闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第八章 別離の衣

六十二話 別れの匕首 1

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◇◇◇

 輿入れの日。玉蓮は、送り届けられた豪華ごうか絢爛けんらんな衣を身にまとっていた。幾重いくえにも重ねられた、血のように赤い絹の衣が、ずしりと重い。肌に触れるその感触は、柔らかいはずなのに、なぜか、冷たい鎖のよう。

 鏡に映る自分の姿は、死地へと送られる人形だった。


 玄済げんさい国へ出発する、その直前。彼女の前で、一室の扉が、師である劉義りゅうぎの言葉とともに静かに開かれた。

「——最後に、古巣の者たちと挨拶を交わすことぐらい、許されるだろう」

 視線の先、部屋の中には、大連合軍を退けた戦功に対する褒賞ほうしょうのために、雛許すうきょに呼び出されていた、赫燕かくえんとその幹部たちがいた。彼らは、これから玉蓮が向かう国の兵士たちを、誰よりも多くほふった男たち。

 その男たちが今、彼女の最後の別れの相手として、そこにいた。

 劉義が部屋の奥にいる男に視線を投げ、呼びかける。

「赫燕……」

 だが、相手は答えない。

「最後のときだ」

 劉義を見上げれば、微笑ほほえみと頷きが返される。玉蓮はその部屋の中に進んだ。

 膝を曲げ、礼をする。かんざしの飾りがぶつかって高い微かな音がこぼれた。

「皆様方には、これまで過分かぶんなるご厚情をたまわりましたこと、あつく御礼申し上げます。わたくし、玉蓮は、これより玄済げんさい国へ、嫁ぎ参ります」

 牙門がもんが勢いよく歩み寄ってくると、ぶっきらぼうに、干し肉の詰まった袋を押し付ける。

「腹が減ったら、戦はできねえからな」

 その無骨な優しさに、玉蓮は、こくりと頷く。せつは、玉蓮の肩を強く掴み、「みっともなく死ぬんじゃねえぞ」と大きな目を潤ませながら言った。子睿しえいは、静かに「ご武運を」と頭を下げ、じんは、やれやれと首を振りながら、

「達者でな。お前がいなくなると、お頭の機嫌をとるのがまた面倒になる」

 そう悪態をつく。それに思わず笑っていると、朱飛が一人、彼女の前に進み出た。彼は、何も言わない。ただ、その夜風のように静かな瞳で、じっと見つめている。その眼差しに、玉蓮は思わず視線を逸らしそうになった。

 玉蓮に触れようとした手が、触れることなく止まる。それに応えるように笑えば、朱飛の顔がさらに痛ましく歪められた。
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