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第九章 鮮やかなる桃花
六十五話 王と太后 2
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「玉蓮、そなたを待ちわびていたぞ。先の戦では勝利することはできなかったが、まあ良い。そなたが玄済国に贈られてきたのは、あの戦のおかげだからな」
王が近づいた瞬間、懐に隠した匕首が、まるで呼応するかのように、じり、と熱を帯びる。あの男から与えられた鋼。その切っ先が、今まさに、目の前の王の喉笛に向けられているかのような錯覚。
その揺らめきを悟られぬように、玉蓮は静かに目を伏せる。そして、王が玉蓮に手を伸ばそうとしたその時。
「大王様」
崔瑾が一歩前に出て、玉蓮の腕を優しく引き、自身の背に庇うようにして立つ。玉蓮の視界が、広い背にふいに覆われ、呼吸を一拍だけずらす。だが、玉蓮の瞳は、その向こうに向けられていた。男たちの表情、目線、行動の全てに。
欲望、警戒、優位、恐れ——それらがどの駒に現れているか、冷静に見極めるように。
(なるほど。ここもまた獣の巣、か)
だが、赫燕のあの血と熱の匂いのする巣とは違う。より冷たく、そしてより粘つくような闇が、この玄済国の王宮には渦巻いている。
そして、その闇の中で一人。この崔瑾という男だけが、あまりにも場違いな光を放っている。その背に浮かぶ微かな光を、測るように——いや、計りかねるように——玉蓮は、そっと瞳を細めた。
「お前は、本気で私のものを横から奪う気か」
王の声が、それまでの愉しげな響きを失い、地を這うような低さを帯びた。
「この姫はなりませぬ。大王様に危険が及ぶ者を後宮に入れることは、臣下として反対いたします」
「私の後宮に入れるために贈られたのだぞ」
「申し上げましたとおり、この姫は、白楊国の将でもあったのです。『その武は鬼神の如し』。この姫の初陣で、我が国に入った報告です。剛将さえも、この者に首を取られたのです」
「ならば、すべてを剥がして寄越せ。裸のままで、我が手の中に落ちてくるがいい。それでもきっと……そなたは極上に美しいのだろうな、玉蓮」
王の瞳は、血が走るような光を宿している。その狂気に満ちた視線を浴びて、玉蓮は再び、懐に手を置く。その先にある鋼の冷たさこそが、今や彼女の腹の底に灯る、唯一の炎だった。
冷たい、しかし確固たる意志を宿した瞳で見上げた玉蓮に、王は、恍惚とした表情で、唇の端を醜く吊り上げる。
「まさに、霜輝凜冽。血に浮かぶ白菊のようだ」
たまらぬとでも言いたげに、王は舌で自身の唇をゆっくりとなぞった。その姿は、理性など微塵も感じさせない、欲望に溺れる獣そのもの。玉蓮は、冷徹な視線を崩すことなく前を見据える。
王が近づいた瞬間、懐に隠した匕首が、まるで呼応するかのように、じり、と熱を帯びる。あの男から与えられた鋼。その切っ先が、今まさに、目の前の王の喉笛に向けられているかのような錯覚。
その揺らめきを悟られぬように、玉蓮は静かに目を伏せる。そして、王が玉蓮に手を伸ばそうとしたその時。
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(なるほど。ここもまた獣の巣、か)
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そして、その闇の中で一人。この崔瑾という男だけが、あまりにも場違いな光を放っている。その背に浮かぶ微かな光を、測るように——いや、計りかねるように——玉蓮は、そっと瞳を細めた。
「お前は、本気で私のものを横から奪う気か」
王の声が、それまでの愉しげな響きを失い、地を這うような低さを帯びた。
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冷たい、しかし確固たる意志を宿した瞳で見上げた玉蓮に、王は、恍惚とした表情で、唇の端を醜く吊り上げる。
「まさに、霜輝凜冽。血に浮かぶ白菊のようだ」
たまらぬとでも言いたげに、王は舌で自身の唇をゆっくりとなぞった。その姿は、理性など微塵も感じさせない、欲望に溺れる獣そのもの。玉蓮は、冷徹な視線を崩すことなく前を見据える。
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