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第七章 臨万城の嵐
五十二話 漆黒の竜巻 1
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◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇
戦場の只中。玉蓮たちは、迫りくる玄済兵の猛攻を相手に、必死の防戦を繰り広げていた。
剣と剣がぶつかり合う音が耳を打ち、兵士たちの叫び声が、あたりに反響する。血が一面に飛び散り、肉を断つ鈍い湿った音が響く中、味方が一人、また一人と無残に倒れていく。辺りは、敵味方の区別もつかぬ死体で埋め尽くされようとしていた。
「おい、玉蓮」
「俺たち、本当にそろそろ終わりかもな」
ぶつかりあった背中同士を支えにしながら、大地をなんとか踏みしめる。
肌を伝っていく、汗と血。迫りくる玄済兵の波。満身創痍の体。もう、何人斬ったのかわからない。
「みんな、悪い」
玉蓮の口から、掠れた声が漏れる。
「謝んな。お前の勝手な性格は、お頭と朱飛さん譲りだ」
目を見合わせる玉蓮と隊の面々の顔に、笑みが浮かぶ。
(必ず戻ると言ったのに——)
玉蓮は、己が踏みしめる大地に視線を落として再び前を見据えると、更に笑みを深めた。
「確かに。では——」
「あ?」
「——みんな、私と一緒に死んでくれるか」
自分の声があり得ないほどに明るく、澄んでいる。腹の底から歓喜にも似た何かが込み上げてくる。この地獄の盤面すらも、ただの遊戯盤として不遜に嘲笑う、あの昏く、そしてあまりにも自由な光が、今、確かに己の胸に宿っている。
「クソが! 当たり前だ!」
「最後に、お頭と朱飛さんに会いたかったけどな」
「……私もだ」
誰かが、自らの剣の柄頭で胸の甲冑を力強く、一度だけ叩いた。カーン、と、乾いた音が響く。それに呼応するように、次々と同じ音が続く。
「行こう」
玉蓮もまた、自らの胸を強く叩いた。
獰猛な笑みを浮かべて、ゆらりと剣を構え直した。腕をぬるりと返り血が伝っていく。疲労で鉛のように重いはずの体が、最後の炎を燃やすように動く。
玄済兵の容赦ない猛攻を紙一重で捌きながら、敵を屠る。少しずつ手足の感覚は麻痺し始め、剣を握る手は意思に反して小刻みに震える。額からは冷たい汗がとめどなく流れ落ち、視界は霞み、思考は鈍る。
もはや自分の意思で動いているという感覚さえ希薄になり、本能と鍛えた肉体が、自動的に動き続けているかのようだった。
次の瞬間。夜風を裂く鋭い音と共に、一本の矢が音もなく忍び寄り、玉蓮の胸元へ吸い込まれるように飛来した。矢を切ろうとした剣が空を切る。
「くっ!」
「玉蓮!!!」
(当たる——!)
——ゴンッ!
胸元で何かが砕け散る、鈍い衝撃が走った。恐る恐る、そこを見れば、懐に忍ばせていた、木の守り鳥が矢を受け止め、無残に砕けていた。
「……あ、姉上」
玉蓮は、砕けて割れたその残骸を左手で押さえた。
「ちっ、外れたか。まあ、あとは護衛と女だけだ」
玄済兵の一人が、嘲るように言った。
「おい。もう矢はやめろ。これ以上、顔も身体も傷つけんな。生け捕りだ」
別の兵士が獲物を前にした猟犬のように興奮した声で周りの兵士に告げる。彼らの視線が、玉蓮に集中する。捕らわれれば、恥辱に塗れた未来が待っている。敵の手に堕ちる前に——。
「玉蓮、最後まで足掻け。だが……」
「わかってる」
肩に深々と刺さった矢の痛みは、すでに感覚の彼方へと消え去っていった。剣を握りしめているはずの右手にも、その確かな重みはもはや伝わってこない。視界は濃い霧に覆われたように、もはや影のみを映している。それほどに、死が、目の前にある。
「姉上……」
玉蓮が死を覚悟して、そう呟いた刹那——。
「——どけ、雑魚ども」
聞き慣れた低い声が、玄済兵の後方から響き渡った。
戦場の只中。玉蓮たちは、迫りくる玄済兵の猛攻を相手に、必死の防戦を繰り広げていた。
剣と剣がぶつかり合う音が耳を打ち、兵士たちの叫び声が、あたりに反響する。血が一面に飛び散り、肉を断つ鈍い湿った音が響く中、味方が一人、また一人と無残に倒れていく。辺りは、敵味方の区別もつかぬ死体で埋め尽くされようとしていた。
「おい、玉蓮」
「俺たち、本当にそろそろ終わりかもな」
ぶつかりあった背中同士を支えにしながら、大地をなんとか踏みしめる。
肌を伝っていく、汗と血。迫りくる玄済兵の波。満身創痍の体。もう、何人斬ったのかわからない。
「みんな、悪い」
玉蓮の口から、掠れた声が漏れる。
「謝んな。お前の勝手な性格は、お頭と朱飛さん譲りだ」
目を見合わせる玉蓮と隊の面々の顔に、笑みが浮かぶ。
(必ず戻ると言ったのに——)
玉蓮は、己が踏みしめる大地に視線を落として再び前を見据えると、更に笑みを深めた。
「確かに。では——」
「あ?」
「——みんな、私と一緒に死んでくれるか」
自分の声があり得ないほどに明るく、澄んでいる。腹の底から歓喜にも似た何かが込み上げてくる。この地獄の盤面すらも、ただの遊戯盤として不遜に嘲笑う、あの昏く、そしてあまりにも自由な光が、今、確かに己の胸に宿っている。
「クソが! 当たり前だ!」
「最後に、お頭と朱飛さんに会いたかったけどな」
「……私もだ」
誰かが、自らの剣の柄頭で胸の甲冑を力強く、一度だけ叩いた。カーン、と、乾いた音が響く。それに呼応するように、次々と同じ音が続く。
「行こう」
玉蓮もまた、自らの胸を強く叩いた。
獰猛な笑みを浮かべて、ゆらりと剣を構え直した。腕をぬるりと返り血が伝っていく。疲労で鉛のように重いはずの体が、最後の炎を燃やすように動く。
玄済兵の容赦ない猛攻を紙一重で捌きながら、敵を屠る。少しずつ手足の感覚は麻痺し始め、剣を握る手は意思に反して小刻みに震える。額からは冷たい汗がとめどなく流れ落ち、視界は霞み、思考は鈍る。
もはや自分の意思で動いているという感覚さえ希薄になり、本能と鍛えた肉体が、自動的に動き続けているかのようだった。
次の瞬間。夜風を裂く鋭い音と共に、一本の矢が音もなく忍び寄り、玉蓮の胸元へ吸い込まれるように飛来した。矢を切ろうとした剣が空を切る。
「くっ!」
「玉蓮!!!」
(当たる——!)
——ゴンッ!
胸元で何かが砕け散る、鈍い衝撃が走った。恐る恐る、そこを見れば、懐に忍ばせていた、木の守り鳥が矢を受け止め、無残に砕けていた。
「……あ、姉上」
玉蓮は、砕けて割れたその残骸を左手で押さえた。
「ちっ、外れたか。まあ、あとは護衛と女だけだ」
玄済兵の一人が、嘲るように言った。
「おい。もう矢はやめろ。これ以上、顔も身体も傷つけんな。生け捕りだ」
別の兵士が獲物を前にした猟犬のように興奮した声で周りの兵士に告げる。彼らの視線が、玉蓮に集中する。捕らわれれば、恥辱に塗れた未来が待っている。敵の手に堕ちる前に——。
「玉蓮、最後まで足掻け。だが……」
「わかってる」
肩に深々と刺さった矢の痛みは、すでに感覚の彼方へと消え去っていった。剣を握りしめているはずの右手にも、その確かな重みはもはや伝わってこない。視界は濃い霧に覆われたように、もはや影のみを映している。それほどに、死が、目の前にある。
「姉上……」
玉蓮が死を覚悟して、そう呟いた刹那——。
「——どけ、雑魚ども」
聞き慣れた低い声が、玄済兵の後方から響き渡った。
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