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第七章 臨万城の嵐
五十二話 漆黒の竜巻 2
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振り下ろされる敵兵の剣が、ゆっくりと弧を描く。飛散する血煙が、空中で静止する。その、あまりに緩慢な地獄絵図の中を、ただ一人。違う時間の理で動いているかのように、漆黒の竜巻が凄まじい勢いで駆け抜けていく。
彼が振るうのは、柄頭に龍の彫刻と紫水晶が嵌め込まれた大剣。
それが一閃を放つたびに、風が逆巻くような音が唸り、玄済兵の首が宙を舞い、鮮血が飛び散る。返り血を浴びた紫水晶が、妖しく、美しく煌めいた。まるで、地獄の炎を纏ったように。
あっという間に周りの敵を斬り伏せると、馬が玉蓮の目の前でぴたりと止まった。漆黒の瞳が玉蓮を捉えている。
——赫燕。
荒々しく腕を掴まれ、馬上に引き上げられる。その体を包み込む熱と硬い甲冑の感触。彼の胸元で揺れる首飾りの紫水晶が、カツン、と玉蓮の額に当たる。
「行くぞ」
その声は、戦場の喧騒を打ち破るかのように響き渡った。しかし、その時、将を討たれ、逃げ惑う玄済兵の中から、鬼の形相をした一人の兵士が、玉蓮めがけて斬りかかってきた。
「白楊の犬め、死ねぇ!」
振り下ろされる白刃。赫燕は舌打ちすると同時に、玉蓮を庇うように自らの体を盾にした。
「——ッ!」
甲冑を貫き、肉を断つ鈍く生々しい音が響く。鮮血が甲冑を伝っていく。
「お頭っ!!」
玉蓮の絶叫がこだました。しかし、次の瞬間、赫燕は一振りでその兵士を屠る。
「ッ黙れ。問題ない」
一瞬だけ苦痛に顔を歪ませた赫燕はすぐに表情を元に戻すと、むしろ玉蓮を睨みつけた。その眼差しには、不敵な光が宿っている。
「手間かけやがって」
「おか……」
「死ぬ覚悟なんか、してんじゃねえぞ」
玉蓮を抱く腕は、折れそうなほど力強い。背中を撫でる指先は、ひどく、優しい。
「——ッ」
その、あまりにも矛盾した温もりに、玉蓮は、たまらず彼の首にしがみついた。玉蓮の鼻先をあの伽羅の香がかすめ、熱い汗と血の匂いが混じり合い、玉蓮の全身を包み込む。
「落ちるなよ」
馬を駆りながら、低い声で命じる。風を切り裂く音と共に、景色が背後へと流れていく。
「——はい」
玉蓮はしっかりと彼の体に己を預け力強く頷いた。彼の胸に顔を押し付け、目を閉じた。遠くで聞こえる、追っ手の叫び声が少しずつ遠ざかっていく。
彼が振るうのは、柄頭に龍の彫刻と紫水晶が嵌め込まれた大剣。
それが一閃を放つたびに、風が逆巻くような音が唸り、玄済兵の首が宙を舞い、鮮血が飛び散る。返り血を浴びた紫水晶が、妖しく、美しく煌めいた。まるで、地獄の炎を纏ったように。
あっという間に周りの敵を斬り伏せると、馬が玉蓮の目の前でぴたりと止まった。漆黒の瞳が玉蓮を捉えている。
——赫燕。
荒々しく腕を掴まれ、馬上に引き上げられる。その体を包み込む熱と硬い甲冑の感触。彼の胸元で揺れる首飾りの紫水晶が、カツン、と玉蓮の額に当たる。
「行くぞ」
その声は、戦場の喧騒を打ち破るかのように響き渡った。しかし、その時、将を討たれ、逃げ惑う玄済兵の中から、鬼の形相をした一人の兵士が、玉蓮めがけて斬りかかってきた。
「白楊の犬め、死ねぇ!」
振り下ろされる白刃。赫燕は舌打ちすると同時に、玉蓮を庇うように自らの体を盾にした。
「——ッ!」
甲冑を貫き、肉を断つ鈍く生々しい音が響く。鮮血が甲冑を伝っていく。
「お頭っ!!」
玉蓮の絶叫がこだました。しかし、次の瞬間、赫燕は一振りでその兵士を屠る。
「ッ黙れ。問題ない」
一瞬だけ苦痛に顔を歪ませた赫燕はすぐに表情を元に戻すと、むしろ玉蓮を睨みつけた。その眼差しには、不敵な光が宿っている。
「手間かけやがって」
「おか……」
「死ぬ覚悟なんか、してんじゃねえぞ」
玉蓮を抱く腕は、折れそうなほど力強い。背中を撫でる指先は、ひどく、優しい。
「——ッ」
その、あまりにも矛盾した温もりに、玉蓮は、たまらず彼の首にしがみついた。玉蓮の鼻先をあの伽羅の香がかすめ、熱い汗と血の匂いが混じり合い、玉蓮の全身を包み込む。
「落ちるなよ」
馬を駆りながら、低い声で命じる。風を切り裂く音と共に、景色が背後へと流れていく。
「——はい」
玉蓮はしっかりと彼の体に己を預け力強く頷いた。彼の胸に顔を押し付け、目を閉じた。遠くで聞こえる、追っ手の叫び声が少しずつ遠ざかっていく。
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