り落ちる。それは赫燕の汗なのか、それとも玉蓮の涙なのか、もはや区別がつかなかった。





 玉蓮はそっと天幕を後にした。身体に残る赫燕の熱を抱えたまま、一人で野営地を歩く。

 すれ違う兵士たちが彼女を見て、何かを喉に詰まらせたかのように、はっと息を呑み、足を止める。彼らの視線が、首筋や襟元に吸い寄せられ——次の瞬間、弾かれたようにらされた。まるで、触れてはいけない「禁忌」を見るような目。

 己から立ち上る濃厚な伽羅きゃらの香りが、彼らを怯えさせているのだと気づき、いたたまれずに顔を伏せた。

 そして、足早に歩を進めて向かうのは、朱飛の天幕。入り口の前で、掠れた声で彼の名を呼べば、すぐに幕が勢いよく開けられる。

「玉蓮? どうした」

 朱飛の視線が、顔から首筋へと滑り落ちる。そこで、彼の目が大きく見開かれた。じっと一点を凝視した後、苦しげに眉根を寄せ、ふいっと顔を背ける。

「……お頭は?」

 絞り出すような朱飛の声。

「戻っていい、と……」

 その言葉を最後に、玉蓮の足から力が抜けた。張り詰めていた何かが、ぷつりと音を立てて切れる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さくなった夫が可愛すぎて困ります

piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。 部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。 いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。 契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。 「おい、撫でまわすな!」 「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」 これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。 そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語 ※完結まで毎日更新 ※全26話+おまけ1話 ※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。 ※他サイトにも投稿

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...